ソニーグループのクリエイティブセンターには、中国、シンガポール、英国、スウェーデンに4つの海外拠点がある。各拠点は現地での情報収集、製品やコミュニケーションデザインなどの業務に加え、美術館とのコラボレーションや先行開発など、独自の活動も積極的に展開している。これらがもたらす幅広い知見が、ソニーデザインの“懐の深さ”につながっている。
デザインを取り巻く環境が大きく変わりつつある中、色や形といった狭義のデザインの枠組みを超え、デザインに求められる役割が広がってきている。ソニーグループのクリエイティブセンターが担っているのは、まさにその領域だ。「ソニーだからできるのだ」と思っていたが、実態はそうではなかった。
本連載では、クリエイティブセンターにおいて、デザインがどのようにその領域を広げ、具体的にどんな役割を担っているかを取り上げていく。同時に、デザインとは、企業の独自性や創造性を強化していくうえで必要不可欠な要素であるという、私が長年抱いてきた考えについても検証していきたい。読者の皆さんにとって、何らかのヒントになれば幸いだ。
第10回は、クリエイティブセンターの海外拠点を取り上げる。クリエイティブセンターは、東京以外では、世界の4カ所(中国・上海、シンガポール、英国・ウェイブリッジ、スウェーデン・ルンド)にオフィスを構えている。多様な専門性や国籍のメンバーが籍を置いていて、製品やサービスのデザインをはじめ、先行開発やトレンドリサーチなど、さまざまな仕事に取り組んでいる。今回はその中から、デザインセンター・ヨーロッパについて、どのような活動を行っているのかを、ディレクターである田幸宏崇さんに聞いた。
デザインにまつわる多面的な活動を展開
クリエイティブセンターの海外拠点が担う役割は、現地ビジネスのデザイン面でのサポートに加え、それぞれの地域を土台とした情報の収集や人的ネットワークの構築、それに基づいたプロジェクトや情報発信活動などが含まれる。前号で触れたデザインリサーチにおいても、海外拠点は大きな役割を果たしている。サテライトとして情報収集するにとどまらず、製品デザインやプロモーションのデザインも手がけているし、独自の発信活動も行っている。こういった海外拠点の存在により、クリエイティブセンターとしても、所属するデザイナーたちにしても、グローバルな視点とローカルな視点、双方を併せ持ったワークができるのだと思う。
デザインセンター・ヨーロッパは、英国とスウェーデンの拠点を2019年に統合して1つの組織としたもの。全体のリーダーを担っているのが田幸さんだ。
デザインセンター・ヨーロッパ
活動の領域は大きく4つに分かれる。①マーケティングコミュニケーション、②プロダクトデザイン&アドバンストデザイン、③3DCGアセットクリエイション、④グローバルデザインリサーチだ。「厳密に区分けしているわけではなく、これらをミックスした仕事も手がけています」(田幸さん)。もともと英国は、スペースやプロダクト、コミュニケーションのデザインを得意としていた。一方でスウェーデンは、ソリューション、3DCG、CMFのデザインに強みを持っていた。統合することで、両者の良さを生かしながら、融合した仕事を広げており、これからさらに進化させていきたいという。デザインイベントなどでの企画展をはじめ、オフィスのデザインや店舗のディスプレーなども手がけている。さらには他社のブランディングを請け負うこともあるというから驚く。
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