映画、ドラマ、音楽と世界的に評価される韓国のエンタテインメント。その勢いを活用し、埋もれているコンテンツを世界に届けようという製作会社が「ミステリー・ピクチャーズ・ジャパン」だ。代表を務めるのは日韓両方の映画界で働いた経験を持つイ・ウンギョン氏。彼女、そして元『キネマ旬報』編集長で同社の取締役を務める掛尾良夫氏に設立の狙いを聞いた。
勢いが止まらない韓国のエンタタテイメント。映画『パラサイト 半地下の家族』はアカデミー賞で作品賞、監督賞をはじめ4部門受賞。動画配信でも『イカゲーム』は世界的なブームを巻き起こし、その後も『地獄が呼んでいる』『今、私たちの学校は…』などのヒットドラマが続いている。日本も是枝裕和監督の『万引き家族』や、昨年のアカデミー賞を沸かせた濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』など世界的に評価されている作品もあるが、活況著しい韓国とは大きな差があるようだ。
そんな日韓のエンタメ状況に着目して、日韓の映像共同製作会社「ミステリー・ピクチャーズ・ジャパン」を設立したのがイ・ウンギョン氏。もともと日韓で活躍するプロデューサーとして知られ、近年では『ドライブ・マイ・カー』や、三池崇史の初韓国ドラマ『コネクト』の韓国側のプロデューサーを務めている。2021年11月には韓国でミステリー、ホラー、SFなどのジャンルの映画や配信用のドラマを企画・制作する「ミステリー・ピクチャーズ・コリア」を設立。そして、昨年22年9月に同社の日本法人である「ミステリー・ピクチャーズ・ジャパン」を立ち上げた。日本のIP(小説、漫画、映画、ノンフィクションなど)と、日本のクリエーターを韓国の映像コンテンツ製作力と融合させ、韓国、日本だけでなく、世界に発信することを目指している。
「今の韓国のエンタテインメントは、いろいろな点がつながり面となって力になっている。その結果、韓国というだけで世界が注目する。私は自分が日本と仕事をしていく中で、日本には優れた監督が多く、そして優れた小説や漫画など作品も多いけれど、それらがつながっていない、点在していると感じました。それを私たちがすくい取って企画にし、勢いに乗っている韓国というフィルターを通せば、注目を得られるのではないか思いました」(イ・ウンギョン氏)
言葉は大した問題じゃない
もともと映画監督志望だったウンギョン氏。韓国映画界で働いた後、東国大学大学院で日本の映画産業を学ぶ中でプロデューサー業に興味を持ったという。1990年代後半から日本の映画界とも仕事をするようになり、2005年から3年間、角川映画(現KADOKAWA)の国際部に所属。韓国に帰国後は、城定秀夫監督の『ラブ&ソウル LOVE&SOUL』(12)をはじめ、白石晃士監督の『ある優しき殺人者の記憶』(14)、中山美穂とキム・ジェウク主演の『蝶の眠り』(18)など日韓共同製作のプロデュースなどを手掛けてきている。
「韓国に日本人の監督や俳優を呼んで仕事をするのは、言葉の壁があって大変じゃないかとよく聞かれましたし、今も言われます。でも、それは大して問題じゃないんです。何より、やる本人たちが海外でいつもと違う環境やスタッフと仕事をするチャンスを喜んでいる。特に、是枝監督(『ベイビー・ブローカー』)や三池監督が韓国で作品を手掛けたことで、『チャンスがあれば韓国で仕事をしてみたい』と考える人も増えてきているように感じます」
ミステリー・ピクチャーズ・ジャパンで、日本サイドから支える取締役プロデューサーを務める掛尾良夫氏。映画誌『キネマ旬報』編集長を長く務め、NHKサンダンス国際賞・国際審査員など歴任し、映画業界の事情に精通した人物だ。
「日本の強みは、小説や漫画、ノンフィクションなど原作の埋蔵量が圧倒的に多い点です。また、私はあるところで日本のインディペンデント映画の紹介もしていますが、海外の会社が意外な作品を買っていく。そういうことを見ていると、日本は売るものがあるのに、それをアピールしてこなかったとつくづく思います。まだまだ埋もれているものもあるし、そういう意味ではクリエーターたちの才能もそうです。日本の優れた人材や魅力的なIPと韓国の企画力、制作力をうまくマッチングさせて世界に発信する。動画配信で先んじて成功した韓国のようなモデルをつくることができればと思います」(掛尾氏)
日韓のクリエーターが協力
現在、進行中の作品としては、昨年12月に韓国でクランクインした『アンダー・ユア・ベッド』。原作は大石圭の同名ホラー小説をSABU監督が映画化し、俳優陣やスタッフは全て韓国人で製作している。
また、韓国で大ヒットしたWEBTOONが原作の時代劇『殺生簿』の映画化権も取得、日本人監督の起用を考えているという。その他、まだ具体的には発表できないが映画化権を獲得しているミステリー小説の映画化企画があり、これらも日本人の監督で準備中である。
「日本と韓国を行き来して、双方で多くの映画人、クリエーターと会いたいと思っています。日韓のクリエーターたちが関わる中で、企画制作を出し合い、世界中の人々が楽しむ作品が作れたら。そのために柔軟に考えていきたいと思っています。その結果、私を育ててくれた日本の映画業界に貢献、恩返しができればと考えています」(イ・ウンギョン氏)