※日経エンタテインメント! 2023年4月号の記事を再構成
井上真央、佐藤健、松山ケンイチが連続ドラマで初共演中の『100万回 言えばよかった』(TBS系)。主人公の相馬悠依(井上)は結婚を意識していた恋人、鳥野直木(佐藤)を謎の殺人事件で亡くしてしまう。やがて、幽霊になった直木が見えるという刑事の魚住譲(松山)から、直木が近くで見守っていると知らされる。どうにか聞き取れる直木の口笛でその存在を感じるようになった悠依は、事件の真相に迫ろうとする。
プロデューサーを務めるTBSの磯山晶氏が本作の企画を立ち上げたのは、新型コロナ禍が社会に大きな影響を与えていた頃のこと。
「2021年に手掛けた『俺の家の話』が終わったぐらいでしょうか。ご高齢だったり、持病があったりする方とコロナのせいでお会いできないまま、亡くなられることが多くあったんです。お葬式も最近はあまり大きく催されないし。大切な人と気づくともう会えないんだ、という喪失感を感じることが多かったです。病気が原因じゃなくても、大事なことを言わないまま別れることってあると思いましたし、思い残しや後悔のないように生きられたらいいよねということが、このタイミングだからこそ皆さんの心に届くのではないかと考えました」(磯山氏、以下同)。
脚本は朝ドラ『おかえりモネ』(21年)などを手掛けてきた安達奈緒子のオリジナル。磯山氏とは『G線上のあなたと私』(19年)で組んでいる。
「『朝ドラから帰ってきたら、またやりたいです』とずっとラブコールを送っていました。この作品の企画書は私が書いたものですが、安達さんに脚本をお願いしてからいろいろと肉付けしてくれて、安達さんが執筆の準備をする間にさらにアイデアを練りました」
ファンタジーラブストーリーの本作は、直木の事件をめぐり、サスペンスの要素も強くある。
「安達さんも私もあまりサスペンスを作った経験がないので、苦心しています。ミスリード、思わせぶりな感じをどの程度やっていいのかも様々な海外サスペンスを見て話し合っています。第4話で直木がすでに亡くなっていて、生き霊でないことが明らかになると、大きな反響がありました。今回は『隣にいる大切な人に今日、大切だよと伝えてほしい』という気持ちでこの作品を作っていて、人の愛情を浮き彫りにするために殺人という形の悪意を描いています。心の裏側というか黒い部分を隠していた人が、最後にそこには何があり、どんな思いがあったのか描かなくてはいけないサスペンスを作るのは非常に難しいです」
井上の“無敵な存在感”
悠依を演じる井上は16年ぶりにTBS系ドラマで主演を務める。
「最初、井上さんは民放の連続ドラマに主演することにとても慎重でした。今回は作品のメッセージに共感していただき、出演がかないました。以前から井上さんは視聴者の共感性の高い演技をする方だとずっと思っていて、(佐藤)健さんも言っていましたが、ぶりっこやあざとい感じを出さずに、とてもかわいらしい。聡明な大人だけれどもはつらつとしていて、すれてない。まさに“無敵”な感じがします」
男性陣は佐藤とは『恋はつづくよどこまでも』(20年)で仕事をする一方、松山には井上とともに初めてオファーした。
「健さんは幽霊を演じるにあたり、『幽霊を面白い方向で使ったほうがいいと思います』とおっしゃったんです。幽霊が登場するどんな場面が見たいのか、いろんなアイデアを出してくれました。松山さんは大好きな俳優さんでしたが、タイミングが合わずご一緒したことがなくて。譲はお人よしで悠依や直木のサポートに回ることが多いですが、ノリノリで演じてくださっています。健さんと松山さんは、息の合った演技でアドリブのやりとりも多いです」
最終回は3月17日。様々な伏線が回収されるという。
「犯人がなぜ直木を殺したのか理由が判明します。その時点で直木はどうするのか。『ラスト3人が起こす奇跡』については、何が起こるのかご期待くださいとしか言いようがありませんが、最終回の構想はすでにあります。ただ、そこに至るまでの展開をどうするのか、今頭を捻っているところです。いろいろとまいた種を回収しつつ、視聴者の皆さんが悠依以上に号泣してしまうようなラストにしたいと思っていますので、3人にどんな結末が待ち受けているのか、見届けていただきたいです」。