Z世代の注目株に話を聞く「ネクストブレイク」ファイル。小芝風花主演で人気を博したドラマ『妖怪シェアハウス』(2020年)。周りの空気を読んでばかりいる主人公・澪(みお、小芝)が、個性豊かな妖怪たちとのシェアハウス生活を通じて成長する姿を描いたホラーコメディだ。22年4月から放送されたドラマ版シーズン2となる『妖怪シェアハウスー帰ってきたん怪ー』(テレ朝系)が最終回を迎えた後、時間を置かずに公開される『映画 妖怪シェアハウス-白馬の王子様じゃないん怪-』(東映配給)にて、キーマンとなるイギリス育ちの天才数学者・AITOを演じるのが俳優・望月歩。今期はドラマ『17才の帝国』(NHK総合)や『元彼の遺言状』(フジ系)にも出演し、一部は同時進行で撮影を行いながらも、すべてで異なる表情を見せる若き実力派。彼の言葉からは、芝居に対する純粋な「楽しい」という思いと、高いプロ意識を感じる。
『妖怪シェアハウス』シリーズは、語りすぎず、訴えすぎず、情景や人々の動きで大事なメッセージを伝える作品だと、ドラマ編を見ていて感じました。この作品のそういうところが好きだし、とてもすてきだなと僕は思っていたので、こうして映画に出られたこと、強い意志を持つ役を演じられたことがうれしかったですね。AITOという役も、大好きです。ネタバレになる部分もあって多くは話せませんが、監督からいただいた「受肉」という言葉が印象的でした。日本の文化をはじめ、何も知らないAITOが経験する1つひとつの「初めて」、その新鮮な反応を大事に演じようと意識しました。大まかな動きは決まっていましたけど、自由に演じられる部分もけっこうあったんです。ちょっとしたステージに登壇して話すシーンがあるんですが、そのときの動きは自分で考えたものがほとんどですね。
AITOは作中でいろいろなことを覚えて変化していきますけど、物語の順番通りに撮影するわけではないですから、演じるうえでそこが難しいだろうなと想像していました。「まだ何も知らないAITO」「ここまでは習得したAITO」みたいに、自分のなかでAITOの段階を整理しながら、見る方にとって違和感がないかを考えて演じようと、準備して臨みました。
――すでに人気を確立している作品、出来上がったチームに途中から参加することに対し、当初は不安があったという望月。しかし、同作の強い世界観に直接触れたことで、緊張はすぐに吹き飛んだ。キャストとスタッフが作り上げる楽しい空気が、作品に反映されていると感じたそうだ。
撮影終わりにみんなで「うまー!」
こんなにも濃い世界、演者の皆さんに混ぜていただけることにわくわくしていた半面、やっぱり最初はすごく緊張してたんです。でも実際に現場へ行くと、そこには澪がいて、妖怪たちがいた。その様子を見たときに、緊張は一瞬で飛んでいきました。「会いにきた」みたいな感覚に変わったんですよね。テーマパークに来たとか、ジブリの世界に入ったとか、そういう気持ち。それほど強い世界観を持つ作品であることが、途中参加の身としてはありがたかったです。そして、シェアハウスでの5人のシーンは、やっぱり面白い。映像を実際に見て、台本には書かれていない皆さんのユーモアを感じましたし、それはあの現場だからこそ生まれているものだと思います。
とにかく、すごく仲がいい現場だったんです。例えば1日の撮影が終わったら、みんなで「うまー!」って、大きい声で叫んで、無事に撮影が終わった喜びを分かち合うんですよ。「埋まり」(予定の撮影が終わること)をもじっているらしいんですが、「今日もお疲れさま」みたいな意味で「うまー!」って、みんなが叫んでる、そういう経験は初めてで新鮮でしたし、一体感があって楽しかったです。最初はびっくりしてしまって、僕が皆さんと一緒に叫べるようになったのは最後のほうになってから。最初から、恥ずかしがらずにできればよかったなぁと思いました。この現場を経験して以来ほとんど人見知りがなくなって、同時期に撮影していた『17才の帝国』では、共演者の方に自分から話しかけられるようにもなったんです。
――架空都市で、AIに選出された若き統治のリーダーたちを描く『17才の帝国』では、動画配信で若者に人気を集めるカリスマ兼実験都市UAの厚生文化大臣役で、過去にも共演経験のある同世代らとキャストの中心を担った。「若者世代に届けたい」という制作陣の思いを受け、自身も政治について考える機会になったという。一方、「大先輩方」に囲まれた『元彼の遺言状』では髪の色を変え、フットワークの軽いホスト役の黒丑を演じている。一癖ある役が続くが、視聴者の視点に立った「ドラマならでは」の役作りへの考え方は、興味深い。
