
イケア・ジャパンが日本での事業を開始して20年。いまや家具・インテリア雑貨の大手として定着した。近年は、EC(電子商取引)や都市型店舗の拡大、オムニチャネルの強化にも積極的に取り組み、業績は好調だ。そのマーケティング戦略を掘り下げると、イケアを貫く3つの要件が浮かび上がってきた。
1943年に、スウェーデンの実業家イングヴァル・カンプラード氏が17歳で創業して以来、イケアは家具・インテリア雑貨大手として世界に事業を拡大してきた。イケアグループ全体では現在、61の国と地域で545の販売拠点を展開(2021年8月末時点)。21年度の来店客数は、新型コロナウイルス禍の影響でやや減ったものの、年間7億7500万人にも達するという。
日本との関わりは意外にも古い。1970年代に日本の小売業者との合弁事業などを通じて商品を販売。だが、当時は一部店舗の一角に出店するような小規模なもので、83年には撤退を決めた。
本格的に進出したのは、約20年後のことだ。02年にイケア・ジャパンを設立。06年に1号店となる「IKEA船橋」(現IKEA Tokyo-Bay)をオープンした。以来、順調に店舗を増やし、現在は全国に12店舗を構えるまでに成長している。
そのイケア・ジャパンが近年、注力する事業の1つがECだ。長年、実店舗での販売に特化してきたイケアだが、17年に日本でもECサイトを開設。商品を個別に表示するのではなく、コーディネートされた部屋として提案する、店舗でおなじみの見せ方をサイトにも取り入れ、世界観を共有している。
20年には独自アプリ「IKEAアプリ」の配信を開始。アプリ内で商品を検討・購入するだけでなく、閲覧した商品が各店舗のどこに置いてあるのかを確認したり、店舗で買い物する際の会計をスムーズにする機能を搭載したりすることで、ECとリアルを連携し、オムニチャネルにも生かそうとしている(詳細は第2回に掲載)。
また、法人顧客の拡大にも本腰を入れ始めた。10年から日本国内で実施していた法人向け会員制サービスを、グローバルでの本格展開に合わせて「IKEA for Business」としてリブランディング。イケアの家具やインテリア雑貨は、個人だけでなく、法人のニーズにも応えられるとして、50人未満の小企業、個人事業主などを中心に、オフィスや飲食店、医療、福祉施設などで同社商品の導入を進めている(詳細は第3回に掲載)。
この特集では、そんなイケア・ジャパンのマーケティング戦略を、オムニチャネル、法人向け事業、食への取り組みなどへの取材から解き明かす。その過程で見えてきたのは、イケアを貫く3つのキーワード――「高品質」「低価格」「サステナビリティー」だ。言葉だけ見ると取り立てて珍しさを感じないかもしれない。だが、これらが商品の企画や開発、製造だけでなく、店舗設計や販売戦略にまで一貫しているのがイケアならではのポイント。そしてSDGsへの関心が高まりつつある昨今、顧客開拓を後押しする追い風ともなっている。
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