ソニーグループは、デザインの力の有用性をマネジメント層がよく理解している組織だ。社内外へ正しく伝えるべきことについて、その議論の上流からクリエイティブセンターが参画する。マネジメント層の情報発信をサポートするなど、ブランディングにおけるクリエイティブセンターの貢献度は高い。それがインハウスのデザイン組織ならではの強みでもある。

「2022年度 ソニーグループ サステナビリティ説明会」に併せて、環境に関する取り組みの展示「Sony’s Story on the Environment」が公開された。これもクリエイティブセンターが手がけたもの。経営方針説明会やサステナビリティ説明会などにおけるマネジメント層による情報発信も、クリエイティブセンターがサポートしている
「2022年度 ソニーグループ サステナビリティ説明会」に併せて、環境に関する取り組みの展示「Sony’s Story on the Environment」が公開された。これもクリエイティブセンターが手がけたもの。経営方針説明会やサステナビリティ説明会などにおけるマネジメント層による情報発信も、クリエイティブセンターがサポートしている

 デザインを取り巻く環境が大きく変わりつつある中、色や形といった狭義のデザインの枠組みを超え、デザインに求められる役割が広がってきている。ソニーグループのクリエイティブセンターが担っているのは、まさにその領域だ。「ソニーだからできるのだ」と思っていたが、実態はそうではなかった。

 本連載では、クリエイティブセンターにおいて、デザインがどのようにその領域を広げ、具体的にどんな役割を担っているかを取り上げていく。同時に、デザインとは、企業の独自性や創造性を強化していくうえで必要不可欠な要素であるという、私が長年抱いてきた考えについても検証していきたい。読者の皆さんにとって、何らかのヒントになれば幸いだ。

 第7回は、クリエイティブセンターが関わっているブランディングの事例を取り上げる。ブランディングと一言で言っても、幅も広ければ奥行きも深い。長年にわたって企業の課題となり、多くのコンサルタントや専門書が存在しているのは、ブランディングという行為が容易ではないからだ。

 クリエイティブセンターは、ソニーグループの社内外をつなぐ「クリエイティブハブ」として、さまざまな領域におけるブランディングに関わってきた。具体的にどのような役割を担っているのか、それによってどのような効果が生まれているのかを聞いた。

Sony’s Purpose(存在意義)の策定にも関与

 「ソニーグループのヘッドクオーター機能と連携し、ブランディングに携わってきました」とクリエイティブディレクターを務める前坂大吾さん。

前坂 大吾(まえさか だいご)氏
ソニーグループ クリエイティブセンター
2008年にソニー入社。10年から3年間イギリスへ赴任。ヨーロッパ向けのパッケージデザインやプロモーションに触れる。13年に帰国後、モバイル、ロボティクス領域のコミュニケーションデザインに従事したのち、現在はコーポレート領域と金融領域を統括

 典型的な事例の1つは、ソニーグループのコーポレートブランディングだ。2019年に会長 兼 社長 CEOの吉田憲一郎氏が発表したSony’s Purpose(存在意義)について、クリエイティブセンターもプロセスに参画してデザイン視点で監修した。事業領域が多様化し、業績が上向いている転換期にあって、企業としての明快な方向づけを目指したプロジェクトでもあった。全世界約11万人の社員が、ソニーグループならではの価値を生み出し成長していく。そのためのベクトルを定めたのだ。

 それまでのミッションは「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」であり、ビジョンは「テクノロジー・コンテンツ・サービスへの飽くなき情熱で、ソニーだからできる、新たな『感動』の開拓者となる」だった。

 チームメンバーとして参加したデザイナーは、「プロダクトやサービスのブランディングは、モノ、機能、利便性といった“機能的価値”に基軸がありますが、コーポレートブランディングは、存在意義、サステナビリティ、人材・働き方といった“意味的価値”に基軸があると考えました」と言う。プロジェクトのミッションは、「ソニーの“意味”をデザインする」にあると捉え、“意味”を掘り下げた。そして「テクノロジー×クリエイティビティ」「プロフェッショナリズム×遊び心」といったように、2つの価値軸がかけ合わさって相乗効果を生むところにソニーグループの独自性があると考え、その思考を盛り込んだ言葉の検討を行った。

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