※日経エンタテインメント! 2023年3月号の記事を再構成

2022年大みそかのシンガポール。超一流ホテルのマリーナ・ベイサンズやマーライオンなどが集まる、同国を代表する観光スポットのマリーナベイが会場となり、地元の人々や観光客など約60万人を、日本の花火が魅了した。この国を挙げてのカウントダウンイベントとなった未来型花火エンタテインメント「STAR ISLAND」を主催したのが、エイベックス・アジア。エイベックスのアジア統括会社だ。音楽やアニメの印象が強いエイベックスのアジア進出の成功を後押ししているIP(知的財産)が、日本の伝統的エンタメの「花火」だ。

 「STAR ISLAND」は17年に東京・お台場で初開催され、18年末にシンガポールへと進出。翌19年末にも開催された。海外展開を始めた経緯について、エイベックス・アジアで社長を務める高橋俊太氏はこう語る。「一般的にエイベックスと言えば音楽やアーティストのイメージが強いと思いますが、海外ではライブやイベントも多数手掛けてきました。そのなかで自分たちで強い『イベントIP』を持てれば、海外事業をスケールできると考えたんです」。

 そして、「STAR ISLAND」が生まれるきっかけとなったのが、14年に東京・お台場で始まった「ULTRA JAPAN」だ。この米・マイアミ発のダンスミュージックフェスは、いまや世界中で開催され、日本で主催するのがエイベックスなのだ。「『ULTRA JAPAN』ではフィナーレで花火が上がり大団円を迎えます。この〝日本の花火×音楽〟に可能性を感じ、『STAR ISLAND』の構想が生まれました。花火は言語を超えたエンタテインメントだからこそ、海外でも受け入れてもらえると確信を持つようになりました」(高橋氏、以下同)。

 そこで高橋氏は、エイベックス・アジアの本社があり、マリーナベイという絶好のロケーションがあるシンガポールに、まず海外進出の照準を定めた。「マリーナベイでは『ポケモン・ラン』という、『ポケットモンスター』とコラボレーションしたランイベントを主催した強みがありました。また、日本の『STAR ISLAND』に国の要人を招待することで関係性を築き、『BtoG(Goverment)』と呼ばれる、国と手を組むビジネスとして実現しました」。

 コロナ禍の影響で3年ぶりのシンガポール公演となった今回も、約2万人が有料観客エリアに集まった。日本の優れた花火職人たちの趣向を凝らした約1万発の花火、3Dサラウンドの多彩な音楽、会場を彩るレーザー光線、統率された400機のドローン、そしてパフォーマンスが見事にシンクロし、観客たちを圧倒。特にドローンの演出では、シンガポール国旗、マーライオン、今回スポンサーとなったJCBやサンリオのロゴなど、様々な絵柄が夜空に描かれる度に、拍手と歓声が上がった。

22年大みそかにシンガポールで開催した「STAR ISLAND」。日本国内で受賞歴のある10種類のスペシャル花火が海外で初めて披露され、ドローンで描かれたハローキティなどと見事なコラボレーションを果たした。(C)STAR ISLAND 2022
22年大みそかにシンガポールで開催した「STAR ISLAND」。日本国内で受賞歴のある10種類のスペシャル花火が海外で初めて披露され、ドローンで描かれたハローキティなどと見事なコラボレーションを果たした。(C)STAR ISLAND 2022

 「STAR ISLAND」の開催をきっかけに、新たな展開を迎えている国がサウジアラビアだ。22年5月~7月に開かれたサウジアラビアの国民的イベント「ジェッダ・シーズン2022」において、エイベックス・アジアと現地のセラ社が共同でプロデュースした体験型のイベントエリア「アニメビレッジ」が大成功を収めた。

 「19年9月開催の『STAR ISLAND SAUDI ALABIA』で関係性が深まった後、セラ社から『日本の様々なアニメをリアルに感じて楽しめるイベントを開催したい』との提案がありました。チャレンジではありましたが、弊社はアニメ事業も手掛けているので、ぜひと。日本の名だたるIPホルダーさんたちに丁寧に提案をし、中東やサウジアラビアという国でのビジネスの将来性も含めてご理解いただき、最終的にご賛同いただけました」

日本の人気アニメが集結

 イベントでは、サウジアラビアで人気の高い『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『NARUTO』『呪術廻戦』など、12のアニメコンテンツの体験型パビリオンを設置。『機動戦士ガンダム』の全高約6メートルの立像をはじめ、VRを使って楽しめるコンテンツなどが一堂に会した。さらに、関連グッズを販売する「アニメイト」や「サンリオショップ」も出店。イベントは集客、売上ともに高い数字をたたき出し、23年3月期 第1四半期のエイベックスの海外事業躍進の大きな要因にもなった。

サウジアラビアでの体験型イベント「アニメビレッジ」では、連日のように行列ができ、人気キャラクターのコスプレ姿で来場する人たちも見られた。日本のアニメ人気を感じさせるイベントとなった
サウジアラビアでの体験型イベント「アニメビレッジ」では、連日のように行列ができ、人気キャラクターのコスプレ姿で来場する人たちも見られた。日本のアニメ人気を感じさせるイベントとなった

 23年には、サウジアラビアに建設される新たな複合施設で、日本食を扱ったフロアをプロデュースする予定もあるという。

 「我々は、日本の花火を音楽とマッシュアップしてイベントIP化したことで様々な形でエンタメを作り、シンガポールやサウジアラビアをはじめ世界各国で、『BtoG』モデルを確立し始めています。海外で求められている日本のコンテンツであれば、どんなエンタメでも提供していくつもりです。また、『STAR ISLAND』『アニメビレッジ』ともに、今後アジアや中東をはじめ、世界に広げていければと思います」

 エイベックス・アジアの新規開拓や、新たなイベントIPの創出に注目したい。

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