Spotifyのプログラム「RADAR: Early Noise」に抜てきされたほか、『ケダモノのフレンズ』が「TikTok2022年上半期トレンド」30選にノミネートされるなど注目が集まっているにしな。2022年7月27日にニューアルバム『1999』をリリースする。

2ndアルバム『1999』は7月27日に発売
2ndアルバム『1999』は7月27日に発売
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にしな
1998年7月25日生まれ、東京都出身。自身いわく「活発だったがシャイな性格」のため、ギターや歌への憧れはあったが一歩が踏み出せなかったという。高校時代にレコード会社が主催する新人アーティスト養成講座に参加。2020年10月、にしなとして初めての配信シングル『ランデブー』をリリース。『ヘビースモーク』が自身も出演するSpotify新ブランドキャンペーンCMソングに。この夏は「SWEET LOVE SHOWER 2022」のほか、多数のフェスに参戦予定

――エンタテインメントシーンの次世代を担うと期待される、Z世代の表現者を紹介する「ネクストブレイクファイル」。今回登場するのは、琴線にそっと触れるイノセントで繊細な歌声と耳に残るメロディー、カラフルなサウンドが魅力のアーティスト・にしな。かつてKing Gnuやあいみょんらも選出された、音楽ストリーミングサービス・Spotifyのプログラム「RADAR: Early Noise」に抜てきされたほか、『ケダモノのフレンズ』が「TikTok2022年上半期トレンド」30選にノミネートされるなど注目が集まっている。

 そんな追い風の中、ニューアルバム『1999』を2022年7月27日にリリース。歌声や多彩な音楽性はもちろん、視点の独自性も聞き逃せない。11曲中、5曲にタイアップが付くことからも彼女への期待度の高さが伝わってくる。アルバムタイトル『1999』は、同名タイトル曲にちなんでおり、その楽曲はノストラダムスの大予言から着想を得たという。

 タイトル曲『1999』は、燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(17年)を読んだのがきっかけです。私も生まれてはいましたが、1999年にノストラダムスの大予言が騒ぎになっていたんだなと不思議な気持ちがしました。それと別に、小説の中の女の子が、「うれしいときにかなしい気持ちになるの」と言うと、男の子は「あんまりよくわかんない」みたいに答える場面があるんです。でも、地球が終わるときに、「(女の子の言葉を)なんとなくわかる気がする」みたいなことを言ったんですね。自分でもはっきり分からないけど、それがすごくすてきだなと思って。それが曲作りにつながっていきました。

タイトル曲の『1999』は小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読んだのがきっかけ
タイトル曲の『1999』は小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読んだのがきっかけ
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 私自身も普段の会話の中で、ごくたまに「明日、死ぬ気になって生きてみればいい」みたいなことを言われたりするんですが、そこまで集中して生きることって難しいなと感じてもいて。でも物理的に明日、地球がなくなっちゃうとしたら…。今、戦争が起きたりしている不透明な時代でもあるし、もし仮にそうなったときに、嫌いな人のことや嫌なことを考えて過ごすより、自分の好きなことや大切な人と時間を過ごしたいと考えるだろうと思いました。そうしたモチーフを、自分の中で曲にしていった感じですね。

 曲を書くときは、言葉に重みを置くときと、ノリだったりメロディーだったりに重きを置く場合に分かれています。前者では、大きなテーマから書いていくことが多いです。『夜になって』もジェンダーについて関心があったので書きました。もともと大きなテーマに関心がある…、というとかっこよく聞こえるかもしれませんが、「女の子だからスカートをはきなさい」と一方的に押し付けられる感じが昔から苦手で。そういうカジュアルな感覚で捉えている違和感を歌にしていくんです。

――元乃木坂46の伊藤万理華が初主演したドラマ『お耳に合いましたら』(2021年)のエンディング曲『東京マーブル』は、ノリやメロディーに重心を置いて歌詞を書いたもの。言葉のリズム感や耳心地の良さを損なわずに、歌詞として成立させるだけでなく、タイアップとしてリクエストに応えなければならないとなると、クリアすべきハードルは決して低くないだろう。

 一方、GMOクリック証券のCMソングとして書き下ろした『U+』(読み:ユーアンド)は、心地よいウォークテンポに乗せて、“地球の陰謀をこの時代に暴きたい”と高らかに歌う。これは、多様性というテーマを掘り下げ、彼女なりの答えをつづったものだという。

ユニコーン『すばらしい日々』との出合いから生まれた曲も
ユニコーン『すばらしい日々』との出合いから生まれた曲も
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 『東京マーブル』は、聴き心地重視で書きました。ある程度まではメロディーを作るときに言葉も一緒にはまっていくんですが、途中で「ここは聴き心地の良さを優先したいけど、そうすると意味が通じないな」という悩みにぶつかりますね。なんとか出口を探そうと考え抜くけど、「自分ではつながっていないと感じても人が聴くと想像でつながっているかもしれない」と思って、余白を持って着地させることもあります。それも面白みになるかなと思うし、飽き性で面倒くさがりなので、ある程度まで行ったら(聴き手に)「お任せします」という感じです(笑)。

