イケアといえば、郊外に大型店舗を構え、部屋をイメージしたディスプレーで家具やインテリアグッズを販売するスタイルが定番。一方、日本では2020年以降、都心型店舗にも注力してきた。現在は、原宿、渋谷、新宿で店舗を展開。限られたスペース、街によって異なる客層に合わせた商品展開で、若い世代への浸透を図っている。22年4月には、IKEA渋谷をリニューアル。法人向けのコーナーも強化した。
購入した商品を顧客が自分で持ち帰る「キャッシュ&キャリー」を採用し、郊外に構えた大型店舗で家具を販売してきたイケア。イケア・ジャパン(千葉県船橋市)では近年、ECサイトや独自アプリにも注力するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めている。
加えて、日本で積極的に展開しているのがIKEA原宿、IKEA渋谷、IKEA新宿の都心型店舗(シティショップ)だ。自動車を持たない都市部の消費者、特に若い世代にとって、電車で行けて、他の買い物のついでに寄れる都心型店舗は利用しやすい。郊外型店舗と比べて店舗スペースが狭いため置ける商品は限られるが、ECサイトやアプリを整備したことで、店頭在庫がない商品はECへ誘導する態勢も整っている。
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3つの都心型店舗は、イケア・ジャパンがこれまで展開してきた郊外型店舗とはさまざまな点で異なる。その一つが店舗ごとに特色があることだ。
各店舗はそれぞれ既存のビルにテナントとして入居しているという事情もあり、面積や構造はさまざま。その中身についても、客層に合わせて品ぞろえやディスプレーを変えている。
ざっくり言うと、IKEA原宿は1~2人暮らし、あるいは実家住まいの若者をメインの顧客として想定。都心型3店舗の中でも年齢層が最も若いため、生活雑貨を中心に、カラフルでかわいい商品に強い。店内のカフェには、スウェーデンの伝統料理であるフラットブレッドにサーモンやソーセージ、野菜などの具材をのせた「ツンブロード」を世界の店舗に先駆けて取り入れるなど、話題性を重視した。
IKEA新宿は、1~2人暮らしに加え、子供連れの客が多く、ファミリー層向けや子供向けのインテリア雑貨などを多く取りそろえている。サステナビリティーへの関心の高まりを受け、プラントベース(植物由来)のベジボールなどを量り売りするデリも設置した。
これに対して、IKEA渋谷は、全7フロアという都心型店舗最大の売り場面積を生かして、幅広い商品を展示。郊外型店舗には及ばないものの、大型家具やキッチン収納なども取りそろえ、イケア本来の強みを生かしている。都心型店舗では唯一、スウェーデン料理を楽しめるレストランを設けているのもIKEA渋谷の特徴だ。
また、客の来店スタイルも異なるという。例えば、JR原宿駅の目の前にあるIKEA原宿は、買い物のプランもなくふらりと立ち寄る人が多いそうだ。駅に近いこともあり、友人などとの待ち合わせまでの時間つぶしに訪れるケースもある。一方、駅から最も遠いIKEA新宿は、購入する商品をあらかじめ決めた上で来店する客が多いという。
「来店するお客様やそのスタイルの違いは、都心型店舗を複数オープンして初めて分かったこと」と、3店舗のマーケットマネジャー(店長)を務めるイケア・ジャパンの青木エリナ氏は話す。原宿、渋谷、新宿の3店舗はかなり近い距離にあるが、「郊外型店舗に比べて、お客様の買い方もさまざま」(青木氏)。そこで、店舗ごとの特色と売り場面積に合わせ、品ぞろえや展示の仕方を変えるようになったわけだ。
また、3つの店舗はその距離の近さから相互補完関係にもある。「(原宿、渋谷、新宿という)飛び地にフロアがあるイメージ」と青木氏。3店舗のスタッフはインカムで相互に連絡が可能で、「例えば、IKEA渋谷にお越しになったお客様の求める商品が渋谷にない場合、他の2店舗にその場で在庫を確認し、あればそちらの店舗をご案内することがある」(青木氏)。
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