2015年、現所属事務所が開催した初の大規模オーディションでグランプリほか各賞を受賞し、芸能界へ。まもなく、新人女優の登竜門として知られるポカリスエットのブランドキャラクターに抜てきされるなど、早くから注目の存在であった八木莉可子。

八木 莉可子(やぎ・りかこ)
2001年 7月7日生まれ、滋賀県出身
2015年 「#THE NEXT ASIACROSS MODEL AUDITION 2015」で応募者7851人の中からグランプリに
2016年 ポカリスエットのブランドキャラクターに抜てき
    「ミスセブンティーン2016」選出、雑誌『Seventeen』(集英社)専属モデルに
2017年 『僕たちがやりました』で連ドラ初レギュラー
2021年 『スパゲティコード・ラブ』で映画初出演
2022年 『HOMESTAY』にて、山田杏奈とダブルヒロインを演じる

22年は、映画『おそ松さん』(ハル役)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(きく役)などに出演。2023年1月13日公開の映画『イチケイのカラス』にも出演している

 現在21歳になる彼女の最新作が、Netflixシリーズ『First Love 初恋』。宇多田ヒカルの『First Love』『初恋』にインスパイアされた運命的なラブストーリーにて八木は、満島ひかり演じる野口也英(のぐち・やえ)の10代から20代前半を演じた。まだ演技経験が豊富とはいえない中、作品の重要なパートを任された八木。本作を経て「役を生きる」ことを学んだという。

 出演が決まったのは、まだ高校生の頃でした。オーディションを受けて帰る途中、「戻って来てほしい」と電話がかかってきたんです。終わってホッとしていたところだったので、もう一度お芝居をしなくちゃいけなくなったらどうしようと焦りましたが、その場で「決まりました」と言っていただきました。当日に決まることなんてなかなかないので、びっくりしたのを覚えています。もちろんうれしかったのですが、私はお芝居の経験がまだまだ少なかったので、「満島ひかりさんと同じ役なんて務まるだろうか」と、不安もありました。

Netflixシリーズ『First Love 初恋』は22年11月24日 配信開始
Netflixシリーズ『First Love 初恋』は22年11月24日 配信開始

 撮影を終えたのは昨年。私は海老が苦手だったんですけど、海老好きな也英の影響でおいしいと思えるくらい(笑)、長く也英でいることができました。コロナの流行で一度、撮影が延期になってしまったんですが、その分、ワークショップを含め準備の期間をたくさんいただきました。寒竹ゆり監督やひかりさんと、也英像をすり合わせながら撮影を進めることができてありがたかったです。

曲に助けられた部分も

 出演が決まってから、改めて宇多田ヒカルさんの曲を聴くようになり、今もずっと聴いています。やはり『First Love』という曲は、演じる上ですごく意識していました。北海道ロケでは移動時間が長かったんですけど、その間もずっと聴いて、役に思いをはせていましたし、曲に助けていただいた部分もたくさんあります。「明日の今頃には/あなたはどこにいるんだろう」という歌詞があるんですけど、「今」ではなく「明日」何をしているんだろうと考えるのは、相手を深く知りたい気持ちの表れだと思うし、とても尊い愛を歌ってるような気がして、私はこのフレーズが大好きなんです。私の世代でも、この曲を知らない人はいないと思いますね。

 高校卒業まで地元・滋賀で過ごした八木にとって、撮影が長期にわたる現場の経験は、まだ数える程度。芝居を重ねるたび悩むことも増えていったが、満島ひかりからあることを教わり、心がけるようになった。撮影を終えた今、自分なりの芝居の方法が少しつかめてきた気がするという。

 完成した作品はとても美しい映像でしたが、自分を客観的に見ることはできませんでした。今も正直、不安はあります。そして、ひかりさんのお芝居が本当に素晴らしかった。私は、ひかりさんや(大人になった初恋の人、晴道を演じる佐藤)健さんとは撮影期間が違ったので、初めて見るシーンが多かったんです。お2人のシーンでは純粋にボロボロ泣いてしまって、次の日にはまぶたを腫らして大学に行きました。

八木は、満島ひかり演じる野口也英(のぐち・やえ)の10代から20代前半を演じる
八木は、満島ひかり演じる野口也英(のぐち・やえ)の10代から20代前半を演じる

 こんなにもすてきな皆さんの中に混ぜていただき、お芝居ができたことは本当に貴重な経験でしたし、挑戦でした。撮影初期は、役作りのことも何も分かっていなかったんです。自分とは全く違うものとしてお芝居をするのか、自分ごととして捉えて役を生きるのか……それすらも分からない状態。ですから、いろいろと分かってきた終盤のほうが、悩むことが増えていきました。思うように演じられていないことが自分でも分かって、泣きたいけど、翌日も撮影があるから泣けなくて。

