日経エンタテインメント! が次代の“主役”と期待されるZ世代をピックアップする本連載。今回は、2023年5月19日から公開の映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』で単独初主演を務める酒井大地。2019年にスターダストプロモーション主催の大規模オーディション、第1回「スター☆オーディション」男子部門で、2万4460人の中からグランプリに輝いた17歳だ。

酒井大地(さかい・たいち)
2006年1月17日生まれ、福井県出身

2019年 第1回「スター☆オーディション」で男子部門グランプリを受賞。
2021年 映画『都会のトム&ソーヤ』で城桧吏とダブル主演
2022年 短編映画『日曜日とマーメイド』に出演

2023年は、主演映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』のほか、映画『おしょりん』が10月20日から福井先行公開を経て、11月3日から全国公開

 映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』は、富山県射水市を舞台に、地元の危機を救うために奮闘する高校生男子3人組の挫折と成長を描いた青春映画。主演のトオル役に選ばれたのは、19年にオーディションで事務所入りした酒井大地。今作が長編映画出演2作目にして、単独主演という大役を担う。

 最初に台本を読ませていただいたとき、「こんなに面白い作品に出演できるんだ」といううれしい気持ちでいっぱいになりました。ですが、その後、本多(繁勝)監督と初めてお会いした際に、目の前でワンシーンを演じる機会があったのですが、全然うまくできなくて……。演じるトオルという役柄よりも、素の自分が前に出てしまった気がしたんです。主役ということもありセリフ量も多いですし、「これでいいのか」という緊張とプレッシャーが襲ってきて、少し怖くなってしまったこともありました。今回は3人組の男子高校生の中で自分以外の2人は演技初挑戦ということもあって「なんとかして引っ張っていかないと」とずっと考えてはみましたが、まだまだ僕も経験が浅く、なかなか答えが見つからない。いっそのこと「主演だから」という難しいことは考えずに、周りのベテラン俳優の皆さんを頼って、身を任せることに決めたんです。僕にできることは、空気を明るくすることくらいかなって(笑)。そんな気持ちで現場へ挑みました。

 実際の現場では、僕が演技をしやすいように、周りの方々が空気をつくってくださったおかげで、緊張せずにお芝居をすることができました。例えば、落ち込んだ芝居のときはそうした気持ちをつくりやすい空気感をつくってくださったり、僕たち高校生がわちゃわちゃするシーンでは、もっと自然な演技ができるように、スタッフさんたちが声を掛けてくださったり。皆さんに引っ張っていただいて、最後までトオル役を全うできたと思っています。このありがたい経験は1つの自信にもつながりましたし、もしまたいつか主演という大役を任せていただける機会があれば、僕が現場をリードできるような存在になれるように頑張ります。でも今はとにかく、「早く皆さんに作品をお届けしたい」という気持ちでいっぱいです!

映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』は5月19日から富山3館(TOHOシネマズ 高岡、TOHOシネマズ ファボーレ富山、J MAXTHEATER とやま)で先行公開、26日から全国順次公開。射水市に住む、放生津曳山祭を楽しみに過ごす高校生のトオル(酒井)、アゲル(宮川)、ヨシ(長徳)の日常をハートフルに描く。🄫AX-ON
映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』は5月19日から富山3館(TOHOシネマズ 高岡、TOHOシネマズ ファボーレ富山、J MAXTHEATER とやま)で先行公開、26日から全国順次公開。射水市に住む、放生津曳山祭を楽しみに過ごす高校生のトオル(酒井)、アゲル(宮川)、ヨシ(長徳)の日常をハートフルに描く。🄫AX-ON

故郷に帰ってきたような感覚に

 僕が演じる主人公・本江透(以下、トオル)はすごく自分と似ていたので、役づくりという役づくりはあまりしていないかもしれません。「僕のことを見ていたの!?」と思ってしまうくらい、考えていることも似ているんです。客観的に見た自分を分析してみようと思い、友人たちに「昔の僕はどんな人間だったのか」を聞いてみたりもしましたけど……「うるさかったよ」と言われちゃいました(笑)。僕はすぐに飽きてしまう悪い癖があるのですが、それはトオルも同じ。泉谷(しげる)さん演じる、トオルのおじいちゃんの「何事も諦めちゃだめだ」という言葉は、トオルと同じく僕自身にも刺さった言葉でした。それほど似ている役柄でしたね。

 ロケ地の富山県射水市は、僕の地元・福井県と似た風景が多く、懐かしい気持ちになりました。僕もトオルと同じように田舎道を自転車で走る高校生だったので(笑)。トオルも近所の方とコミュニケーションを取っていますが、僕も実家にいたころは学校から帰ると近所のおばあちゃんが「おかえり」と声を掛けてくれたりしていたので、なんだかふるさとに帰って来たような不思議な感覚でした。特におすすめは、河川敷です。僕もプライベートでサイクリングをしに行くくらいお気に入りの場所です。

