男女7人組ダンス&ボーカルグループ「GENIC」のメンバー・増子敦貴。『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年)のツーカイザー/ゾックス・ゴールドツイカー役で注目を浴びるなど俳優としても活躍中の増子が、1月から配信中のDMM TVオリジナルドラマ『ナナシ-第七特別死因処理課-』にて連続ドラマ初主演を果たした。

増子 敦貴(ましこ・あつき)
2000年1月5日生まれ。福島県出身

2016年 avex主催『Boys Award Audition 2016』ファイナリストに選出。同年、舞台『人魚外伝~Anecdote of Mermaid~』で俳優デビュー。
2018年 『ミュージカル・テニスの王子様』3rdシーズンに白石蔵ノ介役で出演。
2019年 avexのDNAを継承する新グループ育成プロジェクト=a-genic PROJECTで最終メンバーに選ばれ、男女7人組ダンス&ボーカルグループ「GENIC」として活動開始。
2020年 GENICとして、1stアルバム『GENEX』にてメジャーデビュー。
2021年 『機界戦隊ゼンカイジャー』にツーカイザー/ゾックス・ゴールドツイカー役で出演。
2022年 『合コンに行ったら女がいなかった話』萩役。ミュージカル『東京ラブストーリー』三上健一役。所属するGENICは、2023年2月23日から過去最大公演数となるライブハウスツアーを開始。4月29日は追加公演となるSpecial EditionをLINE CUBE SHIBUYAにて実施する
『ナナシ-第七特別死因処理課-』はDMM TVのオリジナルドラマ。現在、毎週金曜24時に最新話を配信している
『ナナシ-第七特別死因処理課-』はDMM TVのオリジナルドラマ。現在、毎週金曜24時に最新話を配信している

 取材時は、1980年代の名作コミックが原作で、ドラマも大人気となったミュージカルで2023年1月22日に千穐楽(せんしゅうらく)を迎えた『東京ラブストーリー』に出演中。増子が演じたのは、プレイボーイの三上健一だった。

 原作やドラマとは別物といえど、『東京ラブストーリー』を2時間に凝縮して成立するのか? と不安もあったし、初日に間に合うのか危ういほど稽古が大変な時期もあったので、とにかく幕が開いて良かったなと、今は安心感が大きいです。ミュージカルという新しい形だからこそ、例えば僕が演じる三上に焦点を置くのか、主人公の完治に置くのかでもまるで違った受け取り方があると思います。目が1つじゃ足りない……違うな、2つじゃ足りない作品です(笑)。

 僕は、どちらかと言うと原作の三上を意識して演じました。(1991年のドラマ版で三上を演じた)江口洋介さんのような余裕のある男ではなく、ダブルキャストの廣瀬友祐さんともまた違う、僕ならではの三上を演じたい。舞台は、正解がいつまでも出ないものだと思うんです。生ものだからこそ反射的に出たものを大切にして、新しい何かが生まれることを期待しながら演じていきたいですね。

『ナナシ』は、死神たちが働く中央死因管理局が舞台。増子が演じるスナオは、エリート部署に所属していた死神
『ナナシ』は、死神たちが働く中央死因管理局が舞台。増子が演じるスナオは、エリート部署に所属していた死神

 『東京ラブストーリー』の稽古に入る直前に『ナナシ』を撮了。物語の舞台は、死神(しにがみ)たちが働く中央死因管理局。死神には、それぞれ担当する死因が決められており、担当死因を使って人生最期のストーリーを考えるのが死神の仕事だ。増子演じるエリート死神・スナオに、ある日突然下った異動命令。その異動先は「第七特別死因処理課」、通称「ナナシ」だった。直撃死や呪死など、特別な死因を扱うナナシに所属するのは、ポンコツで変わり者の死神ばかり。スナオは、自身の担当死因も決まらぬまま、ナナシで奮闘することになる。

役割を必死に果たそうとする役柄に共感

 設定がすごく面白いなと思いました。20分程のドラマなので展開が早いし、コメディだけどちゃんとメリハリがある。死を扱いながらもシリアスになりすぎないよう、笑える要素が含まれているという感じです。ジーンとくるところもあるんですけど、号泣するほどではなくて。気楽に見ながらも、命について「確かに。そうだよな」と思える、バランスが良い作品だと思います。

 あと、ほぼ会議室だけで繰り広げられる展開なのに、飽きないんですよね。ターゲットとなる人間の死因を決めて、命の炎を消すのが僕たち演じる死神の仕事なんですけど、ターゲット役も僕たちが演じているんです。ファンの皆さんにとっては、キャストのいろんな姿も見どころだと思います。

 こういう「ザ・主人公」みたいな、周りの人たちにもまれながら成長していくキャラクターを演じてみたい気持ちはありました。スナオは仕事に忠実で、自分の成績に誇りを持っているエリート死神。僕との共通点は少ない気がしますが、共感はしますね。役割を果たすことに必死で本質を見落としてしまうことって、どの仕事にも通じるというか。例えば僕で言うと、お客さんに「良かった」と思ってもらうことが全てだけど、全力でやりきれたか、心から楽しめたかなどを自分目線で考えてしまうことがあったりして、「大事なことを見落としていたんじゃないか?」と振り返ることもあります。『ナナシ』に、感化されたところもありますね。

