2012年に活動を開始した3人組音楽ユニット・水曜日のカンパネラへ、2代目主演/歌唱担当として21年9月に加入した詩羽(うたは)。パッツン前髪に刈り上げ、口元のピアス、ビビッドなカラーリングのファッションが目を引く存在だ。どこかミステリアスなムードをまとっていた先代ボーカリストのコムアイから、全く異なる雰囲気の彼女へのバトンタッチは大きな話題を呼んだ。その約半年後、水曜日のカンパネラは「踊る暇があったら発明してえ」などのキャッチーなフレーズが特徴的な楽曲『エジソン』が、TikTokを契機に大ヒット。その後、新体制初ツアーを開催するなど、精力的に活動を続けている。

詩羽(うたは)
2001年8月9日生まれ。東京都出身。
高校生の頃からフリーランスモデルとして活動
2021年 9月、水曜日のカンパネラに2代目主演/歌唱担当として加入
2022年 2月リリースの「エジソン」がTikTokを中心にヒット
2023年 映画『アイスクリームフィーバー』に出演予定

TikTokでの「#エジソン」総視聴数は6億回超(2023年1月現在)。刈り上げにツインテール、口元に2つのピアスと、自分らしいスタイルで幅広い世代から支持を集める

 詩羽はフリーランスモデルとして活動していたところ、友人づてに水曜日のカンパネラのDir.Fから声をかけられて加入に至った。オファーを受けて「やります」と即答したと言うが、高校生の頃に軽音楽部に所属していたものの、音楽を仕事にしようと考えたことはなかったそうだ。

 インスタ(Instagram)のDMでDir.Fから連絡をいただいて。怪しい事務所じゃないかをちゃんと調べたうえで(笑)、お会いしました。その頃はモデルとして活動して、写真と一緒に自分の言葉をインスタで発信していたんです。高校の軽音楽部ではギターボーカル担当で、その後も家で暇なときに弾き語りするとかはありましたけど、音楽で食べていこうと思ったことはなかったですね。

 しばらくDir.Fとは私の人生観や目標、夢の話をして、3回目に会ったときに2代目ボーカルとして声をかけていただきました。その場で「やります」って即答しましたね。あんまり深く考えてなくて、「ラッキー!」ぐらいの感じで(笑)。ちょうど「モデルを職にして生きていくのか? それとも就職するのか?」と今後のことに悩んでいた時期だったので、道が定まったことがうれしかったんです。でも水曜日のカンパネラのことは、正直『一休さん』『桃太郎』の2曲しか知らなくて。オファーを受けてからちゃんと調べて「え、YouTubeの登録者数めっちゃ多い!」「やば、私がこれやるの? マジ!?」って驚きました(笑)。でも自分の中で“なんとかなる精神”が働いて、「頑張ろう!」って感じでしたね。

2021年9月に、先代のコムアイが脱退し新しく主演/歌唱担当として詩羽が水曜日のカンパネラに加入した
2021年9月に、先代のコムアイが脱退し新しく主演/歌唱担当として詩羽が水曜日のカンパネラに加入した

 コムアイが顔となって8年間築いてきた実績を受け継ぎ、1人きりでステージに立つ。相当なプレッシャーを感じそうなものだが、詩羽は加入後の初ライブで堂々たるパフォーマンスを見せ、見守る観客を驚かせた。

 練習の段階ではコムアイさんの過去のライブ映像を見て勉強して。初ライブの最初の2、3曲は緊張して体がこわばっていたところもあったんですけど、途中から歌うこと、表現すること自体がすごく楽しくなっていきました。「楽しい」スイッチに切り替わってからは、無意識にいろいろなことをやってましたね。いろんな方から「あのライブはすごかったですね」って言っていただくんですが、「そうですかね~」くらいに思っていたんです。でも1年ちょっとたった今考えると、確かに「よくやったな」って(笑)。最近改めて映像を見て、「あのときの私イケてたな」って思いましたね。

 ケンモチ(ヒデフミ)さん(水曜日のカンパネラの作曲担当メンバー)やスタッフから、歌い方の指導とかは全くなかったんですよ。全部自分に任されていたのが私には合っていたと思います。指示されすぎると頭がパンクしちゃうタイプで。今もなんですけど、ライブのときはあんまり「こうしよう」と考えずに、そのときの感覚やテンション次第で、力を入れずに臨むことが多いです。朝起きて「今日ライブじゃーん」って思った気持ちのまま「やっほー!」ってステージに上がるような感覚です。

