※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成
『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』というタイトルからもう面白い。赤ずきんがピノキオを拾って、旅する先々で死体と出会っては、見事な推理で事件を解決していく本格ミステリーだ。本作はシリーズ第2弾。第1作の前作『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は、ネットフリックスから映画化されることでも話題だ(2023年配信予定)。作者の青柳碧人に話を聞いた。
双葉社/1540円
「ピノキオ、親指姫、白雪姫と七人の小人、ブレーメンの音楽隊、ハーメルンの笛吹き男、そして最後の敵は三匹の子豚……。今回、登場人物多いですね(笑)」
「西洋の童話って、ストーリーがあってないようなものも多いんですよ。『赤ずきん~』シリーズではそれぞれのキャラクターを借りて、魔法や不思議なアイテムなど、ミステリーでいうところの特殊設定を使いながら、話を作っていきます。1作目は題材を選び放題だから楽だったんですが、次からはやってないことをやらなくちゃいけないので選択肢が減ってきて、だんだん難しくなってきました」
ミステリーである以上、登場人物がたとえ美しいお姫様やかわいい動物たちであったとしても、必ず殺人(?)事件が起こって、犯人がいる。そして、そこには「動機」がある。嫉妬、欲望、怨恨、復讐(ふくしゅう)……。赤ずきんが遭遇する事件の真相は、どれも恐ろしい。
「そんなに恐ろしいものを書いているつもりはないんですけどね。童話と殺人事件というイメージのギャップでそう感じるんでしょう。そもそも僕は、現実で起こりそうなことをわざわざ小説で書きたいと思わないんですよね。多少無理があったとしても、面白くなるほうを選ぶ」
「本格ミステリーの魅力って、大それたトリックやパズルっぽい暗号を違和感なく使えるところだと思うんです。経済小説や恋愛小説にそういうものが入ってきたら『えっ?』ってなりますよね。他の文芸にはできないことが、本格ミステリーではできる。それを、童話をモチーフに、面白さ優先でやってみた、ということです」
この童話をミステリーにするなら? そう頭をひねる。
「今回、入れられなかったのが、『金の斧 銀の斧』。赤ずきんが証拠を泉に落としちゃって、『あなたの落とした証拠は金の証拠ですか? それとも銀の証拠ですか?』と問われる。もし金の証拠を選んだら、犯人が別の人物になっちゃうという(笑)。いつか使いたいですね」
「本を読まない」層へも届いてほしい
全編を通し、キャラの立った登場人物たちがにぎやかに会話を繰り広げる本作。「幕あい」には作中に登場する人形劇の台本も挿入。
「ミュージカルみたいな感じで書いてみたいと思ったんです。舞台を見ているような気分で読める小説に、と。ただ、劇中劇は書くのが大変でしたね。カフェで執筆しながらリズムをとって『ここがなんかうまくいかないんだよなあ』って(笑)」
デビュー作となった『浜村渚の計算ノート』以来、数々のシリーズものを手掛ける。日本の昔話をベースにした「むかしむかしあるところに、死体がありました。」も現在3冊目を執筆中。ミステリーだけでなく、そもそも「本を読まない」層へも届いてほしいと願う。
「今回は子育て層に響くエピソードが入っていますね。自分自身が親になったこともあるのかな……。白雪姫の継母である魔女を、子育てに悩む女性として、生い立ちから詳細に描いたり、3人の子を持つシングルマザーを登場させたり。できるだけ多くの人に手に取ってもらえたら」
趣味は怪談話。日々怪談師のチャンネルを徘徊(はいかい)している。「実話怪談が好きです。日常の延長に不思議があるのが面白い」。小説を読むこともまたそうだ。日常で不思議を楽しみたい。