『恋はつづくよどこまでも』(2020年)『きれいのくに』(21年)と連ドラ出演で注目を集め、22年には、長澤まさみとともにJRA年間プロモーションキャラクターに抜てきされ、『liar』で連ドラ初主演(FANTASTICS from EXILE TRIBEの佐藤大樹とのW主演)を果たした見上愛。

見上 愛(みかみ・あい)
2000年 10月26日、東京都出身。
2019年 デビュー。
2020年 映画『星の子』で映画初出演。映画『衝動』で映画初主演(倉悠貴とのダブル主演)。
2021年 ドラマ『きれいのくに』に出演し注目を集める。
2022年 JRA年間プロモーションキャラクターに抜てき。ドラマ『liar』にて連続ドラマ初主演(佐藤大樹とのダブル主演)。

現在、ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』(Amazon Prime ビデオ)が配信中。11月から放送中のドラマ『両刃の斧』(WOWOW日曜22時)で柴崎曜子役を演じている。

 デビュー4年目にして勢いに乗る22歳が、自身初となる舞台に挑戦する。中学生の頃から観劇を趣味とし、舞台に憧れを抱いていた彼女。初めての舞台オーディションで、見事合格を手にしたのは、松尾スズキ作・演出による『ツダマンの世界』。昭和初期を舞台に、ツダマンこと小説家・津田万治(阿部サダヲ)と周囲の人々が織りなす愛憎劇だ。見上は、ツダマンの弟子・長谷川葉蔵(間宮祥太朗)に近づくミステリアスな文学少女・兼持栄恵を演じる。

 昔から観劇が大好きで、もちろん松尾さんの作品も見ていました。中でも『業音』(02年初演)が特に好きです。悲しいお話なんですけど、松尾さんの脚本と、演者の皆さんの人間味あるお芝居によって、ただの悲劇ではなくなる。松尾さんは、人間が持っている嫌なところを、いとおしく描く方ですよね。『ツダマンの世界』の台本もすごく面白くて、私自身、早く見たいなと楽しみにしています。

 高校時代は演劇部でしたが、お仕事として舞台に立つのは初めて。お芝居についていろいろ考えるようになったからこそ、緊張します。演劇部には裏方をやろうと思って入ったんですが、入部した日にたまたまオーディションがあり、半ばだまされて舞台に立ったことがお芝居を始めたきっかけ。当時は、椅子から立ち上がることすらできないくらい、まったく演技ができませんでした。台本の読み方については大学で演出の勉強をしている中で学びました。役の心情を中心に考えるのではなく、全体において役がどうあるべきかを重要視しながら、理論的に読んでいく。私は役作りをする上で役に入り込むよりは、作品を俯瞰(ふかん)で見るタイプだと思いますね。

『ツダマンの世界』の作・演出は松尾スズキ。出演は阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこほか
『ツダマンの世界』の作・演出は松尾スズキ。出演は阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこほか

 今回の台本をいただいたとき、最初は読み方が難しいなと思いました。映画やドラマはシーンで構成されていますが、舞台はすべてつながっている分、深く何度も読み込まなければ想像しづらいところがあったんです。だけど、キャストの皆さんを役に当てはめて読んでみると、すでに面白くって。「阿部さんはどういうふうに演じるんだろう」とイメージしながら読むことで、せりふが入りやすくなりました。

自分にとって大きなきっかけに

 主演の阿部サダヲをはじめ、間宮祥太朗、江口のりこら個性的なキャストが名を連ねる本作。早くも緊張していると言うが、それ以上に、そばで見て学びたい気持ちが大きい。

 万治の妻・数(かず)役を演じる吉田羊さんとは『きれいのくに』で共演させていただきました。お顔立ちが美しいのはもちろん、品性がにじみ出ていて、すごくすてきな方。撮影でご一緒したのは1日ほどだったんですが、お芝居について、監督にいろんな提案をしていらっしゃる姿が印象に残っています。

東京公演は22年11月23日~12月18日にBunkamuraシアターコクーンで。京都公演は22年12月23~29日にロームシアター京都メインホールで公開される
東京公演は22年11月23日~12月18日にBunkamuraシアターコクーンで。京都公演は22年12月23~29日にロームシアター京都メインホールで公開される

 今は、楽しみと緊張と不安が交互にやってきて、ごちゃ混ぜの状態なんです。始まってしまえばきっと、あっという間に日々は過ぎてしまうと思うんですけど、始まりを待つ時間はすごく長く感じます。だけど、せっかく先輩方とご一緒できる機会ですから、緊張さえも楽しみたい。皆さんのお芝居をこんなに間近で見られることが楽しみでしっかり見て吸収したいです。舞台には体力や筋力も必要ですから、バテないように、そして見に来てくださる方々に緊張感が伝わらないように気をつけて、あとは自由に頑張りたい。この舞台は、自分にとって1つ、大きなきっかけになるような気がしています。

