映画『天気の子』(2019年)にて、2000人の応募者の中から主役に抜てき、2022年3月から上演された舞台『千と千尋の神隠し』ではハク役(三浦宏規とのWキャスト)を好演するなど、幅広い分野で躍進を見せる俳優・醍醐虎汰朗。22年8月11日公開の『野球部に花束を』(日活配給)にて、自身初となる長編映画の主演を果たす。

醍醐虎汰朗(だいご・こたろう)
2000年9月1日生まれ。東京都出身。17年、『舞台「弱虫ペダル」新インターハイ篇~スタートライン~』の小野田坂道役(3代目)として俳優デビュー。19年、『天気の子』の主演として注目を浴び、20年に第14回声優アワードにて新人男優賞を受賞。映画『カラダ探し』(10月14日公開予定、ワーナーブラザーズ配給)、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』への出演が決定している

――高校球児たちの日常と生態をリアルに描いた同名人気漫画の実写化となる本作で醍醐が演じるのは、中学卒業とともに野球をやめ、青春を謳歌すべく茶髪で高校に入学した黒田鉄平。しかし、結局足を踏み入れてしまった高校野球部という名の特殊な世界で、恐ろしい先輩部員、鬼のような監督、理不尽な鉄の掟(おきて)に戸惑いながらも、野球に青春をささげる。ばかばかしくもいとおしいコメディだ。

 初めての長編映画主演作は、「自分にとって、これからずっと記憶に残っていくんだろうな」と、撮影前から思っていました。わくわくする気持ちと同時にプレッシャーも感じていましたが、こうしたハッピーなテイストの作品で本当に良かったと思っています。

 僕は野球未経験なので、クランクイン前は投球やバッティング、球を取る練習をたくさんしました。ただ映画では、想像していたよりも野球をするシーンが少なくて(笑)。「けっこう練習したんだけどなぁ」とも思いましたが、とても良い感じに撮ってくださったおかげで、それなりにできるように見えていたので安心しました。僕は中学時代、サッカー部だったんですが、ああいった「ザ・体育会系」のノリや、ちょっと理不尽なところも部活ならではだなと、演じていて懐かしかったです。小走りでの移動も、やってましたね(笑)。ちなみに、劇中に頭を刈るシーンがあるんですけど、実際に丸刈りにしたのは、その撮影のときです。そう思って、注目してほしいですね。

『野球部に花束を』が実写映画発主演作となる
『野球部に花束を』が実写映画発主演作となる

 現場はみんな仲が良くて、すごくにぎやかでした。でも、劇中の野球部の雰囲気に感化されて、ぴりっとした緊張感はありましたね。飯塚(健)監督が、本当に野球部の監督で、僕たちが部員みたいな感じ。「おはようございます!」と大声であいさつして、監督に呼ばれたら走って行って、直立不動で話を聞いて……と、現場は作品の影響を大きく受けていました。

 キャストの中では僕が最年少でした。主演として現場をまとめなければという気持ちも最初はあったのですが、監督から、年齢やキャリアに合った主演のやり方はいっぱいあるし、支えてもらえる年齢のうちは、頼れる部分は頼ったほうがいいと言ってもらいました。だから僕は、主演のあり方を姿勢で示していこうと思ったんです。例えば、呼ばれてからスタンバイするのではなく、常にしっかり現場を見ているようにしたり。探りながらではありましたけど、今やれることの最大限はできたと思っています。

――真面目に演じるからこそのおかしさを追い求め、やり切った本作。鬼監督・原田役として怪演を見せた髙嶋政宏、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』(12年)などで知られる飯塚監督との出会いも大きかった。

撮影現場も劇中の野球部のように緊張感があったという
撮影現場も劇中の野球部のように緊張感があったという

 髙嶋さんのお芝居やアドリブは本当に強烈で、撮影中に思わず笑ってしまいそうになることもありました。台本からは想像がつかないキャラクターになっていて、お芝居によってこれほど人物が分厚くなるんだと、とても勉強になりました。この作品はコメディですけど、僕らに求められていたのは「真面目にやっている面白さ」だったと思うんです。その上で、髙嶋さんだからこその面白さを表現されていて、すごいなと思いました。僕は、まだとてもそんなふうには演じられないと思いましたし、そもそも台本が、一切の無駄なく美しかったんです。原作を2時間ほどの映画にすべく削りに削った面白さ、そこに僕が勝手なアドリブを入れても、ただ意味のない言動になってしまう。だから今回は、台本通りに演じることを最優先に考えました。

