※日経エンタテインメント! 2022年3月号の記事を再構成

近年、ますますその人気が高まるお笑いの世界。その人気を支える理由の一つに、芸人たちがライブを行う劇場の進化があった。3つのケースから、今のお笑いライブ事情について探る特集「お笑いライブ最新事情」。最後に取り上げるのは、吉本興業の2つの劇場だ。

背景にある“何クソ精神”

 全国に14ものライブの拠点を持ち、連日多彩な演芸で劇場運営をしている吉本興業。お笑い界の雄である吉本の劇場で、今特に関心を集めているのが「大宮ラクーンよしもと劇場」と、「神保町よしもと漫才劇場」だ。

 まず、「大宮ラクーンよしもと劇場」については、同劇場の看板ユニットである「大宮セブン」が『アメトーーク!』(テレ朝系)などのバラエティで取り上げられてきたことがあり、なじみのある人も多いだろう。現在の大宮セブンメンバーには、20年の『M-1』で優勝したマヂカルラブリーをはじめ、すゑひろがりず、GAG、ジェラードンがおり、『M-1』や『キングオブコント』の決勝進出経験がある面々がそろっている。

 14年にオープンした当時は、「ヨシモト∞ホール」が若手の劇場で、そこを卒業したものの、売れっ子が出演する「ルミネtheよしもと」の舞台にはあまり立てない、行き場をなくした芸人が送り込まれる場所という印象だったという。大宮ラクーンよしもと劇場支配人の森卓也氏は、「あまり例のないレアケースになった」と話す。

 「背景にあるのが“何クソ精神”なんですよね。特に僕の前任の支配人が力を入れて、地道に小さい営業を取ってきたり。芸人と一緒に頑張っていくうちに、力をつけたメンバーが賞レースで勝ち始めたんです。ネタが良くて賞レースに強く、華はイマイチだけど平場が面白い、といった完全な“実力派集団”みたいに進化を遂げまして。お笑い業界でも一目置かれる存在になったのは驚きでした。芸人たちの連帯感や、劇場に対する愛もあるので、とてもいい雰囲気。大宮にしかできない新しいことにチャレンジしたいですし、ホットな話題を作っていくのが使命かなと思っています」

JR大宮駅から徒歩1分の「大宮ラクーン」の6Fにある劇場。看板ユニット「大宮セブン」の現在のメンバーは、囲碁将棋、マヂカルラブリー、GAG、タモンズ、すゑひろがりず、ジェラードン。GAGとジェラードンは『キングオブコント』、すゑひろがりずは『M-1』決勝進出経験がある。「バラエティ番組出演時に、ライブのコーナーで見るような並びで大宮の劇場の話をしていたりするので、感慨深いです」(森氏)。3月18日にはコマンダンテが新メンバーに加わった
大宮ラクーンよしもと劇場
JR大宮駅から徒歩1分の「大宮ラクーン」の6Fにある劇場。看板ユニット「大宮セブン」の現在のメンバーは、囲碁将棋、マヂカルラブリー、GAG、タモンズ、すゑひろがりず、ジェラードン。GAGとジェラードンは『キングオブコント』、すゑひろがりずは『M-1』決勝進出経験がある。「バラエティ番組出演時に、ライブのコーナーで見るような並びで大宮の劇場の話をしていたりするので、感慨深いです」(森氏)。3月18日にはコマンダンテが新メンバーに加わった

コロナ禍で配信も定着

 一方の「神保町よしもと漫才劇場」は、20年1月にオープンした新しい劇場。芸歴8年目以下の若手芸人がネタを磨いている。バラエティで活躍するぼる塾や、『THE W』で優勝したオダウエダら、約60組が所属している。NSC(吉本総合芸能学院)を卒業したばかりの芸人が初めて立つ舞台として出演するケースも多い。支配人の小林めい氏は、「伸び盛りの芸人ばかりなので、それぞれの個性を生かすことを大事にしています」と話す。「ここ半年では、『THE W』の決勝に進出したヨネダ2000が、ネタも平場の力も急成長しました。あとは軟水というコント師がいるんですが、独自のスタイルのネタを毎月おろしていて、ファンの方も徐々に増えてきていまして、いずれ飛躍するのではないかと思います」。

 コロナ禍で、配信もすっかり定着した。大宮では土曜、日曜の寄席以外の企画の公演に関してはすべて、神保町は、1カ月に110~120公演あるうち、5~6割は配信しているとのこと。「今は感染対策で141席中、111席しか販売していないのですが、配信では上限がないので、出演者によりますが、オンラインで500~1000人見ている公演もあります。お客さんも配信が日常になってきて、うまく利用している感じ。芸人も、配信するライブでは既存曲を歌っちゃいけないとか制約があったりするんですが、アクリルのパーテーションを挟んでのパフォーマンスとかも含めて慣れてきて、配信を使ったいろんなアイデアが出るようになったのは大きな変化かなと思います」(森氏)。「神保町はちょうど、オープンしたばかりでお客さんを入れられなくなったんですが、配信を交えながら再開できるタイミングを待ちました。そんなときに、あえて客席を使ってみたりとかは、新鮮で面白かったです」(小林氏)。

 ライブシーンでの吉本ならではの強みに関して聞くと、場数を踏めるということもあるが、「劇場によって客層が違うこと」を挙げた。「例えば神保町だったら若いお客さん、ルミネだったら一般的な一見さん、大宮や『よしもと幕張イオンモール劇場』はコアなお笑いファンなど。東京と大阪ではリアクションも違うでしょうし、いろんな劇場があることで、様々な客層のお客さんの前でネタを磨くことができる」(森氏)。「神保町の若手が大阪の『よしもと漫才劇場』に立たせてもらったとき、全然ウケなくて、打ちひしがれて帰ってきた人もいたりして(笑)。若い層だけを相手にしていたらこうなる、みたいな経験を早くからできるのは、吉本の特権だろうなと思います」(小林氏)。

 『M-1』でランジャタイがファイナリストになったのが象徴的だが、見る人が限られそうなコアな笑いも受け入れられるようになってきた。お笑いブームに深度が増し、「ライブシーンでも、今はかなり追い風だろうなというのは感じています」(森氏)。

神保町よしもと漫才劇場 126席。『THE W』で優勝したオダウエダや、同大会ファイナリストで、『M-1』では準決勝まで進出したヨネダ2000のほか、ナイチンゲールダンス、令和ロマンらが所属している。「所属芸人から賞レースで結果を残したり、スターを生み出すのが目標です」(小林氏)
神保町よしもと漫才劇場
126席。『THE W』で優勝したオダウエダや、同大会ファイナリストで、『M-1』では準決勝まで進出したヨネダ2000のほか、ナイチンゲールダンス、令和ロマンらが所属している。「所属芸人から賞レースで結果を残したり、スターを生み出すのが目標です」(小林氏)
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