※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成
ピンク色のド派手な衣装に身を包んだ、金髪ロングヘアのピン芸人・ZAZY。2021年、22年と2年連続でピン芸人日本一決定戦の「R-1グランプリ」で準優勝して以降、ネタ番組のみならず、様々なバラエティーやCMでも目にするようになった。
イラスト入りのフリップをシュールなワードと共にリズミカルにめくって笑わせるネタを得意とする。21年には松平健や郷ひろみら著名人の似顔絵フリップをテンポよく織り交ぜたネタで、「歌ネタ王決定戦」で優勝を果たした。
デビューは11年。子どもの頃からお笑い好きで「幼稚園のときから『ダウンタウンのごっつええ感じ』を見ていました」と振り返る。お笑い芸人になろうと思ったのは大学時代のこと。「将来を考えたときに、65歳までの収入や有給の日数が決まっているような仕事は面白くなさそうで、安定というものが怖くなって。不安定なことを求めて、ダメもとでNSC(吉本総合芸能学院)に入ってみることにしました」
NSCに入学した当初はコンビを組んだこともあったが、ピン芸人に転向した経緯をこう語る。「もともとは漫才をやりたくてこの世界に入ったんですが、コンビ解散を4~5回繰り返すうち、さすがに相性うんぬんではなく自分に問題があることに気付いて(笑)。それでピンでやっていこうと決めました」
同期には霜降り明星やコロコロチキチキペッパーズ、男性ブランコらがおり、彼らの活躍については「コロチキは売れるのが早かったですね。当時は嫉妬心がありましたけど、この世界は自分が頑張るしかないので」と語った。
派手な衣装や金髪にした理由は、「ZAZYという名前を決めてから、その想像上の生き物に寄せていきました。それまでは黒髪の短髪にリクルートスーツでやっていたんです(笑)」。フリップ芸を始めたのは、フリップを使ったネタをする芸人がほとんどいなかったから。「今は増えていますが、当時は売れている人では鉄拳さんやバカリズムさんくらいだったんです。しかも、フリップかつリズムネタですから。ハネたときに競合がいない、“ブルー・オーシャン”を最初から狙っていました」
僕の芸風は言葉が分からなくても伝わると思う
基本的なネタ作りは、「近所の喫茶店で真っ白いノートを広げて、ボールペンを持って腕を組みながら考えている」という。「どうしても思いつかないときは『メロン』と『首』とか、2つか3つの単語を入れるような“縛り”を設けると、人と違うネタを作りやすいんです」と、シュールなワードを生み出す秘訣を惜しみなく明かしてくれた。
転機が訪れたのは6年前。若手芸人の登竜門ともいえる「おもしろ荘」に出演したところ、松任谷由実の目にとまり、ラジオ番組や苗場のコンサートにゲストとして招かれたそうだ。
「そのときに、『このままずっと続けていれば世間が追いついてくれるから大丈夫』と言われたんです。それで、仕事も決まっていないのに上京することにしました。上京して2年ほどはライブしか出られなかったけど、最悪、売れなくてもユーミンさんに認められたというだけで生きていけると思って、芸風は一切変えませんでした。それがなかったら、もっと試行錯誤して今の芸風とは違うものになっていたかも」
目下の課題は「ドッキリとか、いろんな場面でZAZYのリアクションが確立できていないこと。どうしても赤井俊之(本名)の地の部分が出てしまう。ZAZYを完全にキャラクターとして仕上げ切れていないうちに、バラエティーではすでに赤井の部分がどんどん出ていて焦っています(笑)」。
目指すのは「ネタをやり続ける芸人」だ。「お客さんの前でネタをやるのが1番やりがいがあるし、楽しいです。もちろんテレビのお仕事もやっていきたい。今後は世界を目指したり、子ども番組にも出たりしたい。僕の芸風は言葉が分からなくても伝わると思いますから」という。
リズムとイラストを駆使した笑いが、想像以上に幅広く浸透するときが来るかもしれない。