2020年6月に日本でのサービスを開始し、21年10月に新ブランド「スター」をローンチ。日本におけるオリジナル製作を強化し、今までにない切り口の『ガンニバル』、22年6月には新たに『すべて忘れてしまうから』『シコふんじゃった!』を追加発表するなど、勢いづくディズニープラス。「日経エンタテインメント!」2022年7月号に掲載された、オリジナルの全戦略を担うウォルト・ディズニー・ジャパン(東京・港)のエグゼクティブ ディレクター、オリジナル コンテンツ担当の成田岳氏のインタビューを拡大してお届けする。

(C) 2022 Disney and related entities
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 世界的プラットフォームとして成功を収めている動画配信サービス各社の、日本のオリジナルコンテンツ製作の動きが加速している。NetflixやAmazonプライム・ビデオが先行しているが、2020年6月に日本でのサービスを開始したディズニープラスが、アニメーションのほか、キー局とのコラボレーションを含むオリジナルドラマでもぐっと存在感を増している。

 ウォルト・ディズニー・ジャパンのディズニープラスは、21年10月に開催されたAPAC(アジア太平洋地域)のコンテンツの発表会で、「ディズニーだけじゃない」を掲げて新たなブランド「スター」をローンチ。ディズニーを筆頭にマーベル、スター・ウォーズといった強力なブランドを誇るディズニープラスに「スター」が入ったことで、『ウォーキング・デッド』など、いわゆる“ディズニーらしくない”過激さやダークな大人向けの作品を扱うことが可能になった。

 その「スター」ブランドから日本が世界に発信するディズニープラスの次の一手として、従来では考えられなかった意欲作が、同名コミックのドラマ化『ガンニバル』(今冬配信予定)だ。

『ガンニバル』二宮正明の同名コミックを実写連ドラ化。日本の山間部にある架空の村「供花村」に赴任してきた駐在巡査(柳楽優弥)が、「村人が人を喰っている」と疑念を抱くことから始まる、壮絶なサスペンス。プロデューサーはSDP岩倉達哉氏と『ドライブ・マイ・カー』の山本晃久氏(ディズニー・ジャパン)。22年冬、世界に先駆けてディズニープラス「スター」で日本にて独占配信予定
『ガンニバル』二宮正明の同名コミックを実写連ドラ化。日本の山間部にある架空の村「供花村」に赴任してきた駐在巡査(柳楽優弥)が、「村人が人を喰っている」と疑念を抱くことから始まる、壮絶なサスペンス。プロデューサーはSDP岩倉達哉氏と『ドライブ・マイ・カー』の山本晃久氏(ウォルト・ディズニー・ジャパン)。22年冬、世界に先駆けてディズニープラス「スター」で日本にて独占配信予定
(C)二宮正明/日本文芸社
(C)二宮正明/日本文芸社

 『ガンニバル』は、閉鎖的な村社会での濃密な人間ドラマを描く戦慄の“村八分”サスペンス。タブーに踏み込む題材など、インパクトがあるチャレンジングな企画だ。

 監督は『岬の兄妹』の片山慎三、脚本は22年3月の米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允。プロデューサーは同じく『ドライブ・マイ・カー』の山本晃久(ウォルト・ディズニー・ジャパン)、『闇金ウシジマくん』シリーズの岩倉達哉(SDP)が手掛ける。熱心な映画ファンが目を引くような人選も玄人好みだ。

 「1年半近く前、以前から知り合いでもある岩倉プロデューサーからご提案いただきました。確かに表現の自由、暴力や性描写に踏み込めるのがスターの特徴ではありますが、企画書を見たときは『ずいぶんなものを持ってきたな』と(笑)。そこから原作を読み込み、単にショッキングなだけでなく、多様な価値観がぶつかり合う中で人間の本質を浮き彫りにすることができる、極めて現代的なテーマを扱っている作品だと判断し、ぜひやりたいということで進めることにしました」(ウォルト・ディズニー・ジャパン エグゼクティブディレクター、オリジナルコンテンツ担当・成田岳氏)

日本の村社会を描くことが、逆に「普遍性」につながる

 コミックでは土俗的な日本の村社会や慣習、歴史や家族観が描かれているが、「僕らは逆にこれは普遍的なものを扱っていると捉えた」と成田氏は語る。

 「例えば『ウォーキング・デッド』にしても単にゾンビものの面白さだけでなく、究極の状況にさらされるからこそ浮き彫りになる人の結びつきの意味や、何を大事にして生きていけばいいのかといった普遍的な問いがあるから、世界的にヒットしたのだと思います。また『イカゲーム』など韓国ドラマにも通じますが、自国の特有の事情や土着的なことはプラスアルファとしてどこの国でも面白がってもらえると思うのですが、それはベースになる土台がしっかりしているからこそというのはあるのかなと。これらは我々が『ガンニバル』に投影したい考え方でもあります」

 最も重要なのは物語の根幹にある普遍的なテーマであり、「企画を選ぶ段階も制作に入ってからも、しつこいぐらいにすり合わせて議論するのは『語るべきストーリーは何か』ということ」。これはディズニープラスのオリジナルドラマで、松尾諭の同名エッセーのドラマ化『拾われた男』(配信中)や、APACの他国のオリジナル作品など全般的にいえることでもある。

 「ストーリーテリングの定義は必ずしも1つではないと思うのですが、欧米的なストーリーテリングは、日本の企画書で出てくるストーリーとは少し違うんですよね。

 日本のストーリーと企画書に書かれているものの多くが、すごく俯瞰(ふかん)的な、こういう世界観で時代は元禄何年で、といったところから始まる。

 一方、我々が考える欧米的なストーリーテリングというのは、どんな主人公が何をしたのか、どんな困難があってどんなことに打ち勝って旅をしていくのか、そのなかに仲間がいるのかといった教科書の1ページ目に書いてあるようなことに立ち返っています。

 結果、それが元禄何年でもいいしドラゴンがいる世界でもいいし閉鎖的な村の話でもよいのですが、コアにある『主人公たちはどんなことをやりたいんだろう』という点は、どの企画でも必ず、最初にしつこく時間をかけて議論し、確認し合っています」(成田氏)

(後編に続く)

成田 岳(なりた・がく)
ウォルト・ディズニー・ジャパン エグゼクティブディレクター、オリジナルコンテンツ担当。フジテレビジョンで20年間にわたり演出ほか制作として活躍。Netflixなどでの勤務経験を経て、2019年にウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社に入社
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