 2022年10月には一発撮りの「THE FIRST TAKE」への出演も話題となり、その歌唱力の高さを広く知らしめた。詩羽の音楽体験の原点にあるのは母の存在だという。

 お母さんがすごく音楽好きで、クルマの中でも家の中でも日常的に音楽がかかっていました。洋楽も邦楽も幅広く聴く人で、私より流行に詳しいんですよ。YUKIさんや木村カエラさん、椎名林檎さんなどをよく聴いていて、フジファブリックさん、サカナクションさんとかのバンドも好きでしたね。その影響か、私も小さい頃から歌うことが好きで。お風呂でめっちゃ歌ってて、母が近所の人から「お嬢さんよく歌ってるわね」って言われたこともあったみたいです。(笑)

水曜日のカンパネラは詩羽のほか、ケンモチヒデフミ(音楽担当)、Dir.F(その他担当)の3人組ユニット
水曜日のカンパネラは詩羽のほか、ケンモチヒデフミ(音楽担当)、Dir.F(その他担当)の3人組ユニット

 歌がうまいとは自分では思っていなくて……と言いつつ、確実に下手ではないとは思っているんですけど(笑)。でも高校の合唱祭でパートリーダーを任されたり、合唱曲のソロを任されたり、「詩羽は歌が上手だから」って周りから認識してもらう機会はたびたびあった気がします。軽音部ではガールズバンドを組んでいて、KANA-BOONさん、WANIMAさん、KEYTALKさんとか、男性バンドの曲をコピーしてましたね。

 22年2月にリリースした『エジソン』が5月ころから大ヒット。歌番組への出演なども果たし、詩羽の存在も広く知られるようになったが、ヒット前後での心境の変化を尋ねると、ユニークな答えが返ってきた。

 あんまり変わってはないんですけど……「芸能人ってなんだろう」から「芸能人って大変なんだなー」になりました(笑)。メディアに出る機会が増えるにつれて、SNSでマイナスなコメントが目につくようになったり。私は変装とかせず、こういう見た目のまま歩いてるので、街中で話しかけてもらうこともすごく増えたんですけど、あんまり良くない声のかけ方をされることもありますね。「だから芸能人はみんな変装するんだなあ」って実感しました。でも身を隠すより好きな服を着ておしゃれをしていたい思いが強いので、このままでありたいです。

 バズる予感は全くなくて、何かを仕掛けたりも特にしなかったです。今でもどこか第三者目線というか、「『エジソン』バズったよね。やばいね」みたいな感じです(笑)。うれしい変化としては、ファンの世代が広がったこと。水曜日のカンパネラのもともとのファンの方は“おじおじ”(おじさん世代)が多かったのが、『エジソン』がバズってからは私より若い人だったり、チビちゃんもライブに来てくれるようになったんですよ。お子さんが踊っている動画がDMでたくさん送られてきたり。すごくうれしいですね。

ファンとフラットな関係性でいたい

 普段から自身の考えをSNSなどで積極的に伝えている詩羽。「みんなが自己肯定感をちゃんと持てる社会にしたい」という思いを何度も口にしてきたが、その背景には自身の学生時代の経験が影響していた。

 今はギャルマインドで「自分大好きマジハッピー」っていう気持ちで生きているんですけど、中学高校のときは目立たない感じで、自分のことが本当に好きじゃなくて。でも「私が私を助けてあげよう」と思って、口にピアスを開けたり髪の毛を刈り上げたりして、見た目から自分を変えていったんです。今は自分のことが好きだし、自己肯定感が高いほうが断然生きやすいと実感しています。若い人たちはなかなかそう思えない人が多いと思うので、「もっと自分のことを好きになって、ハッピーに生きようぜ」とみんなに伝えたい思いが強くありますね。

 ファンの人たちからあがめられたくないというか、近い距離感でありたいと思っていて。年齢がいくつであっても「私のファンの“子たち”」と思って見ています。チビちゃんもおじおじも「みんなタメ!」な気持ちだし、「また来てくださいね」みたいなかしこまった感じではなく、「また来てねー」くらいの感じ。フラットな関係性でいたいと思っています。

