イケアが仕掛ける顧客拡大、次の一手 第3回

個人ユースの家具やインテリア雑貨を扱う店というイメージが強いイケア。近年、力を入れているのが法人向け事業だ。「IKEA for Business」というブランド名で、インテリアを提案・販売。顧客の拡大を図る。その狙いは売り上げだけではない。イケアをハブに企業同士をつなぐコミュニティーづくりだ。

個人ユースの家具・インテリアメーカーとして事業を拡大してきたイケアが今、注力する分野の1つが法人向け市場だ
個人ユースの家具・インテリアメーカーとして事業を拡大してきたイケアが今、注力する分野の1つが法人向け市場だ(写真提供/Shutterstock)

 9500以上あるイケアの商品群。そのほとんどは、個人が家庭で使うことを想定した家具やインテリア雑貨だ。だが、イケアは今、これら商品を法人にも展開すべく、グローバルで法人向け事業を強化している。

 その取り組みが、法人向けサービス「IKEA for Business」だ。法人会員を対象にオフィスや店舗設計に関する情報を発信。店舗に設けたコーナーで、商品購入の無料相談や、イメージボードなどを使ってインテリアレイアウトを提案する有料サービスなどを提供する。

イケア・ジャパンは2020年2月、渋谷区道玄坂に法人向けサービス用のスペースを開業(写真は開業時のもの)。22年4月下旬の「IKEA渋谷」(渋谷区宇田川町)リニューアルオープンを機に、このスペースを同店内に集約し、個人向けと併せてサービスを提供する
イケア・ジャパンは2020年2月、渋谷区道玄坂に法人向けサービス用のスペースを開業(写真は開業時のもの)。22年4月下旬の「IKEA渋谷」(渋谷区宇田川町)リニューアルオープンを機に、このスペースを同店内に集約し、個人向けと併せてサービスを提供する

 日本では、2020年2月に「IKEA for Business」専門のスペースを渋谷区道玄坂に開業。21年7月には、同サービスの一環として、主に中小企業やベンチャー、個人事業主を対象とした会員制度「IKEA Business Network」も開始した。これはIKEA for Businessからさらに踏み込んだプレミアムサービスで、IKEA for Businessの機能に加え、イケア・ジャパンの専任アドバイザーによるインテリアデザインのコンサルティング、メンバー限定価格での商品・サービスの提供、イケアによるオンラインビジネスセミナーの参加や、自社社員を対象とした福利厚生のサポートなども利用できる。

グローバルで本格参入の理由

 実はこれ以前から、一部の国では法人向け事業に取り組んできた。それというのも、イケアグループは海外進出に当たりフランチャイズ制を敷いており、日本はその中でも最大のフランチャイジー「Ingkaグループ」傘下にある。イケア・ジャパン法人部門総責任者の佐川季由(きよし)氏は、「家具の企画、開発は本社が一括して行うが、サービスについては各国で事業を展開する企業が独自に提案できる」という。

 このため、イケア・ジャパンでは10年10月から、小売りや不動産会社、建築事務所、飲食店などを対象にサービスを展開。オフィスや店舗に置くインテリアの提案や組み立てをしたり、改装などで同社の業務範囲を超える作業が伴う場合は、つながりのある施工業者を紹介したりしてきたのだ。

イケアの商品を使った店舗デザインのイメージ
イケアの商品を使った店舗デザインのイメージ

 ではなぜ、このタイミングで法人向け事業強化を打ち出したのか。理由の1つは、グローバルでの本格参入とそれに伴うブランドの統一だ。「各国イケアが法人向け事業に取り組む中で、そのニーズが見えてきた」と佐川氏。イケアブランドとして腰を据えて取り組むため、これまでそれぞれの国で展開してきたサービスを統一し、グローバルでIKEA for Businessというブランドを打ち出したのだ。

 この判断には、時代の趨勢も影響しているだろう。近年、技術の進化や社会のネットワーク化、ビジネスのグローバル化によって、働き方は変化、かつ多様化している。新型コロナウイルス禍はそれを加速化し、オフィスの在り方を見直す企業、業態変化を選ぶ飲食店も増えてきた。オフィスデザインの提案や設計に対する需要はさらに高まると考えられる。

 さらに、佐川氏は、法人向け事業への取り組みがイケアの核である個人向け事業にプラスの作用をもたらすと見る。「会社のオフィスや日常的に立ち寄る飲食店などにイケアの家具が採用されていれば、その分、イケアブランドとの接点は増える。ブランドにとって常にそばにあること、身近であることは何よりも重要」(佐川氏)。法人に導入されたイケア商品に触れた個人がそれを気に入り、自宅用に購入するというケースも十分にあり得るということだ。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
3
この記事をいいね!する