ソニーグループ クリエイティブセンターの役割の一つに、“未来への視点”がある。クリエイターとしてのアンテナを張り巡らし、変化の兆しを捉え、グループ内に発信することだ。ソニーグループの技術、商品などの「インサイド(社内状況)」と、社会や消費者の動向といった「アウトサイド(外部状況)」──その両方を深く理解したうえで未来の可能性を思索する「DESIGN VISION」について聞いた。

クリエイティブセンターのデザインリサーチ活動は毎年、「DESIGN VISION ANNUAL REPORT(デザインビジョン・アニュアル・リポート)」としてまとめられている。2022年版のテーマは「The Balancing Act=共生とバランスへのアクション」
クリエイティブセンターのデザインリサーチ活動は毎年、「DESIGN VISION ANNUAL REPORT(デザインビジョン・アニュアル・リポート)」としてまとめられている。2022年版のテーマは「The Balancing Act=共生とバランスへのアクション」

 デザインを取り巻く環境が大きく変わりつつある中、色や形といった狭義のデザインの枠組みを超え、デザインに求められる役割が広がってきている。ソニーグループのクリエイティブセンターが担っているのは、まさにその領域だ。「ソニーだからできるのだ」と思っていたが、実態はそうではなかった。

 本連載では、クリエイティブセンターにおいて、デザインがどのようにその領域を広げ、具体的にどんな役割を担っているかを取り上げていく。同時に、デザインとは、企業の独自性や創造性を強化していくうえで必要不可欠な要素であるという、私が長年抱いてきた考えについても検証していきたい。読者の皆さんにとって、何らかのヒントになれば幸いだ。

 第9回は、デザインリサーチについて取り上げる。クリエイティブセンターでは、時代がどのような潮流にあり、今後、デザインがどのような方向に向かうのかについて、10年ほど前から、デザインリサーチとして分析してきた。そのリサーチプロジェクトは「DESIGN VISION(以下、デザインビジョン)」と名づけられ、そのアウトプットは、2018年からは冊子という形で、2022年からはウェブ主体でグループ内に発信している。実物を見せてもらったところ、社会や文化の潮流を視野に入れていて、幅が広いし奥行きも深く、示唆に富む。豊富なビジュアルが盛り込まれているうえに、読み物としても充実している。これをどのようなプロセスで作成し、グループ内でどう使われているのかを聞いた。

「DESIGN VISION」は2018年からは冊子という形で、22年からはウェブ主体でグループ内に発信、活用されている
「DESIGN VISION」は2018年からは冊子という形で、22年からはウェブ主体でグループ内に発信、活用されている
一般の未来予測と異なるのは、ソニーグループの技術、商品などに対する深い理解がベースにあることだ
一般の未来予測と異なるのは、ソニーグループの技術、商品などに対する深い理解がベースにあることだ

ニッチで切れ味のある情報が求められている

 「デザインビジョン」のリサーチリポートに近いものは、さまざまな企業や機関が作成している。デザイントレンド情報として販売している会社が、欧米をはじめ、日本にも存在しているし、コンサルティング会社やシンクタンク、広告代理店なども未来予測を発信している。

 また、米CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)やイタリアのミラノサローネなど、国際的な展示会には「トレンド情報コーナー」が必ず設けられているが、その大半は、未来に向けたデザインの大きな潮流を、ビジュアルとキーワードを組み合わせて読み解いている。

 デザイナーにとって不可欠な情報の一つだが、一企業がオリジナルで作成し、社内で使っている事例はあまり聞かない。なぜクリエイティブセンターは、「デザインビジョン」を策定しているのか。「世の中がどちらに向かっているのかを捉えることが肝要であり、クリエイティブセンター発で、さまざまな部署で使われています」と企画推進グループ 統括課長の大野茂幹さんは言う。

大野 茂幹(おおの しげき)氏
ソニーグループ クリエイティブセンター
2002年 ソニー入社。PCやオーディオ機器のプロダクトデザインを担当。中国(上海)赴任を経て、新規事業の創出とインキュベーション、要素技術R&Dに係わるデザイン開発のマネジメントに携わる。2018年より、企画推進グループ クリエイティブ企画チームのマネジメントを担う

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