4歳の頃にモデルとして活動を開始し、子役として数多くの作品に出演してきた中川翼。16歳になった現在は、2022年にNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、初代執権・北条時政と牧の方の間に生まれ、若くして命を落としてしまう北条政範を演じるなど、役者としての輝きを放ちつつある。そんな中川が、松坂桃李と清野菜名がW主演を務める映画『耳をすませば』(22年10月14日公開、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、松竹配給)に出演。松坂が演じる天沢聖司役の中学生時代を演じる。これまで数々の俳優の幼少期役を経験してきたが、本作においては「天沢聖司になる」ことを重視し、役作りに励んだ。小学生時代、自ら志願して進んだ俳優の道。そのきっかけとなった作品や恩師の言葉について語った。
2015年 俳優として活動開始
2016年 ドラマ『わたしを離さないで』で連続ドラマデビュー/映画『僕だけがいない街』で本格的に映画出演
2021年 映画『光を追いかけて』で映画初主演
2022年 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演
映画では原作の10年後を描いていますが、演じる上では、10年後を想像するより今を生きたいと思いました。原作やアニメで描かれているように、中学生の天沢聖司が夢を持って生きる姿、恋愛する姿を演じたいと思ったんです。とはいえ、天沢聖司というみなさんの憧れの王子様を演じることには、とてもプレッシャーを感じました。平川雄一朗監督からも「中学生時代はお前たちにかかってる」と言われて、リハーサル期間中はずっと緊張していたんですけど、撮影に入ってからは「やってやろう」という気持ちに変わりました。
監督とは何度かご一緒していて、そのときには「誰かの幼少期」を演じていたんです。たとえば『僕だけがいない街』(16年)では、「お前は(主演の)藤原竜也になれ」と指導を受けていたんですね。だけど今回は「松坂桃李になれ」ではなく「天沢聖司になれ」と、何度も言われました。「聖司だったら」という助言や提案をたくさんいただきながら、いかに原作の聖司に寄せられるか、監督と話し合ったんです。やっぱりみなさんが思う「天沢聖司」がありますから、彼の性格やその表し方を研究しました。
だけど、演じることができて本当にうれしかった。『耳をすませば』が実写映画化されると聞いたときにまず、「どの役でも良いから関わりたい」と思ったんです。だから聖司を演じられたことは本当に貴重な経験でしたし、成長の機会になりました。
撮影中に松坂桃李と話したこと
――『耳をすませば』が少女漫画雑誌『りぼん』で連載されたのは1989年。時を経ても色あせない人気作に、オリジナルストーリーを加えての実写化。賛否あるだろうことはもちろん、理解している。それでも「人が恋をする姿を見てほしい」と、作品と誠実に向き合ったからこそ多くの人に見てもらいたい思いがある。
撮影中、松坂さんと雰囲気が似ていると言っていただくことがあったんですが、きっと僕が思う聖司と、松坂さんが思う聖司がちょうど重なっていたからなんじゃないかなと思っています。松坂さんとは、撮影で少しだけご一緒できたんですけど、すごく緊張しました。そうしたら「清野さんがめちゃくちゃゲームがうまいから、あとで一緒にやろうよ」と気さくに声をかけてくださって。すごくうれしかったです。チェロの弓を持つ手や腕の使い方が、松坂さんは本当に上手だなと思いました。それと、自転車にヒロインの雫を乗せて走るシーンがあるんですが、一生懸命頑張ったんですけど、僕は坂の途中までしか登れなかったんです。そうしたら監督に「松坂桃李は一番上まで登ってたけどね」と言われて……(笑)。すごいなと思いつつ、悔しいと思いました。(笑)
実写化には、きっといろんな意見があると思います。だけど原作と比較するよりは、中学生の甘酸っぱい恋を映画館で楽しんでほしいです。大人になった2人の遠距離恋愛や葛藤も含めて、人が恋をしている姿を見てほしい。僕も、レトロな恋愛というか、手紙を通して恋をしていくようなシチュエーションがすごく好きなので、見ていて本当にキュンとしました。忠実に再現した「地球屋」の空気感も、とてもすてきなんです。
