クリエイティブセンターの力はハードウエアの世界だけで発揮されるのではない。そのことを最も象徴するのが「Ginza Sony Park(以下、ソニーパーク)」だろう。街に開かれた“公園”が、ソニーブランドと消費者を結ぶコミュニケーションの場として大いに貢献している。

東京・銀座の真ん中の「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」(現在は工事のため閉鎖)。周囲をビル群が取り囲む一等地にありながら、街に開放されたユニークな空間として存在感を放っていた
東京・銀座の真ん中の「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」(現在は工事のため閉鎖)。周囲をビル群が取り囲む一等地にありながら、街に開放されたユニークな空間として存在感を放っていた

 デザインを取り巻く環境が大きく変わりつつある中、色や形といった狭義のデザインの枠組みを超え、デザインに求められる役割が広がってきている。ソニーグループのクリエイティブセンターが担っているのは、まさにその領域だ。「ソニーだからできるのだ」と思っていたが、実態はそうではなかった。

 本連載では、クリエイティブセンターにおいて、デザインがどのようにその領域を広げ、具体的にどんな役割を担っているかを取り上げていく。同時に、デザインとは、企業の独自性や創造性を強化していくうえで必要不可欠な要素であるという、私が長年抱いてきた考えについても検証していきたい。読者の皆さんにとって、何らかのヒントになれば幸いだ。

 第5回は、「ソニーパーク」を取り上げる。2018年、東京・銀座の数寄屋橋交差点に登場した「ソニーパーク」は、もともと「ソニービル」があったところ。これを建て直すに当たり、「新たなブランドコミュニケーションの場」として生まれたのが「ソニーパーク」だ。21年9月までを第1段階とし、広場のような公園になっていた。今は「ソニーパーク」建て替えと並行して、隣接した地下駐車場に「Sony Park Mini(以下、ソニーパークミニ)」という場を設けている。新しい「ソニーパーク」の竣工は24年の予定。

地下は巨大な吹き抜け空間だった。ここでさまざまなイベントが開催された
地下は巨大な吹き抜け空間だった。ここでさまざまなイベントが開催された
地下にも自動扉などはなく、街と自然につながる空間だった
地下にも自動扉などはなく、街と自然につながる空間だった

建て替えのプロセスそのものをユニークにする

 建て替えプロジェクトというと、通常は古い建物を解体し、新しいコンセプトに基づいたビルを建てる。合理化、効率化を図ったスケジュールを組み、最短最適な段取りで遂行していくのが常道だ。しかし「ソニーパーク」はその方法を採らなかった。どのような意図と役割を担って「ソニーパーク」が生まれたのか。ソニーグループのクリエイティブセンターに所属しながらソニー企業(東京・中央)の代表取締役社長を務める永野大輔さんと、クリエイティブセンターでシニアアートディレクターを務める城ヶ野修啓さんの話を聞いた。

 「ソニービルの建て替えプロジェクトである『Ginza Sony Park Project』は13年にスタートしたのですが、デザインやブランドなど、異なる組織のメンバーでチームをつくりました」と永野さん。

永野大輔氏
(写真/菊池くらげ)
永野 大輔(ながの だいすけ)氏
ソニー企業 代表取締役社長 兼 チーフブランディングオフィサー
/ソニーグループ クリエイティブセンター ブランドインキュベーショングループ 統括部長

1992年にソニー入社。営業、マーケティング、経営戦略、CEO(最高経営責任者)室などを経て2017 年から現職。「 Ginza Sony Park Project」のリーダーとして、13年からプロジェクトを推進し、18年8月9日に「Ginza Sony Park」をオープンさせた

 そして「再定義する」「世の中に問う」「未来への一歩となる」の3つをルールとして、ディスカッションを重ねた。具体的にどのような議論だったのか――。

 「かつて『ウォークマン』は、音楽の聴き方そのものを再定義したと言っても過言ではありません」(永野さん)。いつでもどこでも音楽が聴けるというライフスタイルを、「ウォークマン」という形で「再定義」し、「世の中に問い」、オリジンとして他社が同様の製品を出すきっかけとなることで「未来への一歩」を築いた。建て替えプロジェクトも、この3つのルールをベースに置いたプロジェクトとして進めていった。

 同時に、そもそものルーツから始まって、50年に及ぶ歴史を掘り起こした。旧「ソニービル」のコンセプトは「街に開かれた施設」であり、ソニーの多様な製品を一堂に集め、お客さまに見て触れてもらうショールームとしての役割を果たしてきた。これはまた、訪れる人に暮らしの豊かさを体験してもらいたいという思いを込めたものであったのだ。

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