 タイアップは曲としての魅力を持っていることと、作品と作品が合わさっていくことで、互いの良さを引き出し合うバランスを考えながら作ります。『U+』は、GMOクリック証券さん側から「多様性をテーマに描いてください」というリクエストをいただきました。

 これまで歌詞を書くとき、答えを出さないことが多かったんですが、Dメロの「爽やかな風吹く間に間に/自分らしさなどただ下らない/乱れた呼吸の隅/命を感じている」は、自分なりに出せた言葉でした。多様性って何だろう、自分って何だろうと問い続けながら走り続けると呼吸が乱れるから、それによって私は生きているのを教えてくれるというか。多様性とは少し違うかもしれませんが、自分らしさについて悩んでいること自体が自分らしさを感じさせてくれるものなのかなと。自分自身がより知らなきゃいけないなと思っていることを、掘り下げる良いきっかけをいただけました。

――1998年生まれのにしなは、ノストラダムスの大予言の騒動を知らないが、20年余を経てそれに触れたことで創作が生まれた。惜別や門出をみずみずしく歌う、美しくもどこかノスタルジックで切なさも漂う『青藍遊泳』もまた、過去の名作と彼女との不思議な出合いから生まれた曲だという。その話を聞くと、にしなのこれまでの歩みを自然と振り返ることとなった。

TikTokでバズ中の『ケダモノのフレンズ』は21年4月発売の1stアルバム『odds and ends』に収録
TikTokでバズ中の『ケダモノのフレンズ』は21年4月発売の1stアルバム『odds and ends』に収録
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 小学校低学年の頃、テレビで見たコブクロさんに憧れて、「歌う人になりたいな」と思いましたが、恥ずかしくて行動に移せませんでした。でも、高校生のとき、幼なじみが無料のレッスンを受けられるオーディションを受けて合格したのを見て「誰にも言わなければ応募して落ちても誰にも分からない」と自分に言い聞かせて、同様のオーディションに応募。一歩を踏み出しました。

 それからは、弾き語りやユニット、バンドなど、いっぱいライブをやりましたね。バンド活動に区切りをつけて「ここから先は、にしなとしてやっていく」と決めたとき、バンドとしての最後のライブで、スタッフさんが会場SEとしてユニコーンさんの『すばらしい日々』(93年)をはなむけとして流してくれました。改めて聴き返してみたら「君は僕を忘れるから」という言葉を贈ってもらったのだと感じました。別れは寂しいけど、みんなのことを瞬間的に忘れちゃうくらい目の前のやるべきこと、やりたいことに夢中になれる自分でありたいし、そうあるべきだと思いました。また、みんなもそうであってほしいという願望の中で書いたのが『青藍遊泳』です。

――かわいらしいルックスとは対照的に、問いに対して自らの言葉で淡々と答える姿はどこか老成しているようにも見える。「客観的に見るのはクセ。あまり浮足立ったり、舞い上がったりしない現実主義者」という自己判断とも合致する。そんな彼女の目標もまた地に足の着いたものだった。

 Spotifyの「RADAR: Early Noise」に選ばれたことは光栄ですが、それで私がやることが変わるわけではありません。弾き語りを続けていたときに、目の前にお客さんが集まっていても「プロになれる」と思ったことはありませんでした。もっと広がりを持たせたくて、SNSを始めたんですが、悪意のない言葉に傷つくこともあります。それも1つの客観的な意見だと思い距離感を保ちながら付き合うようにしています。2018年にYouTubeにアップした『ヘビースモーク』がわりと聴いていただけると感じて、届いている実感を持てるようになりました。

 目標ですか? 自分でいい曲を作り歌うことに尽きます。そこを大切に、自分の基幹を忘れずに活動を続けたい。いい曲とは何かは分からないけど、その時々にやりたい形で、大きな世界も小さな世界も、とらわれずに作っていきたいです。そのためにも、自分らしさ…すべてを脱いだ状態、一番楽な状態を大切にすべきだなと思うようになりました。プロになって、見ていただいたり、聴いていただけるようになったからこそ、そこが大事というか。「アーティストとしてどうあるべきか」みたいなところを、私はあまり考えないでいたいなと思うようになりましたね。

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――インタビューの最後に、最近心が動いたエンタメを尋ねると、それまでのクールな受け答えから一転して、23歳(取材時)らしいナチュラルな言葉が返ってきた。

 この前の休日、アマゾンプライムで映画『さがす』(21年)を見ました。面白かったですね。自分の中で「こんな結末だろうな」と想像していたのとは、違う結末だったんですよ。最初は、単に暗い映画なのかなと思いながら見ていたんですが、それだけではなかったですし。

 Netflixのドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(16年~)も好きです。シリーズ作なので、キャストの成長が見られて『ハリーポッター』みたいな面白さがありますね。映画やドラマは、カメラマンさんやスタッフさんなど、人のお薦めを見ることが多いです。そういうところは、素直です(笑)。

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(写真/中村嘉昭 ヘアメイク/山口恵理子 スタイリスト/村井蒼良)