トム・クルーズの出世作『トップガン』(1986年)の続編『トップガン マーヴェリック』が大ヒットしている。5月27日から公開され、公開後3日間で興行収入(興収)11億5700万円を上げた。今年の公開作の公開後3日興収としては『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』『シン・ウルトラマン』を上回り、『名探偵コナン/ハロウィンの花嫁』に次ぐ2位の記録だ。

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『トップガン マーヴェリック』は、1986年に公開されトム・クルーズの名を広く知らしめた映画『トップガン』の続編。再びパイロットのマーヴェリックを演じる

 作品の評価が高く、Yahoo!映画で★4.7、Filmarksで★4.6(5月30日正午時点)。5月27日から米国や日本など世界同時公開だが、作品は早々と完成していたことから5月10日に完成披露試写会を実施。作品の評判がメディアを通して観客に広く浸透していたことも、作品への期待感を高めることにつながった。

『トップガン マーヴェリック』
米海軍のエリート・パイロット養成学校「トップガン」の卒業生たちが集められる。あるミッションを遂行するため、伝説のパイロット、マーヴェリック(トム・クルーズ)が若きトップガンを鍛える教官として赴任する。かつてのマーヴェリックのライバルで今は大将となったアイスマン(ヴァル・キルマー)直々の命令だった。マーヴェリックは常識破りの訓練を実施し、若きトップガンたちを戸惑わせる。(東和ピクチャーズ配給)
飛行シーンのリアルさを追求するため、トムをはじめ俳優たちは3カ月以上にわたり7.5~8Gに耐えられる訓練を受け、実際に戦闘機に搭乗して撮影に臨んだ
飛行シーンのリアルさを追求するため、トムをはじめ俳優たちは3カ月以上にわたり7.5~8Gに耐えられる訓練を受け、実際に戦闘機に搭乗して撮影に臨んだ
映画には前作でマーヴェリックの相棒だったグースの息子ルースター(マイルズ・テラー)も登場する。彼はマーヴェリックが指導するチームの一員で、マーヴェリックに複雑な思いを抱いていた
映画には前作でマーヴェリックの相棒だったグースの息子ルースター(マイルズ・テラー)も登場する。彼はマーヴェリックが指導するチームの一員で、マーヴェリックに複雑な思いを抱いていた

中高年層や地方都市で高い人気

 観客で目立つのが中高年層で、36年前の『トップガン』を10~20代の頃に見た世代だ。「金土日で11億円という興収を見ると若い人も来ているのは間違いないが、全体の割合を見ると前作を映画館で見ている世代である中高年が多い」(宣伝プロデューサーの松尾亘氏)

 中高年層の多さは興収のローカル比率の高さからも読み取れる。配給会社は全国の興収を「キーシティ」(東京、大阪など9大都市)と「ローカル」(それ以外)に分けて集計しており、『~マーヴェリック』のローカル比率は67.8%。洋画大作ではキーシティの比率が高くなることが多いが、『~マーヴェリック』はローカル比率がかなり高い。都道府県別の平均年齢を見ると、東京都や大阪府など人口の多い自治体のほうが平均年齢は低い傾向がある。ローカル比率が高いことからも、年齢層が高い人たちが積極的に映画館へ足を運んだといえそうだ。

 また大画面・鮮明な画像・優れた音響が売りの「IMAX」、映画に合わせて座席が動いたり座席から風やにおいなどが出る「4D」、スクリーンが正面と左右の3面に広がる「ScreenX」など特別なスクリーンが高稼働なのも特徴だろう。戦闘機に乗っているような臨場感が味わえる映画だけに、その特性が引き立つ特別なスクリーンを選ぶ人も多いようだ。

