ソニーグループの6つの事業領域の1つ、金融領域でも、クリエイティブセンターの存在感が増している。リブランディングプロジェクトからビジョン・バリューのビジュアライズ、テレビCM、さらにはUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)のデザイン……。それらすべてのデザインの根底に、ソニーらしさの源「創造性」や「技術」「感動」がある。

ソニーフィナンシャルグループの新しいビジョン・バリューのビジュアライズを手がけた。これらはソニーグループの「Purpose」にもつながっている
ソニーフィナンシャルグループの新しいビジョン・バリューのビジュアライズを手がけた。これらはソニーグループの「Purpose」にもつながっている

 デザインを取り巻く環境が大きく変わりつつある中、色や形といった狭義のデザインの枠組みを超え、デザインに求められる役割が広がってきている。ソニーグループのクリエイティブセンターが担っているのは、まさにその領域だ。「ソニーだからできるのだ」と思っていたが、実態はそうではなかった。

 本連載では、クリエイティブセンターにおいて、デザインがどのようにその領域を広げ、具体的にどんな役割を担っているかを取り上げていく。同時に、デザインとは、企業の独自性や創造性を強化していくうえで必要不可欠な要素であるという、私が長年抱いてきた考えについても検証していきたい。読者の皆さんにとって、何らかのヒントになれば幸いだ。

 第8回は、前回に続いてブランディング関連のプロジェクトを取り上げる。クリエイティブセンターが、ソニーグループのさまざまな領域のブランディングに携わってきたことは、前号でも触れた。中でも最近特に深い関わりを持っているのが金融事業であり、これはソニーグループを構成している6つの事業の柱のうちの1つだ。一見すると、ほかのものづくり系事業とは畑違いに思える金融事業のブランディングを、クリエイティブセンターがどのように担っているのかを聞いた。

金融事業専任の新チームを組織化

 「1999年に発表された金融事業各社のコーポレートアイデンティティーづくりを手伝ったのが発端でした」と、クリエイティブディレクターを務める前坂大吾さん。デザインの核となるコンセプトづくりから具体的な形に落とし込むまで、一連の仕事を手がけた。シンボルマークには、ソニーグループのコーポレートカラーであるブルーと、金融ビジネスに求められる「安心」をイメージさせるグリーンを象徴的に用いた。枠組みを超えていく「斬新さ」、新しいビジネス形態を感じさせる「インテリジェンス」、デジタルネットワーク社会に対応した「スピード感」を表現した。

前坂 大吾(まえさか だいご)氏
ソニーグループ クリエイティブセンター
2008年にソニー入社。10年から3年間イギリスへ赴任。ヨーロッパ向けのパッケージデザインやプロモーションに触れる。13年に帰国後、モバイル、ロボティクス領域のコミュニケーションデザインに従事したのち、現在はコーポレート領域と金融領域を統括

 金融事業のブランディングを行ったことで、その後、グループ傘下にあるソニー生命、ソニー銀行、ソニー・ライフケア、それぞれにおけるブランディングプロジェクトに関わることになった。2001年にはネット銀行の先駆けとなったソニー銀行の「MONEYKit」、16年には同社のデビットカードとアプリ「Sony Bank WALLET」、そして同年、介護事業であるソニー・ライフケアが手がける施設サービス「ソナーレ」のブランディングを行った。

 仕事が広がってきたことから、クリエイティブセンターの中で現在、佐藤大輔統括課長のもと、専任チームを組んでいる。インハウスのデザイン部門がグループ各社のブランディングに関わるケースは、多数派ではないものの、他社にもある。が、専任チームをつくって対応しているケースは、あまり耳にしたことがない。互いの信用・信頼が土台にあってのことだ。「各社それぞれ初期の案件で、ある程度の成果が見えたことが追い風になったと見ています」と佐藤さんは言う。

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