 役については、本読みの段階で監督とイメージのすり合わせをしたんですが、考えていることはほぼ同じでした。黒田は、根はすごくピュアでいいやつだし、野球が好きなんです。最初は、この年齢ならではの「ひねくれ」を持っていた黒田が、最後には野球部に染まっていくさまが面白い。そこをどう見せるかがポイントだと話しましたね。

 飯塚監督は、厳しかったですよ。部員が帽子を取ってお辞儀するシーンが何度も出てくるんですけど、少しでもそろっていないと「ちゃんとやれ!」「はい!」みたいな(笑)。怒られることもありましたけど、相談にはとことん向き合ってくださいました。注意する、教えるってとてもエネルギーを使うことだから、放っておくこともできるじゃないですか。だけど監督は今でも、何でも聞いてきていいよって言ってくれますし、役者としての引き出しが増えるよう、見たほうがいい作品を送ってきてくださるんです。僕にとってはおやじみたいな存在で、本当にありがたい出会いでした。

飯塚健監督は「おやじみたいな存在」と語る
飯塚健監督は「おやじみたいな存在」と語る

――17年、舞台『「弱虫ペダル」新インターハイ篇~スタートライン』の一般公募オーディションにて主演・小野田坂道役に抜てきされ俳優デビュー。以降も、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』シリーズ主演など、順調に大役をつかみ取ってきたように見える醍醐だが、当初は芽が出ず、悩んだ時期もあった。また、2.5次元舞台からキャリアをスタートさせたからこその葛藤もあったという。それを乗り越え、22年秋放送予定のNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』への出演も決定した。

 中学の終わりの頃、周りがちょっとずつ夢を見つけていくなかで、僕も何か、やりたいことを見つけたいと思っていたんです。友人が芸能界を提案してくれて、ぴんときたことをきっかけに事務所へ入って、最初はエキストラを1年くらい経験しました。オーディションに行っても、受からないことばかり。早くこの段階を抜け出さないといけないと思っていた頃に『弱虫ぺダル』のオーディションがあって、「どうにかして取ってやる」と向かいました。審査員の方に「もう大丈夫です」って言われても帰らず、「僕は大丈夫じゃないです。やりたいんです」と(笑)。だけど合格することができて、『弱虫ペダル』で初めて、台本というものをもらったんです。当時は右も左も分からず、演出家の方から厳しく指導いただいて落ち込むこともありました。でも、芝居もサッカーと同じで、練習すればするほど結果がついてくる。それに気付いてから、芝居が楽しいと思うようになりました。

17年に舞台『弱虫ペダル』の一般公募オーディションにて主演抜てきされ、キャリアがスタートした
17年に舞台『弱虫ペダル』の一般公募オーディションにて主演抜てきされ、キャリアがスタートした

 『弱虫ペダル』はいわゆる2.5次元舞台。一般的な舞台とは、まるで演じ方が違うと僕は思っています。見にきてくださる方は、3次元化されたキャラクターを見に来ているのであって、勝手に芝居めいたことをするのはよくない。声やしぐさがキャラクターに似ている、それが重要視される世界だと思います。当時は、「芝居がしたい」という自分のエゴとの葛藤もありました。でも『ハイキュー!!』を機に「求められるもの」を表現することの大切さが分かってきて、その理解は『千と千尋の神隠し』以降、さらに深まりました。どれも同じくエンタテインメントなんだと気付いてから、まっさらな気持ちで作品に臨めるようになったんです。それと、『天気の子』で共演した神木隆之介くんとの出会いも大きかったですね。作品の捉え方が、僕の目指すそのものなんです。求められるものを提供することに対して、まっすぐに臨む姿勢を尊敬しています。

 僕も今は、求められている目の前のことに、一つ一つ応えられる役者でいたいと思っています。まずは次期の朝ドラ『舞いあがれ!』をしっかり務めたい。役者の誰もが目指す場所ですから、これまでやってきたことを発揮できればいいなと、意気込みを強く持っています。

――最後に最近はまっているエンタテインメントを聞いたところ、7月7日に配信がスタートした恋愛リアリティ番組『バチェロレッテ2』(Amazon Prime Video)に夢中とのこと。『バチェラー』からチェックしているという。

最近はまっているエンタメは『バチェロレッテ2』
最近はまっているエンタメは『バチェロレッテ2』

 衝撃的な面白さですよね。2代目バチェロレッテの尾﨑美紀さんは、お別れのときに芯の通った理由をおっしゃるのがすてきだと思いました。僕の世代ではとてもはやっていると思いますし、友達とあれこれ言いながら見るのが楽しいです。

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(写真/中村嘉昭)

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