大さん橋でファン400人を集めてのイベントを開催

 配給元・東和ピクチャーズが宣伝の柱に置いたのが「胸熱」。チラシには「5月27日(金)“胸熱”ロードショー」とキャッチコピーを入れ、SNSでは「#トップガン胸熱投稿キャンペーン」や、公式ツイッターで「胸熱マイルキャンペーン」を実施した。松尾氏は「皆さんより早く見ることができたわけですが、初めて見終わったときの気分が“胸熱”でした。おそらく多くの方も同じ感情を持っていただけるのではと思い、いかにその胸熱を最高に気持ちよく体験していただくかを一生懸命考えて宣伝プランを立てました」と語る。

 公開の“熱”を一気に高めたのがトム・クルーズの来日だろう。

 本作は20年7月公開の予定が、新型コロナウイルス禍の影響で2年の延期を経ての公開となった。トムが自ら世界中をプロモーションで回ることにこだわったため、2年間延期したといわれている。『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は1年半の延期を経て21年10月に公開されたが、主演のダニエル・クレイグが宣伝で世界を回ることはなかった。

 トムは米サンディエゴの沖合に停泊中の航空母艦ミッドウェイ上でプレミアを行ったのを皮切りに、メキシコ・メキシコシティ、フランス・カンヌ国際映画祭、英国・ロンドン、そして日本を回った。トムが初めて来日したのは『遥かなる大地へ』公開の92年。以後、来日を重ね今回で24回目となる。もはや来日しても珍しがられないトムだが、今回は約4年ぶりの来日ということでメディアの注目度が高まり、露出が増えた側面がありそうだ。

 トムは来日の度にファンとの触れ合いに長い時間をかけるイベントを重視する。毎回、いかに独自性を出すか、宣伝担当者を悩ませてきた。例えば『M:i:III』(06年)公開に合わせた来日では、東海道新幹線のぞみを貸し切り、東京から新大阪まで約2時間半の間、東京・新横浜・名古屋から同乗したファン150人とトムが交流する機会を用意した。

 今回は横浜港の大さん橋(横浜市中区)に、ファン400人が集合しイベントを開催。フィナーレを花火で飾った。宣伝担当者たちがイベントのアイデアを何十案も出し合い、議論が噴出したかと思いきや「僕は(花火の)1案しか出さなかったです」(松尾氏)という。「コロナ禍で体験できなくなったことは多いですが、その1つに花火があったので、みんなで空を見上げて『あー、戻ってきた、コロナ禍前の生活』と思っていただければと。花火を打ち上げられるところが重要でした。もちろん、実施には非常に困難な状況でしたが、イベントに関わっていただいた関係者の皆様の熱い思いとバックアップでなんとか実現できました。まぁ、これもトムパワーです」

横浜港の大さん橋で催されたイベントでは最後に花火が打ち上がった。トム・クルーズ(左)とプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー(右)
横浜港の大さん橋で催されたイベントでは最後に花火が打ち上がった。トム・クルーズ(左)とプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー(右)
コロナ対策のため、サインができない制約があったものの、トムはしっかりとファンサービスを行い、その時間は1時間を超すほどだった
コロナ対策のため、サインができない制約があったものの、トムはしっかりとファンサービスを行い、その時間は1時間を超すほどだった
大さん橋でのイベント後、トムとブラッカイマーは東京・有楽町の映画館「TOHOシネマズ日比谷」での舞台挨拶を実施した
大さん橋でのイベント後、トムとブラッカイマーは東京・有楽町の映画館「TOHOシネマズ日比谷」でのジャパンプレミアで舞台挨拶を実施した

 2週目の週末となる6月4日(土)~5日(日)の興収は約7億5700万円で前週比マイナス8.2%。『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は2週目の週末が前週比マイナス36.1%。『シン・ウルトラマン』が前週比マイナス30.9%。2作品と比べると興収の下げ率は小さく、6月5日時点の興収は28億8900円を上げている。このペースで興収を伸ばせば、最終的に60億円超えは確実。観客がリアル世代の中高年層から若者層にも広がっていけば、さらに上の興収が見えてくる。

『トップガン マーヴェリック』公開中 (C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
『トップガン マーヴェリック』公開中 (C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
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