2023年は2本の主演作と1本のヒロイン出演作への映画出演が決定するなど、大きな飛躍が期待される19歳の吉田美月喜。先陣を切って1月27日に公開される、常盤貴子とダブル主演を務めた『あつい胸さわぎ』では、母の昭子(常盤)や、姉のように慕う透子(前田敦子)、幼なじみの光輝(奥平大兼)たちに見え隠れする恋愛の陰に、嫌悪感や戸惑いを覚える18歳・千夏をみずみずしく演じている。
2017年 スカウトがきっかけで芸能界入り
2020年 Netflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』に出演
2021年 TBS日曜劇場『ドラゴン桜』に出演
2022年 映画『メイヘムガールズ』主演
23年は『あつい胸さわぎ』のほか、映画では主演作の『カムイのうた』、ヒロインを演じる『パラダイス/半島』が控える。また2月25日放送開始予定の連続ドラマ『沼る。港区女子高生』(日テレ系)に主要キャストで出演する。
そして千夏に発覚する乳がん。初期の発見だったために深刻な状況ではなかったものの、まだ誰にも触れられたことのない胸を失うかもしれない漠然とした不安や、やけになりそうな気持ちを抱えながら、母と娘はすれ違い、ぶつかり合いながら進もうとする。本作ポスターのコピーは『おっぱいなくなっても恋とかできるんかな…』。この言葉について、撮影当時18歳だった吉田は「考えてみたこともなかった」という。
台本を読んだとき、「そういう可能性もあるんだ」と気がついたくらい、乳がんに対する知識は浅かったです。撮影当時は千夏と同じ18歳だったので、高校を卒業して新たな一歩を踏み出す、晴れやかな気持ちに共感しつつ、急に乳がんという状況になって、困惑しただろうと思いました。千夏もきっと私と同じように、知識がほぼない状態だったと思うし、どこに相談したらいいかも分からない、本当に「何も分からない」気持ちだっただろうなって。乳がんについてネットで調べてみたのですが、色々な情報がいっぱいある中で、何を信じていいのか分からない状態に陥りました。千夏もきっとそういう経験をしたと思うので、私自身が役作りをする上で感じた戸惑いを大切に演じました。
正直、「いざ自分が千夏と同じ病気になったらどうするか」と、言葉にするのは違うかなと思っています。当事者にしか分からないことって絶対にあると感じるから。ただこの作品を通して、向き合うことの大切さを知りました。演じている私も感じるほど、千夏は周りの人からすごく温かく見守られていて、みんなが千夏に真っすぐ向き合っているんです。乳がんに限らず、コンプレックスや人になかなか言えないことって誰にでもあると思うんですけど、ゆっくりでいいから周りがしっかり向き合ってあげることが、支えになると思いました。
18歳って、大人になりたいけど、1人ではまだいろんなことを決められない幼さがありますよね。千夏は今回、お母さんと話せたことによって一歩踏み出せたのかなと思うんです。ここから先も、この親子ならきっと乗り越えられる、乗り越えてほしいと思っています。
共演者や監督への大きな感謝
――本作は常盤とのダブル主演。乳がんは1つの大きな要素ではあるが、いわゆる“難病もの”ではなく、描かれるのは18歳の女の子の率直な悩みや成長そのものだ。「皆さんが、私を千夏でいさせてくれた」と、キャストや、まつむらしんご監督への感謝を語る。
常盤さん、前田さんと、「こんなに映画に対する愛を持っている監督ってなかなかいないよね」と何度も話しました。まつむら監督の優しさがにじみ出ている作品だと思います。そもそもオーディションが特殊で、もちろんお芝居もしたのですが、ほとんどの時間は私の家族の話やこれまでのことを聞いてくださったんです。千夏役に決まった時に監督が言ってくださった「一緒に主演として戦ってほしい」という言葉がすごくうれしくて、ついていきたいと思いました。
主演は現場を引っ張っていく、現場の雰囲気を作っていくというイメージはあったんですけど、この現場ではそういった考え事を一切しませんでした。それくらい全力で楽しんで、千夏のことだけを考えて演じてたなあって。でもそれは、常盤さん、前田さんをはじめ皆さんがそういう環境を作ってくださったからだと思います。常盤さんにはたくさん面倒を見ていただきましたし、前田さんはとてもフランクに話しかけてくださって、役と同じく家族とはまた違う話しやすさを作ってくださった。皆さんが、私を千夏でいられるようにしてくださっていたと感じます。