 劇中では、トオルをはじめ、アゲル(宮川元和)、ヨシキ(長徳章司)のちょっとドジな男子高校生3人組がナチュラルに描かれている。アゲルとヨシキを演じた2人は、オーディションで選ばれた、地元在住の高校生。物語の鍵を握る3人の関係性をつくりあげるため、率先してコミュニケーションを取っていったという。

映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』で単独初主演を務める酒井大地
映画『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』で単独初主演を務める酒井大地

 本多監督の「男子高校生がわちゃわちゃしている姿を残したい」というお言葉もあり、男子高校生同士の関係性の見せ方は一番意識したところです。仲良くなるために、初日から監督と僕と宮川くんと長徳くんの4人で温泉へ行って、裸の付き合いをしました(笑)。そのおかげか、一気に距離が縮まって、何でも話せる仲になっていきました。撮影が終わった後もくだらない話をして笑い合ったり、休憩のときもみんなで集まって台本を読んだり、ずっと一緒に行動していた気がします。

 宮川くんと長徳くんは演技も初挑戦ですし、まだカメラがあると緊張してしまうみたいで、最初のほうは「大丈夫だよ!」と僕が声を掛けて、励ましながら撮影に挑みました。物語の冒頭のシーンを撮影したのが、ちょうどクランクインだったので、少し緊張しているのが伝わるかもしれません。でも、どんどんアドリブも入れられるようになってきて、最後のエンドロールでは思いっきりはしゃいでいるので、その変化も楽しんでいただけたらうれしいです。

泣く演技などが難しかったが共演者からの助言で多くを学んだという
泣く演技などが難しかったが共演者からの助言で多くを学んだという

 個人的に難しかったのは泣くお芝居ですね……。今作でも、おじいちゃんが亡くなってしまい、悲しむシーンがあるんですが、なかなかはまらなくて。そんなとき、トオルのおばあちゃん役の丘みつ子さんから「間をたくさん使ったほうがいい」というアドバイスをいただいたんです。落ち着いて、ゆっくりと間を使いながらお芝居することで、ようやくシーンになじめたような感覚を覚えました。丘さんをはじめ、先輩方からたくさんお芝居のアドバイスをいただいて、学ばせていただきました。

 泉谷さんもすごく優しい方で、現場が始まる前に「暑くないか?」「ジュース買ってくるよ」と言ってくださって。泉谷さんは、周りの空気を読みながら、冗談を交えてお芝居をされる方なので、現場の空気がすごく明るくなるんです。それに、泉谷さんはお芝居でアドリブを挟まれるんですが、話の本筋を変えずに、自分なりの遊びを入れていかれる。そういう姿勢に憧れちゃいましたし、僕も泉谷さんのように、現場を盛り上げられるような俳優になりたいです。

 今作で山場となるのは、トオルたちが地元の大きな祭り、放生津曳山祭を守るために奮闘するシーン。変わらない地元を守るためには、自分たちが変わらなければいけない――。そうしたメッセージ性が込められている。

「トオルの心境の変化をたどっていきながら見ていただくと、自然とワクワクしてくると思います」(酒井)
「トオルの心境の変化をたどっていきながら見ていただくと、自然とワクワクしてくると思います」(酒井)

 きっとこの映画を見終わった後は、「何かを始めないと!」と衝動的に感じてもらえる気がしています。劇中に登場する、おじいちゃんの「何でもやってみな分からん。すぐ『無理』言うな」というセリフは、僕もまさにその通りだなと感じていて。もっとたくさんの作品に出演できるように、「自分に今できることは何か」を自分で考えて、すぐに行動に移そうという気持ちになりました。今作は、喜怒哀楽がぎゅっと詰まっている作品。トオルの心境の変化をたどっていきながら見ていただくと、自然とわくわくしてくると思います。

 そんな酒井が憧れる俳優は、同じスターダストプロモーション所属の市原隼人。共演をきっかけに、芝居の奥深さを学んだそうだ。

 憧れの俳優は、市原隼人さん。映画『都会のトム&ソーヤ』で共演させていただいたとき、顔をすごく近づけて演技をするシーンがあったんです。「目の前に市原さんがいる」という緊張と、至近距離での演技に圧倒されて、目をそらしてしまって……。そんな僕に、「ちゃんとオレの目を見て芝居しなよ」と言ってくださったんです。目の前の人と対峙して、きちんと受け取って演技をするという芝居の奥深さを教えていただいた気がしています。

 トオルも自分に似た役柄でしたし、今までは自分と通ずるところのある役柄を演じることが多かったので、今後は自分とは正反対の要素を持つ役を演じてみたいと思っています。難しいでしょうし、緊張もしてしまうだろうけど、何事も臆さずに、いろいろな役に挑戦していきたいです!

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(撮影/中村嘉昭)

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