花王でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する生井秀一氏がゲストを招き、企業変革力を身に付ける方法について対談する本企画。第3回は早稲田大学商学学術院ビジネススクールなどで講師を務める長谷川博和氏を招き、大企業で変革を起こすのに必要な価値観、スキルや事例を交えて議論した。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「ラジオ情熱ラボ~ビジネスの先に」(毎週日曜日21:00~21:20)との連動企画です。

長谷川 博和 氏(右)
早稲田大学商学学術院 ビジネススクール教授
野村総合研究所で自動車分野の証券アナリスト、JAFCOを経て、独立系ベンチャーキャピタルの草分けであるグローバルベンチャーキャピタルを創業し、社長、会長を務める。京都大学大学院MBA非常勤講師、青山学院大学MBA特任教授を経て2012年から現職。公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、経済産業省大臣有識者会議委員、総務省・文部科学省の委員会委員長・座長などを歴任。日本ベンチャー学会副会長、ファミリービジネス学会理事。

生井 秀一 氏(左)
花王 DX戦略推進センターECビジネス推進部 部長
花王カスタマーマーケティング入社、リアル流通企業の企画営業職を約15年間担当。花王に出向し、ヘアケアブランドのメリットシャンプーのマーケティングを担当後、Eコマースの営業マネジャーを担当。2018年に全社DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するプロジェクト型組織の先端技術戦略室に在籍。21年DX戦略推進センター設立、DX戦略推進センターECビジネス推進部でEコマース戦略を担当。

生井 秀一(以下、生井) 私も40代ですが、長谷川さんが日々啓蒙されている内容は、40代に必要な企業変革力ともリンクする部分があると感じます。

長谷川 博和(以下、長谷川) 私もこれまで多くの事例を見てきました。変革はトップダウンで起きていることが多いのですが、近年の企業変革は現場からのボトムアップもないとうまくいかないと感じています。

 大企業のトップは60~70代以上が多く、DXに触れていないことが多々あります。一方、DXの知見があるのは40代であることが多いため、40代が積極的にDXの提案をするのがベストです。多くの企業が新しい企画や提案を求めていますが、40代が改革意識を持ちながら上層部にDXを啓発する文化をつくることが大切だと感じます。

企業変革の前に変えるべき3つのPとは

生井 具体的に、40代の意識改革に必要な要素はどのようなことだと思いますか。

長谷川 変革のヒントは「People(人)」「Place(場所)」「Process(工程)」の3つのPを変えることだと思います。

 まず、People(人)は変革プロジェクトのチーム編成から始めます。自社だけでなく、社外も巻き込み、従来とは異なる横断的なメンバーを選出するのがお勧めです。もし社内で実験的な取り組みの稟議(りんぎ)が通りづらい場合は、ゲリラで実行する勇気も大切です。気心の知れた上司がいる場合は、相談しながら折衝するとよいでしょう。

長谷川氏は企業変革をするうえで、「People(人)」「Place(場所)」「Process(工程)」の3つのPを変える必要があると説く
長谷川氏は企業変革をするうえで、「People(人)」「Place(場所)」「Process(工程)」の3つのPを変える必要があると説く

 優れたアイデアを生むためのPlace(場所)も重要です。会議室以外のシェアオフィスや喫茶店など、オープンで知的刺激が起きやすい場所ほど偶然を呼び、アイデアを生みやすいと思います。社外だと情報漏えいや守秘義務のリスクも起こりやすくなりますが、ブレスト程度であれば問題ないと感じます。

 Process(工程)を変えるときは、自分の立ち位置や提案の仕方、風土以外に考え方を変えるところから始めるとよいでしょう。例えば、これまで(表計算ソフトの)「エクセル」や(ドキュメント作成ソフトの)「ワード」などで進めていた会議に、デザイン思考とプロセスメソッドを導入した企業が「本質を解決するためにどうすればよいか」をゼロベースで考えられるようになったという事例があります。結果、既存の価値観を度外視して考える手法が身に付き、40代から良いアイデアが多く挙がりました。

 また、アフリカで病気がまん延する中、医者や予算が少ない中でも優れたアイデアによって解決した事例があります。感染を抑止する一番の特効薬は手を洗うことに気づき、「手を洗うことが本質的な病気の防止策になる」ことに着目しました。そこで、子供に手を洗わせるため、中に玩具が入った透明のせっけんを子供に与えたのです。すると、子供はおもちゃを求めて夢中になってせっけんで手を洗い始めました。結果、病気のまん延防止につながりました。

 DXという言葉が流行化しています。ですが、DXは手段にすぎません。こうした事例のように、何のためにその手段を使うのか、従来の価値観を超えて目的を達成するためには何をすればいいかを考えながら、問題解決のために活用すべきでしょう。

生井 多くの経営者や幹部は過去の成功体験に基づいて判断しているため、成功していないものには奥手というか、手を出さない傾向があると感じます。

 私は、最初に行動をして成功事例を作ることから始めました。その後に売り上げが向上したら事例として社内で共有する。そうした小さな成功体験を積み重ねることで、変革を起こしやすくなります。このような「行動先行型」も1つの方法ですし、40代はこういった動き方をして、多少失敗しても問題ないと感じます。

 成功体験が増えると知見があると見られて信頼されやすくなります。また、失敗しないと成功も生まれないため、アイデアと行動力が大切です。新しい概念を取り入れながら行動することで変革が生まれやすくなると思います。

長谷川 40代が変革を起こすには、先述した3P以外に、「イシューパッケージング」と「セリングプロセス」を変えることも大事だと思います。

 イシューパッケージングは課題と解決策を組み合わせた提案方法です。これを進めるうえでは、情報収集とプレゼンテーションの仕方の2つが重要です。まず、情報収集は質と量と共に十分な情報収集を得られるような仕組みをつくり、努力すること。プレゼンテーションを行うときは、会社が目標とする財務的指標や経営指標に生じる関連性や課題に対して、見せ方を工夫することが大切です。

 課題の見せ方を決めるときは、先行する他の経営課題に変革の問題意識を絡めるとよいでしょう。既存の経営課題にDXを絡めたテーマ設定をするという課題の見せ方をすると、経営層にとってイメージがつきやすく、理解を得やすいです。もちろん、空論にならないように、ロジックにかなっている内容を提示することも大切です。

 課題を見せるときは、変革することで得られる事業への貢献度も明示しましょう。中でもデジタルマーケティングはインパクトを提示すると、提案が通りやすい傾向にあります。お勧めは、日本初や世界初よりも「業界で話題になる」というキーワードです。

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