新たな制作スタイルを追求した、1月期テレビアニメ『さみしいあなた』(CBCテレビ)が注目を集めている。本作は、「背筋が凍る怖い話」をテーマにした1話完結型のホラー作品で、時間はわずか5分という短編アニメ。さらに特徴的なのは、原作者、歌手、声優といった作品にまつわるクリエーターをネット上で募集した点だ。
本作を手掛けているのは、アニメ制作を本業としていない、レコード会社のソニー・ミュージックレーベルズ(東京・千代田)と、様々なIP開発を行うCHET Group(チェットグループ、東京・品川。以下、CHET)の2社。彼らがタッグを組み、テレビアニメプロジェクト「X Anime(クロスアニメ)」を立ち上げ、その第1弾作品となっている。
「X Anime」とは、「X Beyond-5055年の世界-」という日本をはじめとしたアジアのクリエーターを基軸にしたクロスメディア事業の一つ。立ち上げメンバーであるソニー・ミュージックレーベルズの廣瀬太一氏は、「『X Anime』では、ネットで活躍しているクリエーターたちに、テレビや映画といったメディアで活躍できる場を積極的に提供することで、これまでにないアニメ作品を一緒に生み出していくことが目標」と語る。
現在、『さみしいあなた』は、中京圏のCBCテレビで毎週金曜深夜2時から放送中。見逃し配信サービス「Locipo(ロキポ)」を使えば全国で視聴可能だ。本作を制作するにあたって、1話5分の完結型にした理由について、廣瀬氏はこう明かす。「アニメ畑にいるわけではない私たちが、1クールのアニメを制作する方法を逆算した結果です。一般的なアニメは、1話に1000万~2000万円かかるといわれていますが、そこまでの予算やリソースはありません。同じ土俵で戦っても勝ち目はないので、近年のトレンドであるショートアニメを採用しました」
ジャンルとしてホラー作品を選んだ理由について、CHET代表取締役の小池祐輔氏は、「5分という短い時間で、視聴者にどれだけ作品の印象を強く残せるかと考えたときに、人間の本能にダイレクトに届くホラーがベストな選択肢となった」と語る。また、最近のネットカルチャーの中で、ホラー系が流行の兆しにあることも大きかったという。「動画コンテンツやボカロ楽曲で、病み系やホラー系の人気が盛り上がってきているので、そのマーケットも意識しました」(廣瀬氏)
原作と主題歌をサイトで公募
今回、作品を一緒に作り上げるネットクリエーターを集めるために様々な手法が用いられた。原作案は、全12話全てをソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する小説投稿サイト「monogatary.com(モノガタリードットコム)」で募集。そこで“お題”として出したのが人気イラストレーターである世津田スンが描いた、男性が頭を抱え込んでいる1枚の絵だ。
選考や制作に携わったソニー・ミュージックレーベルズの藤原諒典氏は、「絵から受けるインスピレーションって、人それぞれ違うと思うんです。そこから感じたことで原作を作ってもらうことで、精神的なホラー、フィジカル的なホラーなど、約700作品が集まりました」。
主題歌『さみしいあなた』をデュエット歌唱するシンガー2人に関しては、ソニー・ミュージックレーベルズとCHETからそれぞれ1人ずつを選出。ソニー・ミュージックレーベルズは、自身で運営する創作プラットフォームサービス「MECRE(メクル)」で公募を行い、楽曲によって様々な表現を使い分けるシンガーの仝(どう)を選んだ。「狂気的でエッジの効いた歌い方など、仝さんの歌声に圧倒的な個性があり、ほぼ満場一致で決まりました」(藤原氏)。
一方、CHETは、「X Anime主題歌シンガーオーディション」を開催し約3000人の応募の中から、実力派シンガーのMINAが勝ち残った。「このオーディションでは才能に加えて、交流サイト(SNS)や動画配信といったマーケティング能力の高さも、審査項目として重要視しました」(小池氏)
アニメ制作もオンライン上で完結
声優に関しては、CHETが「地上波放送 X Anime 声優オーディション」を開催。合格者3人には『さみしいあなた』で声優デビューできるだけでなく、声優雑誌『声優グランプリ』の特別インタビュー、ボイストレーニングといった特典も用意した。
また今回、メンバー選定からアニメ制作に至る全ての過程を、オンライン上で完結させたことも大きなポイントの1つだ。「テクノロジーの進歩もあり、今や、必ずしも夢をかなえるために上京する必要はなくなってきています。どこに住んでいても、地上波アニメの制作に携われるという実績をつくれたと思います」(廣瀬氏)
これからの「X Anime」の展開については、第2弾も既に決定済みで今年度中にCBCテレビで放送される予定だ。そこに関連したネットクリエーターのオーディションなどもスタートしている。「第2弾の原案となるアニメキャラクターは、LINEスタンプクリエーターの作品から起用することが決まっています。『X Anime』は、作品に加えて、携わっているクリエーターたちにも注目しておいてほしいです。5年後、10年後にスターとなっている人も多いと思うので、プロセスエコノミー的な視点で見守ってほしいと思います」