新曲『赤ずきん』は23年1月25日にデジタルシングルとしてリリースされた
新曲『赤ずきん』は23年1月25日にデジタルシングルとしてリリースされた

 水曜日のカンパネラが23年最初にリリースした楽曲は「赤ずきん」。ABEMAオリジナル恋愛番組『隣の恋は青く見える4』の主題歌で、赤ずきんがオオカミの正体を見抜いている心情をコミカルに描いた歌詞が特徴的だ。

 恋愛番組の主題歌なのに、よくこの歌詞でOKが出たなあってスタッフと話してました(笑)。番組側から「カンパネラらしさを出してください」と言っていただいたので、ケンモチさんが番組の要素の「疑う」「だます」っていう要素とリンクさせて作ったそうです。

 しゃべりのラップが多い曲なんですけど、1人演技を見せつつメロディーを聴かせるような構成がすごく楽しいです。ライブではオオカミがステージに現れて、ミュージカルみたいな見せ方をしているんですよ。お客さんの反応も他の曲と違って、「聴く」より「見る」になってる感じが面白いですね。「Da Da Da……」のところは私がダンスする動きに合わせて、自然と体を一緒に動かしてくれたり。見ていて楽しいです。

 水曜日のカンパネラで「主演」という肩書を持つ詩羽だが、23年夏に公開される映画『アイスクリームフィーバー』では初めて演技に挑戦。さらなる飛躍の年になりそうだ。

 『エジソン』もそうですが、水曜日のカンパネラの楽曲では毎回あるキャラクターを描いていて、私自身それぞれになりきるつもりでパフォーマンスしているので、演技でも割と同じことをした気がします。私の分の撮影はもう終わっているんですけど、現場はすごく楽しかったですね。監督の千原(徹也)さんをはじめ皆さん温かくて優しかったし、私が演じた貴子という役が自分の性格に近い部分もあったので、他人を演じるというよりは、自分の中にある感情とつなぎ合わせて役になりきれた感覚がありました。

 セリフを覚えるのはすごく大変で、ぎりぎりで覚えました(笑)。歌詞も覚えるのは大変なんですけど、「2」という歌詞のときにピースサインをしたりとか、体で覚えられる部分があるんですよ。セリフはきっちり頭に入れなきゃいけないので、直前まで台本を確認していましたね。

 22年はいろいろな方に知ってもらうきっかけが多かった年でした。経験する全部が初めてで。23年はもっと初めてのことを経験したいですし、もっとたくさんの人たちに会えるように、いろんな国や場所に行きたいです。自分自身の思いや芯は変わらずにフラットなまま、もっとみんなと友達になりたい。

「Z世代」と呼ばれることに関しては、「その言葉に甘えてやろうという思いもある」と笑う
「Z世代」と呼ばれることに関しては、「その言葉に甘えてやろうという思いもある」と笑う

 目標にしているステージは、日本武道館です。私は突然ミュージシャンの枠にポンと入った身だし、大学に入ってフェスデビューしようと思ったタイミングで新型コロナウイルスが流行ったから、ライブにほとんど行ったことがなくて。だから出てみたい会場とかもあんまり思いつかなかったんですけど、大好きなカネコアヤノさんの初めての武道館公演に足を運んだときに「武道館っていいな」ってすごく思ったんです。なので武道館には出たいですね。

 最後に最近はまっているエンタメを尋ねると、懐かしのドラマのタイトルが。そして「Z世代」としてくくられることへの率直な思いも聞いてみた。

 Netflixで配信が始まった『池袋ウエストゲートパーク』(00年)にはまってます。セリフにパンチラインがすごく多いですし、池袋はなじみのある街なので「このボーリング場行ったことあるな」とか、身近な感じも楽しくて。私が生まれた時代のドラマなので、当時の服装1つとっても「当時はこんな感じだったんだな」って知れて面白いです。

 私はZ世代と言われることにそんなに悪い気はしてないですね。飲み会にあんまり行かないとか、自分の意思表示をちゃんとできる人が増えてるのはいい傾向なんじゃないかなって。私もレコーディングが終わったら5分で帰りますし(笑)。いっそ「私Z世代だし」って、その言葉に甘えてやろうっていう思いもあります。そんなにマイナスではなく、プラスの言葉でもあると受け取っていますね。

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(写真/興梠真穂)

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