 そういうとき、ひかりさんにもお話を聞いていただきました。私は、台本を読み込んで演じなきゃと思っていたんですが、ひかりさんから「その場所で生きることも大切だ」と教えていただいたんです。準備は大切だけど、読み込みすぎると、相手が台本とは違うニュアンスで話していてもキャッチできない、それは会話とは呼べないよ、と。それから、現場ではその場所を生きて、也英として感じたことを大切にお芝居しようと心がけるようになりました。悩んだことで、それまで漠然としていた作品との向き合い方が明確になって、自分なりのお芝居の方法を少し、つかめたような気がします。いまだ悩みの中にいるんですが、「悩む」という機会をいただけたことがありがたいと思うんです。

 この世界に入るきっかけは、知人の推薦で受けたモデルオーディション。16年に「ミスセブンティーン2016」に選ばれて、雑誌『Seventeen』(集英社)の専属モデルとなったが、当初から芝居にも興味はあったという。21年に専属モデルを卒業し、本格的に役者の道を歩み始める。

デビュー後すぐに「ポカリスエット」のCMに出演
デビュー後すぐに「ポカリスエット」のCMに出演

 事務所に入って、まだ宣材写真もない頃に初めて受けたのが「ポカリスエット」のCMオーディション。その時の審査曲が、なんと宇多田ヒカルさんの『traveling』だったんです。『First Love 初恋』のオーディションのときにそのお話をしたら、急きょ、その場で歌うことに(笑)。CMが放送された当時、地元のみんながとても驚いていたのを覚えています。私は生徒会長をしていたんですが、後輩から「ポカリ先輩」と呼ばれていました(笑)。いまだに「ポカリの子」と言っていただくこともありますし、とても影響力のある作品だったんだなと思います。

 もともと、モデルだけを志望していたわけではなく、お芝居にも興味がありました。小さい頃からの仲良し4人組と、デジカメで「赤ずきんちゃん」のリメイクバージョンを撮影したこともあるくらい。ですから、機会をいただいたときには「ぜひやってみたいです!」と挑戦して、楽しいと思いました。むしろ昔のほうが、何も考えていなかった分、ただ楽しくて仕方がなかったですね。

監督からの言葉を支えに

 それが、『HOMESTAY』(22年、Amazon Prime Video)をきっかけに難しいと思うようになりました。というのも、初めて入らせてもらった長期の作品だったんです。やっと現場というものに慣れ、緊張が解けた作品だったのですが、その分、周りが見えるようになり、難しいと思うようになって。『First Love 初恋』で、完全に悩みが深くなりましたね。寒竹ゆり監督から「好きな人に会ったら瞳孔が開いて目が潤んで、本能的な反応があるんだ」と、「それが全然なってない」と言われたんです。自分自身が心からそう感じるくらい、役として生きなければいけないんだと知ってから、どうすれば自分の中から感情が湧いてきて也英になれるのか、すごく悩みました。

 だけど、撮影に入る前に監督からいただいたお手紙に「どんなにうまい役者に出会っても、私は莉可子を選ぶと思います」と書かれていて、それがすごくうれしかったんです。悩んだり、監督に怒られたり、「私で大丈夫なのかな」と思ったときも、監督からいただいたその言葉を最後のとりでとして、ずっと心に大事に持っていました。作品を経験して、自信を持てたところもあれば、打ち砕かれた部分もありますが、素晴らしい財産をいただいたと思っています。

『鎌倉殿の13人』には北条時政の娘のきく役で出演
『鎌倉殿の13人』には北条時政の娘のきく役で出演

 22年は、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に、坂東彌十郎演じる北条時政の娘のきく役として出演。現場のスピード感は「全くの別物」としながらも、「役を生きる」という根底は変わらず大切にしている。悩みながらも役者業を頑張る先には、「なりたい人間像」があるのだという。

 おこがましいですが、少しでも人をプラスにしたり、幸せにできる人になれたらいいなという思いがずっとあります。私は今まで、テレビや作品を見て、面白くて笑ったり、時には夢をもらったり、たくさん幸せにしてもらいました。今度は出る側として、誰かをちょっとでもプラスにできたらうれしい。俳優を頑張れば頑張るほど、そこに近づけるんじゃないかと思うんです。もともと幸福度や自己肯定感に興味があって、今は大学で社会学を学んでいるんですが、そうした学びを俳優業にも還元できたらいいだろうなと思うんです。

 最近ハマっているエンタメは『呪術廻戦』。宇多田ヒカルの曲もそうだが、ハマればとことんハマってしまう、オタク気質なところがあるという。

 もともと、神社巡りや和のテイストが好きなんですが、大河ドラマをきっかけに日本史を勉強したことで、余計に面白いんです。菅原道真と聞くと「あの人だ!」と興奮しますし、みんなで協力する系のお話にも弱いんです。まずアニメにハマって、コミックも買いそろえ始めました。

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(写真/中村嘉昭、ヘアメイク/Tomoko Sato[mod’s hair] NAO YOSHIDA[vow-vow]、スタイリスト/皆川 bon 美絵[the few])

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