 周りにいる死神たちは本当に個性的で、常に騒いでいる死神もいれば、無気力でつかみどころのない死神もいる……ちなみに、僕が好きなのはブコツ(相澤莉多)です。基本的に座禅を組んで目をつむっているんですけど、実は重要な役どころなんです。開眼するその時を期待していてほしいですね。

 キャストの年齢には幅があったんですけど、すごく気楽でしたし、楽しかったですね。主演だからと特別な気負いはなく、積極的な先輩方に支えられました。男子校のような現場の雰囲気は、作品にも反映されています。初めての主演作が『ナナシ』だということは本当にうれしいですし、たくさんの方に見てもらいたいです。

21年の『機界戦隊ゼンカイジャー』のツーカイザー/ゾックス・ゴールドツイカー役で注目を浴びる
21年の『機界戦隊ゼンカイジャー』のツーカイザー/ゾックス・ゴールドツイカー役で注目を浴びる

 芸能界入りを目指したきっかけは「有名になりたい」。父の応募をきっかけに、東京への家族旅行がてら受けたオーディションに合格、上京。経験者ばかりの中、歌もダンスも芝居も、ゼロからのスタートだった。

『ゼンカイジャー』は誇れる作品

 僕、1次選考に受かった時には「スターだ!」と思いました(笑)。でも、現実は周りについていくだけで必死。目の前のことをただ全力でやる日々でした。当時は正直、全てが楽しいとまでは思えていなかったけど、あの期間があったからこそ今の自分があります。

 演技レッスンは最初から楽しいと感じることが多くて、初舞台『人魚外伝~Anecdote of Mermaid~』(2016年)では、今思うとすごい格好で人魚役を演じたんですが、お芝居が大好きな人たちと作り上げていくうちに、もっと芝居が好きになりました。

 なかでも『熱海殺人事件 CROSS OVER 45』(18年)でご一緒した、味方良介さんや石田明さんとの出会いはすごく大きかったです。長せりふが覚えられなくて、泣きそうになりながら稽古をして。舞台に出るのも苦しい時期があったんですけど、味方さんに「俺らに負けるな」「舞台上で戦え」と言われて、命をかけるくらいの気持ちで取り組みました。芝居は下手くそだったけど、熱量は伝わったと思う。心を動かすものにおいて、気持ちで負けちゃいけないんだということを教わりましたし、それは今も大事にしています。

 『ゼンカイジャー』は僕にとって、誇れる作品ですね。ちょうど昨日、電車に乗ってたら「ゼンカイジャー」って言葉と、僕のお決まりせりふの「ヨホホイ」が聞こえてきたんですよ! 今も好きでいてくれる方がいるんだと実感しましたし、子どもにとっては永遠のヒーローですよね。だからこれからも、自信を持って代表作だと言いたいです。

 とはいえ、映像作品の立ち居振る舞い方を含め初めてだらけで、時に楽しく、時に悔しく、いろんなものが詰まった1年間でした。悔しかったのは、監督も僕も納得がいかないまま、妥協のOKをもらった時。実は少なくない数があって、ほぼ毎日落ち込んでいました。もう一度当時に戻ったら、僕は違う芝居をしていると思うけど、その時にしか出せないものもあると思うんです。だからその瞬間に悔いがないよう、頑張るしかないですよね。

所属するダンス&ボーカルグループのGENICは、2月23日から過去最大公演数となるライブハウスツアーがスタートする
所属するダンス&ボーカルグループのGENICは、2月23日から過去最大公演数となるライブハウスツアーがスタートする

 2月23日からは、GENICとして過去最大公演数となる、16会場32公演を巡るライブハウスツアーがスタート。グループとしての目標があるからこそ個人の仕事も頑張れるのだと、迷いなく語った。

 役者って、年齢を重ねれば重ねるほどいろんな役と向き合える一方、その時にしかできない役もある。だから面白いですよね。ただ、若いうちに一度は、制服を着て胸キュンせりふを言ってみたい(笑)。それから僕、佐藤健さんのお芝居が大好きなんです。最近、4回目の『8年越しの花嫁』を見たんですけど、ああいう素朴な役や、感動する作品にも憧れます。

 映画や月9ドラマの主演も目指したい。僕が主演の映画で、GENICが主題歌を担当するというのは一番の夢ですね。たくさんの人に見てもらえる環境が欲しいんです。

 グループとしては、まず目の前にあるツアーを成功させることが目標です。GENICには、メンバーが曲を作っているという強みや、男女混合だからこそのフレッシュな魅力があるし、「僕らのライブを見て笑顔にならない人はいない」という自信があります。武道館やドームといった大きな会場で、ファンの皆さんと楽しい思い出を作りたいという目標があるからこそ、個人の仕事を頑張れる。僕は、グループに還元できるように何でも頑張りたいし、GENICが大きくなればなるほど、役者としていろんな作品に出られるようになるとも思うんです。

 多忙な日々の合間にハマっているのは、アクション・サスペンスドラマ『ブラックリスト』。現在、Netflixでシーズン8まで視聴できる本作を、コツコツ見てきたそうだ。

 女性FBI捜査官・リズに、犯罪者のレッドが「俺を自由にしてくれたら、捜査に協力する」と名乗り出ることから始まる壮大な物語なんです。1話が約1時間、1シーズン約25エピソード、本当に長く険しい道のりでした。それなのに、レッドの思惑や正体も分からないまま、びっくりする展開になったんです。リズ役の降板まであって、「オチ、まだなのに……」と、どうなるんだろうと思っています。

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(写真/中村嘉昭)

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