「投げ銭型」のライブ配信サービスの人気が広がっている。既存のメディアやリアルイベント、eコマースなどとも連携し、新しいビジネスモデルも築きつつある。
ライブ配信サービスは、視聴者(リスナー)が画面に動画やイラストなどを表示できるアイテムを購入し、配信者(ライバー)に対して投げ銭する。「17LIVE」「Pococha(ポコチャ)」「ミクチャ」「LINE LIVE」「SHOWROOM」など多くのサービスがある。
サービス拡大の大きな理由がコロナ禍。アルバイトの減った若者や出演機会が少なくなった演奏家などがライバーを始め、リスナーの巣ごもり需要を獲得した。
人気ライバーの「集金力」はすごい。集めたアイテムの金額を競うイベントの終盤には、一人のライバーが1日で1000万円を超すアイテムを集めることもある。
集めたアイテムの金額の一部がライバーの収入になる。各社非公表だが、アイテム金額の3~4割程度がライバーの収入になると見られる。1日数時間の配信で毎月数十万円の収入を得る人気ライバーも多い。
TVや雑誌の登場権を競う
ライブ配信サービスで最近目立つのが、既存のメディアとの連携だ。多くのライブ配信サービスが、テレビ番組や雑誌に登場する権利を掲げたイベントを企画している。期間中にアイテムを多く集めたライバーが、番組や記事、広告などに出られるというものだ。
配信サービスのプラットフォームは、メディアにお金を出して出演権を獲得するのが一般的。イベントに参加するライバーに「投げ銭」が集まり、配信プラットフォームがもうかるというビジネスモデル。「ビジネスを後押しする認知向上のために広告を出す」のではなく、「買い取った広告枠そのものが商品になる」という仕組みだ。
リアルイベントとの連携も増えている。2022年8月4日に開催されたファッションインベント「EXIA Presents KANSAI COLLECTION 2022 A/W」(関西コレクション)には、17LIVE、ミクチャ、LINE LIVEが参加した。「こうした大きなステージを目指すライバーと、そこに応援するライバーを出させたいというリスナーが多い」(17 LIVEのEvent partner alliance 深澤 慶子氏)という。
演奏会などの集客にもつながる
リアルな演奏会や舞台の集客につながる効果もある。フルート奏者の香川恵理氏は、演奏活動が減った2021年2月にポコチャで配信を始め、1200人を超すフォロワーを集めている。2022年7月にコロナ以降に初めて開催したリサイタルでは、観客の4割以上をリスナーが占めて、想定を超す来場で100席弱の会場が満席になった。
ライブ配信サービスを支えているのは、ライバーの人気だ。人気ライバーの多くは、20代前後の女性ライバー。配信開始から数カ月で人気ライバーになることも多い。
17LIVEの関西コレクションのイベントで、ライバーのレベル「LV.」が81以上の部門で1位になった「白石 ゆうな」氏は、専業のライバー。「配信活動を通じて、モデルとして活躍できるようになる夢をかなえたい」という。
会社員として勤務しながら配信する「兼業ライバー」も多い。17LIVEの関西コレクションのイベントでLV.80以下の部門で3位になった「えり」氏は、働きながら配信している兼業ライバー。日頃の配信について、「仕事の残業や17LIVEのイベントがあると、両立のやり繰りに苦労する」と打ち明ける。
ライブ配信サービスのプラットフォームは、ライバーが1つの会場に集まって配信しながらアイテムを競い合う「リアルイベント」や、上位ライバーの表彰イベントなどを企画して、ライバーの人気を盛り上げている。
連携進むライブコマース
今後は、ほかにどのようなビジネス連携が進むのだろうか。既に広がりつつあるのが、ライブ配信しながら商品を販売する「ライブコマース」だ。ライブコマースでは、リスナーは配信を見ながら、ライバーが紹介する商品を購入できる。リスナーが質問したり、ライバーが購入に対して感謝の言葉を贈ったりといったコミュニケーションも可能だ。小売や化粧品、食品など、色々な分野の企業がライブコマースに参入。SHOWROOMや17LIVEなどは、企業の参入を支援するライブコマースのソリューション提供に乗り出している。
リスナーとの距離感が近いライブ配信サービスは、ライバーに関連した物品を売るのにも向いている。実際、タレントの配信中に、1時間程度で数千個の関連グッズを販売した例もある。
企業がライブ配信プラットフォームにお金を出して、配信と連携するケースもある。企業の商品をイベントの賞品にしたり、商品にちなんだ無料アイテムを提供したりすることで、認知向上を図る。若者のイメージが強いライブ配信サービス。実はビジネスに直結するアイテム購入が多いのは30~50代の男性リスナーだ。こうした層を意識して、パチンコ関連の企業との連携やマージャン関係の企画の配信といった取り組みも進んでいる。
ライブ配信の場合、人気ライバーでも同時に視聴しているリスナーは数十人程度に留まっていることが多い。これでビジネスが成立するのは、「ほかのSNSとは違って高額課金者が多い」(ライブ配信プラットフォームの関係者)からだ。
既存のネットサービスとは違ったこうした特徴を考えると、さまざまな分野でのビジネス連携が今後も広がりそうだ。