 JRA(日本中央競馬会)の年間プロモーションキャラクターへの抜てきは、自身が敬愛する寺山修司をはじめ、数々の著名人が担ってきた歴史ある役割として、その重みを肌で感じている。22年8月公開の映画『異動辞令は音楽隊!』にて主演・阿部寛の娘役を好演したことも記憶に新しく、いまや幅広い世代に顔を知られる存在となった。

 JRAさんのお話を聞いたときは「嘘でしょ?」という驚きの気持ちでした。もうこれは「事件だな」と。以前から寺山修司さんが好きで、初めての撮影の終わりに、寺山修司さんが出ていた当時のCMを見せていただいたんです。「本当に、寺山さんと同じCMに出演しているんだ」と、感激して泣いてしまいました。CMをきっかけに、自分の年代よりも上の方が知ってくださる機会が増えて、SNSにいただくコメントも、最近は年齢層が広くなったように感じています。

JRAの年間プロモーションキャラクターになる前から、かつて同会のCMに出演していた寺山修司が好きだったという
JRAの年間プロモーションキャラクターになる前から、かつて同会のCMに出演していた寺山修司が好きだったという

 『異動辞令は音楽隊!』も、幅広い世代の方が見てくださっているように思います。友達からも「家族と見に行ったよ」と、たくさん連絡をもらいました。撮影は21年の夏、初日から阿部さん演じる父と衝突するシーンを撮ったんです。演じるのが難しく何テイクもお付き合いいただいてしまいました。親子で楽器セッションするシーンも実際に弾いていますが、中学、高校でバンドをやっていたとき以来のギター演奏だったので、しっかり練習しました。撮影中はあまりお話しする機会がなかったんです。だけど、とても暑い日に涼しい部屋を譲ってくださるような優しい方で、公開後の舞台あいさつのときには「今度、初舞台なんでしょ?」と声をかけてくださったんです。阿部さんも今、舞台中ということで「課題がたくさんあるんだよね」と、いろんなお話をしてくださいました。

自分なりの個性を生かしたい

 19年のデビュー以降、20年には映画『衝動』で主演を経験(倉悠貴とのW主演)。次々と話題作に出演する彼女だが、『きれいのくに』への出演を機に、出会いが広がったと話す。今、まさに求められる女優になりつつあり、彼女自身は「ずっと楽しんでお仕事をしていられたら」と、自分らしさを大切にしたい思いがある。

 今、こうしてたくさんの作品に出させていただいていますが、その転機になったのは『きれいのくに』だと思います。お仕事で関わるスタッフの方が、「見てました」と言ってくださることがとても多くて、あの作品をきっかけに新たな作品に呼んでいただくこともあり、出会いが広がったような気がします。『liar』も、男女の愛憎劇を描く作品でしたが、臆することなく挑戦できた作品でした。信頼する監督やカメラマンさんがいるアットホームな現場だったからこそ、いろいろ試しながら演じることができたんです。

これから演じてみたいのは「自分なりの正義を持っている悪人みたいな役どころ」とのこと
これから演じてみたいのは「自分なりの正義を持っている悪人みたいな役どころ」とのこと

 『衝動』もそうですが、キャラクターが強い役をいただくことが多いかもしれません。個性的な顔立ちだと言われることが多いので、そこが役とマッチするのかなと思います。これから演じてみたいのは、自分なりの正義を持っている悪人みたいな役どころ。コメディもやってみたいです。でも、役の大小や、主演か否かは、自分にとってあまり関係ないことだと思っています。いわゆる脇役と呼ばれる立ち位置で演じるときの方が「作品にどう影響を及ぼしたらよいか」ということを強く考えるような気もしますし、どちらも違うやりがいがあって面白いんです。

 役者として「こうなりたい」という具体的な目標は、今は本当にないんです。ただ、表現者ではいたいですし、ずっと楽しんでお仕事をしたいと思っています。その場が楽しければいいというものではなく、「苦しみも結局、楽しいに変わればいいな」という意味での楽しさ。そこを見失わないように、いろんなことに挑戦していきたいと思っています。例えば、歌えるようにもなりたいし、雑誌も作りたい。そのときそのときの自分に合った表現を続けていきたいですね。

 コロナ禍になり、大好きな観劇の機会が一時期失われた。それをきっかけに、アニメへの熱が再燃したという。

 おすすめは『フリクリ』です。私が生まれた00年の作品なんですが、改めて見てやっぱり面白いと思いました。実は松尾さんも声優さんとして出演していて。作画も構成もすべてがめちゃくちゃで、そのめちゃくちゃなところが最高なんです。癖になるので、ぜひ見てみてほしいですね。

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衣装協力:ネックレス6万500円/WOUTERS & HENDRIX (ウッターズ・アンド・ヘンドリックス)、リング2万4200円/IOSSELLIANI(イオッセリアーニ)、リング1万7600円/DELPHINE CHARLOTTE PARMENTIER(デルフィーヌ・シャルロット・パルモンティエ) 問い合わせ先:H・P・FRANCE●03-5778-2022

(写真/中村嘉昭、ヘアメイク/豊田健治<SHISEIDO>、スタイリスト/下山さつき)

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