最近だと『メイヘムガールズ』(22年)の時も、あまり主演という感じではなかったです。メインキャストの年が近かったこともあって「4人で一緒に楽しもう」という気持ちでした。監督も、そういう女子高生ならではの無敵な感じを求めていたので、学校みたいに和気あいあいと撮影を楽しんでいましたね。
――21年以降は毎年、映画主演を果たすなど着実に力をつけている吉田。近作では実年齢と同い年の役が続いたが、作品の色は様々。役作りは大変なことも多いというが「それさえも楽しい」と話す。
作品が増えて、主演の機会も増えてきたことに、もちろんプレッシャーはあります。役作りが大変な作品もありますけど、私は今、それも楽しんでできているんです。役作りでは、役との共通点を見つけるところから始めます。千夏で言うと年齢も同じでしたし、私自身、母との関係がフランクで、よく「姉妹みたい」と言われるんです。だから千夏とお母さんとの関わり方は想像しやすかったし、だからこそお母さんの恋愛模様を見たときの感情、嫌悪感だったり心配だったりという気持ちもよく分かりました。
『カムイのうた』(23年秋完成予定)で演じるテルには、知里幸恵さんというモデルがいるんですが、実在した方を演じるのは初めてでした。知里さんは19歳でお亡くなりになったのですが、私も今19歳。22年の夏に撮ったので、同じ年齢なんです。だけどやっぱり昔の方、それも知里さんは背負うものがあった分、すごく大人なんですよね。亡くなる直前まで、アイヌ民族のために神謡集を書き続けた芯の強い女性ですから。
本作では、アイヌ民族の方が見て、納得していただける作品にしなきゃいけないと思ったので、アイヌ民族の文化を知ることから始めて、役作りの面では大変な作品でした。だけどそれも、仕事として楽しんでできました。
今このタイミングを逃さないように
――スカウトされ、「好奇心で」芸能界に入ったのが17年。レッスンを受けるうちに、元来の負けず嫌いが顔を出した。高校卒業を機に、俳優の道に進むことを決意したという彼女。今後の展望を聞くと、『あつい胸さわぎ』の撮影、そして同作の映画祭出品を通して見つけたある目標を教えてくれた。吉田にとって、同作で得たものは大きいよう。いずれ、転機と呼べる作品になるのかもしれない。
もともとスポーツをやっていたからですかね、演技レッスンでも「負けたくない。勝ち取りたい」という気持ちが強くなっていきました。そこからいろんな現場を経験させていただいたんですが、私はこの仕事をしていて、撮影現場が一番楽しいと思っているんです。いろんな現場で、いろんな大人の方から話を聞いてみたい。だから頑張りたいという気持ちが大きいですね。
女優として生きていこうと決めたのは、母が「その年で自分がやりたいと思う仕事を見つけているのはすごくいいことだよ。やりたいと思うなら全力でやってみなさい」と言ってくれたから。高校を卒業するとき、「どうしようかな」と思う気持ちもあったんですが、その言葉で、「うん、やろう」と決めました。
22年10月に、『あつい胸さわぎ』が東京国際映画祭に出品されて、初めてお客さんと一緒に映画を見るという経験をさせていただきました。皆さんの真剣なまなざしや、笑ったり泣いたり楽しんでくださっている空気感を直接感じて、すごくうれしかった。そうして、いろんな方に新しい価値観や世界観を伝えられる女優になりたいと改めて思いました。
『あつい胸さわぎ』を振り返ったとき、実は「主演としては何もできていなかったな」という反省点が残りました。だからこそ、今後は「吉田美月喜が主演だから安心だよね」と言ってもらえる女優になりたいという、新たな目標を見つけました。最近は、こうして主演の機会をいただいているので、チャンスを無駄にしないように1つ1つを大切にしたい。今後、決まっていく作品もきっとあると思うので、今このタイミングを逃さないようにしたいと思っています。
――最近はまっているエンタメはアニメ。よく話しよく笑う、等身大の19歳そのままに、好きな作品について楽しそうに話してくれた。
今までアニメというものを一切見てこなかったんですが、新型コロナが流行して最初の自粛期間をきっかけに見るようになって、「おもしろいじゃん」と。今期の作品もけっこう見てますね。1つ挙げるなら、もう定番ですけど『東京喰種 トーキョーグール』。「金木、うわぁかっこいいー」って(笑)。キャラクターがみんなかっこよくって好きです。今、いろんな人におすすめのアニメを教えてもらっていて、次々に新しい情報が入ってくるので、どんどん見ていこうと思っています。
(写真/KOBA)