それと、僕はこの映画で音楽の重要さを感じました。チェロはもちろん、杏さんが歌う『翼をください』が流れてきたとき、すごく感動したんです。「音楽でなければ伝えられないことってあるんだな」と思いました。音楽は言語を越えてどこでも伝わるし、いろんな人が楽しめる。2人が恋をしている姿を見ながら、音楽も楽しんでほしいです。
父のような存在の平川雄一朗監督
――「人見知りをなくすため」、モデル事務所に入ったのが4歳のとき。最初は母の勧めだったが、小学6年生のとき、憧れの人が多数所属する現在の事務所に自ら履歴書を送り、本格的に俳優の道へと進んだ。芝居の楽しさを教えてくれた人物こそ、『耳をすませば』の平川雄一朗監督だという。
映画デビュー作の『僕だけがいない街』で演じた藤沼悟は、29歳の中身を持ったまま子ども時代に戻ってしまう役でした。悟を演じながら、(大人の悟を演じる)藤原竜也さんにもなりきるという、別の人生を歩んでいるような楽しさ、のめり込む楽しさを感じたんです。当時は夏休みに毎日稽古をして、平川監督に厳しく鍛え上げていただきました。その後、連続ドラマデビュー作の『わたしを離さないで』でも平川監督とご一緒したんですが、監督は担当回じゃなくても現場にいらっしゃって、読み合わせをしてくださって。当時は監督が怖かったし、泣きながら読み合わせをすることもあったんですけど、今思えば本当に有り難い時間だったし、それがあったから今、ここにいられるんだと思っています。時々、ドライブに連れて行ってもらったりもしました。本当に僕のことを思ってくれているんだなって、ふとしたときに思うんです。お父さんみたいな存在ですね。
だから『僕だけがいない街』は、僕のターニングポイント。平川監督に出会わなければ、ずっと演技が上達しないままだったと思います。映画が終わったとき、監督に手紙を書いて、後の完成披露のときに返事をもらったんです。「感謝、謙虚、素直。この3つを大事にしなさい」という言葉を、今もずっと大切にしています。
――子役と呼ばれることもあれば、俳優と扱われることもある年齢。肩書にはこだわらないが、昨年、映画主演を経験し自信がついた。2022年は、自身2度目となるNHK大河ドラマに出演中。役どころにも成長を感じている。
中学2年生のとき、主演映画『光を追いかけて』(21年)を撮ったんですが、主演という経験は、俳優として一歩、階段を上れた気がしました。「主演は引っ張っていかなきゃいけないよ」と言われたときに、ここで引っ込んでいたらダメだと気持ちが切り替わったんです。実際に引っ張れたかは分からないけど、本当に良い作品にできたと思っています。
大河は、やっぱりセットのスケールに感動します。『おんな城主 直虎』(17年)では、蹴鞠(けまり)をしている年ごろの役だったんですが、『鎌倉殿の13人』では、武士としての所作や姿勢も習いました。父親(北条時政)役の坂東彌十郎さんが刀の押さえ方を教えてくださったんですが、すごくかっこいいなって思いました。
今後は、ホラー作品に出てみたいです。たとえば『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17年)みたいな作品。怖いのは本当に苦手で、お化け屋敷もダメなんですけどやってみたい(笑)。そこを越えたら、また1つ羽ばたけるかもしれないと思うんです。それから、高校生の恋愛映画にも出たい。上白石萌音さん、杉野遥亮さん、横浜流星さんの『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』(19年)を見たときに「なんてすてきな映画なんだ」と思ったんです。あんなにも胸を苦しめてくる、キュンキュンした経験は初めてでした。キュンとさせられるかはまだ自信がないですが、挑戦してみたいです。
そして憧れは、事務所の先輩の菅田将暉さん。「菅田将暉にしかできない」みたいな作品ばかりで、言葉で表現するのが難しいけれど、唯一無二の引き込まれるお芝居をする方。僕もあんな風になりたいなって、ずっと思っています。
――最近ハマっているエンタメはカードゲームの『デュエル・マスターズ』。このごろ弟が相手をしてくれなくなり、対戦相手を探しているのだという。
小学生の頃にハマっていたんですが、最近、僕のなかで再ブレイク中です。最初は弟にボコボコにされていたんですけど、僕がカードをそろえて勝てるようになったので、今度は弟が飽きちゃったんですよ、負けるから(笑)。カードをコレクションするのも楽しいです。パックを開けるところから楽しい。最近は「シャコガイル」という欲しかったカードをやっと手に入れて、満足しています。
(写真/中村嘉昭、スタイリスト/小林美月、ヘアメイク/Emiy〈エミー〉)