花王でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する生井秀一氏がゲストを招き、企業変革力を身に付ける方法について対談する本企画。第2回は文具メーカーのキングジム宮本彰社長を招き、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で急速に変化する市場に対応して、スピード感のある商品開発を実施するための組織体制や、企業のSNS導入における心構えについて議論した。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「ラジオ情熱ラボ~ビジネスの先に」(毎週日曜日21:00~21:20)との連動企画です。
キングジム 代表取締役社長
花王 DX戦略推進センターECビジネス推進部 部長
生井秀一(以下、生井) 宮本さんは、これまで数多くの商品開発や販売に携わってきたと思います。大きなヒット商品を生み出しながら、同時に社内を変えようと考えたこともあるかと思います。40代の自分を振り返ってみて、いかがでしょうか。
宮本彰(以下、宮本) 私が40代の頃は主力商品であるファイルや文具の売り上げが好調だったことに加え、プリンターやコピー機、FAXなどのOA機器が普及し始めており紙が主流でした。しかし、私自身は(ラベルライターの)「テプラ」の開発に携わっていた頃から、「将来はペーパーレスになる」と危機感を抱いていました。
私や有志の若手社員はいずれ訪れるであろう「ペーパーレス時代」に対して、ファイル以外の売り上げの柱をつくることを念頭に置いていました。この危機感から電子機器を味方につけた電子文具というジャンルを確立しようと考え、現在に至ります。
生井 ビジネスパーソンの中には好調にあぐらをかいて、時代の変化に危機感を持たず、次のアクションを起こさずにいる人は多いと感じます。しかし、好調な時代はいつまでも続くとは限りません。私も常に危機感を持って次のアクションを起こそうとしています。時代の変化に先んじて手を打つことは重要だと思います。
技術を応用するアイデアが「売れる商品」を生む
宮本 今、当社は主力商品であるファイルの売り上げが、ピーク時の4割程度にまで落ち込んでいます。こうしたダウントレンドは継続すると見込んでいます。
現在の当社の課題はファイル依存から脱却することです。これまではファイルとテプラを柱にして事業を行ってきましたが、近年は生活雑貨や家具を扱うEC事業会社や、キッチン家電製品が巣ごもり需要によって売り上げが伸びており、そちらにも注力しています。
今は何が売れるのかが、とにかく予測しづらい時代です。ファイルの売れ行きが低迷する一方、こういう時代だからこそ売れたという商品もあります。中でも売れ行きが好調なのは、インフルエンザ対策のために開発した「tette(テッテ)」という自動手指消毒器です。発売当初は売り上げが芳しくなく生産中止を検討していましたが、新型コロナ禍になってから急激に売れるようになりました。
私は、企業が変革を起こすためには「今売れるもの」をいかに早く出すかが重要だと思っています。その後、積み上げてきた経験を糧に、うまく市場に合わせた価値を提供できるようになった者が、変化をビジネスチャンスにつなげられると考えています。
生井 変革を起こすためにはタイミングが大事ということですね。商品のお話がありましたが、会社を変えるためには会社の方向性や外部環境のタイミングが合うときに行動を起こせるかどうかも大事だと思います。
宮本 通常、市場の流れは緩やかに変化していく傾向にありますが、コロナ禍後は市場の流れが激変しています。それにいち早く対応できるかが勝負の分かれ目だと考えています。
感染対策商品を例にとれば、手袋を作れる会社であれば、マスクも作るのは容易なため、すぐに参入できます。また、感染対策のパーティションはファイルと同じポリプロピレン素材でできているため、ノウハウを生かせばすぐに作れますし、フェイスシールドもクリアファイルと同じ素材で開発が可能です。このように、各企業が持つ技術を生かして、売れると思うものをいち早く出すことは強みにつながるのではないでしょうか。
生井 商品のアイデアは社内で話し合って決めていると思いますが、決裁時に重視していることはありますか。
宮本 市場に合う商品を展開する際はスピードが命のため、すぐやることを大切にしています。そのため、多くの決裁を割愛し、場合によっては書面で決めることもあります。
新型コロナウイルス対策でいうと、当初は接触感染対策が重要視され、フェイスシールドやアルコール消毒液が売れていました、しかし、現在は飛沫感染対策が重視されており、二酸化炭素の濃度を測定する「CO2モニター」が売れています。このように同じ感染対策でも短期間で売れ筋商品が変化しています。
また、先程お話ししたように、現在の当社の課題はファイル依存の脱却です。そのために、M&Aも含めて、生活雑貨やキッチン家電、家具などへの事業拡大を進めています。
文具はペーパーレスによって売り上げが左右されやすいため、いつまでもすがりつくわけにはいきません。既存の注力商品にとらわれず、時代に合わせて売れるものをビジネスの主軸にしていくことを大切にしています。
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