※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成

ジェームズ・キャメロン監督作『アバター』の13年ぶりの続編、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が12月16日に公開される。前作は日本でも歴代興行収入8位(当時)の大ヒットを記録し、3D映画ブームを生み出した。『タイタニック』や『ターミネーター』シリーズなど、手掛けた作品の多くが成功しているキャメロン監督の最新作は再び大ヒットするか。成功の行方には、13年前とは異なる映画館の視聴環境も関係している。

大ヒットした前作から13年ぶりの新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
大ヒットした前作から13年ぶりの新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
[画像のクリックで拡大表示]

 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の舞台は前作の10年後。元海兵隊員のジェイク・サリーは惑星パンドラでこの星の種族ナヴィの女性ネイティリと結ばれ、5人の子供と平和に暮らしていた。だが、サリー一家が暮らす森を再び人間が襲う。

 2009年公開の『アバター』はシリーズの1作ではない、オリジナル作品。シリーズものに比べて認知度が低く、観客の期待値も低かったことから、1週目の興行成績は“並み”。だが作品の評判が口コミで広がり、ロングランヒットとなった。

 09年の年間興行成績1位の『ROOKIES-卒業-』(最終興収85.5億円)と比べてみる。『アバター』の公開は09年12月23日(水)。26~27日の1週目の週末が興収5億9700万円。『ROOKIES-卒業-』は1週目の週末に2倍以上の12億2500万円を記録し、その後は週を追うごとに興収が下がっていった。一方『アバター』は、2週目が正月休みだったことから1週目よりアップし、その後も落ちの少ない興行を展開。10年5月までロングラン上映されて最終興収156億円をあげ、歴代興行収入8位(当時)の大ヒットを記録した。

 『アバター』大ヒットをきっかけに巻き起こったのが「3D映画ブーム」だ。『アバター』は3Dカメラで撮影した作品だが、2D映画を3D映像化した『アリス・イン・ワンダーランド』が118億円、CGアニメを3D映像化した『トイ・ストーリー3』が108億円、日本映画では2D映画を3D映像化した『THE LAST MESSAGE 海猿』が80.4億円の大ヒットを記録した。

 これまでの3D映画は、映像がスクリーンから飛び出して見える「飛び出し感」を重視してきたが、『アバター』は飛び出しとは逆の「奥行き感」を重視。この効果で、観客はスクリーンの中に入ったような没入感や、劇中の映像をその場で見ているような臨場感が得られるようになった。

 キャメロン監督は『アバター』を製作するにあたり、「フュージョン・カメラ・システム」と呼ぶ小型の3D撮影カメラシステムを開発。高画質HDカメラ2台と、特別製のリグ(3D撮影用のカメラ台)を組み合わせた。さらに製作を支えたのが「パフォーマンス・キャプチャー」。このシステムは、人の動きをデータ化してコンピューターに取り込み、CGキャラクターを作るもの。俳優は全身にフィットしたキャプチャースーツ(光を反射するマーカーが至る所に付いている)を着て演技をし、データを取り込む。キャメロン監督はこのシステムを進化させた「エモーション・キャプチャー」も開発した。ヘッドセット式の小型カメラを俳優1人1人に取り付けて、顔の表情や目の動きなどを記録。この技術が先住民ナヴィの豊かな表情を生み出した。

1秒間のコマ数は通常映画の2倍に

 今回公開される『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の大きな見どころが、パンドラの森が中心だった前作とは異なる海の映像だ。例えばジェイクたちが潜る浅瀬のシーンでは、揺れる海面の境目、透明な海中の気泡、海中へ差し込む日光を3D映像で臨場感たっぷりに体感することができる。彼らが泳ぐと髪が揺れ、多くの魚たちと触れ合い、カメラは彼らの動きを360度縦横無尽に追いかけ、寄ったり引いたりして映し出す。

今作の見どころは海での映像
今作の見どころは海での映像
[画像のクリックで拡大表示]

 海の映像体験を生み出すため、巨大タンクを利用した水中でのパフォーマンス・キャプチャーを敢行した。俳優陣は子役も含めて数カ月のフリーダイビングのトレーニングを行った。通常は10秒程度しか撮れない水中での撮影を、1~2分にまで伸ばすことに成功。ジェイクたちの海中での動きをリアルに再現することを可能にした。

 「エモーション・キャプチャー」で使用するヘッドセット式の小型カメラを2台に増やし、俳優陣の表情をより細かく記録した。プロデューサーのジョン・ランドー氏は「前作よりもキャラクターの表情が豊かで細かくなった」

 また本作では毎秒48コマの「ハイフレームレート」を導入した。映画は1秒間に24コマで上映されるが、「ハイフレームレート」はコマ数を2倍にすることで、映像がより滑らかになる。「劇中全てのシーンがハイフレームレートではなく、劇場体験の向上が期待できるシーンにのみ導入した」(ランドー氏)

ヒットの鍵はIMAX

 今回の作品についてランドーは「続編のテーマは家族」と語る。「幸せな時間が過ぎ去ったとき、犠牲を払いながらもいかに生きていくかが描かれている。ジェイクの子供たち若い世代が、アイデンティティーを模索しながら、生きる目的を探す旅も大きなテーマになっている。彼らは今後続くシリーズにも登場し、家族の絆を深めながら、惑星の平和のために戦う。若い観客にとっては、インスピレーションを与える憧れのキャラクターになるはずです」

ジェイク(左)とサリー一家の長男ネタヤム
ジェイク(左)とサリー一家の長男ネタヤム
[画像のクリックで拡大表示]
サリー一家の養子で人間の子スパイダー(左)
サリー一家の養子で人間の子スパイダー(左)
[画像のクリックで拡大表示]
サリー一家を助ける海の部族の長トノワリ(右)と妻ロナル(左)
サリー一家を助ける海の部族の長トノワリ(右)と妻ロナル(左)
[画像のクリックで拡大表示]

 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は再び大ヒットするのか。鍵を握りそうなのが「IMAX」だ。IMAXは他の3D上映システムに比べて映像が明るく鮮明といわれており、『アバター』公開時も大人気だった。当時IMAXは東急レクリエーションズ(東京・渋谷)が展開する109シネマズ4館にしか導入されていなかったが、『アバター』の全国の興行収入シェアの4%も占めていた。特に109シネマズ川崎では『アバター』のチケットが土日はすぐ売り切れ、平日でも取りづらいこともあり、興行収入は全国で1、2位を争うほどだった。

 現在はIMAXが全国に41館あり、IMAXの普及がヒットの後押しとなりそうだ。

 『アバター』は『ウェイ・オブ・ウォーター』を皮切りに、5作目まで予定されている。

ストーリー
22世紀、希少鉱物を求めた人類は惑星パンドラを訪れ、この星の種族ナヴィと人間のDNAを組み合わせた肉体「アバター」を操作員の意識で操り、ナヴィと交渉していた。元海兵隊員のジェイク・サリーはナヴィの族長の娘ネイティリと恋に落ちる。やがて彼はパンドラの生命を脅かす任務に疑問を抱き、ナヴィたちとともに人間と戦う決意をする。人間がパンドラを去って10年後、ジェイクはネイティリと結ばれ、5人の子供と平和に暮らしていた。だが、サリー一家が暮らす森を再び人間が襲い、彼らは「海の部族」に助けを求める。(ウォルト・ディズニー・ジャパン配給)
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.