『17才の帝国』は、僕と同世代、政治に対して興味が薄い層に届けたいという思いを込めて作る作品だと伺ったので、僕自身も勉強しましたし、皆さんが政治に興味を持つ第一歩になってほしいと思って演じました。クランクアップのとき、共演の星野源さんが「攻めた作品」だとおっしゃったことが印象に残っています。確かに、一歩踏み込んでいるなと。内容もそうですが、いい意味ですべてがテレビドラマっぽくなかったんです。セットの大きさ、映像のこだわりも僕の想定外でしたし、装飾品もきれいで面白いものばかりでした。そうしたものに囲まれて演じるという経験もまた、楽しかったですね。
やはり、見てくださる方に向けて良い作品を作りたいという思いがあるので、放送後の反応は、毎回チェックします。「たまには選挙に行ってみようかな」とか、「これ、現実世界だったらどうなるんだろう」という意見を見たときには、うれしかったですね。僕も、これを機にしっかり考えていかなきゃいけないなと思いました。
僕は普段、カメラの前で全くあがらないのですが、『元彼の遺言状』の綾瀬(はるか)さんと大泉(洋)さんと共演する最初のシーンではドッドッドッて、鼓動が聞こえるくらい緊張したんです。今でも理由は分からないですし、結局は最初だけでしたが。嘘をつくシーンだったからかもしれないけど、我ながら驚きましたね。これまで、チャラチャラした役を演じることはあまりなかったんですが、ガラリと違う役をいただけることは、役者としてうれしいです。ただ「準備しなきゃ」と思う部分も大きいので、プレッシャーはもちろんありますね。役作りは、今もいろいろと試しているところです。最近は、見た目や話し方という外側をしっかり作ってから内側を埋めていくやり方をしていて、黒丑はまさにそうやって作りました。「こういう人」という像をまず作って、そうなるのに必要なものを考えて、内側を満たしていくイメージです。特にドラマでは、パッと見ただけで、役の印象が決まる部分って大きいと思うんですね。映画とは違って、家で何かをしながら見るという方もいるでしょうし。だからこそ、外見を見れば人物像が分かるような「キャッチーさ」が大事なんじゃないかなと、今回はそう考えて役作りを試してみました。
アイドルに憧れてダンスを始める
――嵐になりたくてダンスを始めたのが小学校1〜2年生の頃。そこから芝居へと世界が広がり、「楽しい」と感じた経験が現在にもつながっている。様々な作品で注目を集めてきたが、望月自身が転機として挙げたのは20年に出演した2時間のスペシャルドラマ。役者としてのスタンスが大きく変わったという。
小学校2年生くらいのとき、演技のワークショップみたいな集まりに通うようになりました。あるとき、役として相手と「つながった」と感じる瞬間があったんです。もちろん良いシーンばかりじゃなく、怒ったりケンカしたりも含めて、役としてつながる感覚を楽しいと思いました。それをきっかけに芝居を続けてきて、今もずっと楽しい。最近では、役者さんとだけではなくスタッフの皆さん、作品そのものとも「つながった」と感じる瞬間があります。役者をするうえでの、楽しさの一つですね。
多くの方に知ってもらったという意味では『ソロモンの偽証』(15年)や『3年A組ー今から皆さんは、人質ですー』(19年)が大きいのかなと思いますが、僕の転機になった作品は『家栽の人』(20年)。この作品を経験するまでは、演じながらもどこかに「自分」があったんですよね。そのことで、現場で監督に少し怒られたんです。自分がやりたいことを演じる、そんな考え方は要らないんだなということを学んだ機会でした。もちろん「自分」を出すことも時には大事ですけど、監督に求められる表現こそ答え、もっと言えば正解なんだという意識が、僕のなかで強くなりました。役者としてのスタンスが大きく変わった作品でしたね。
今度、『量産型リコ ープラモ女子の人生組み立て記ー』(テレ東系/毎週木曜24時30分/6月30日放送開始)というドラマに出るんです。「量産型の人間」と呼ばれて自問自答する璃子(与田祐希)が、プラモデル作りを通して自分を見つめ直していくという作品なんですが、僕はこの脚本がすごく好きなんですよ。『妖怪シェアハウス』も同じですけど、伝えたいメッセージを目立たせすぎず、押しつけがましくなく、描きたいものを描く。そういう作風が僕は好きなんですよね。いずれ、こうした描き方の作品で主演をやってみたいなっていうのは1つ、最近見つけた目標です。夢はたくさんありますよ。「賞をいただいてみたい」とか、挙げれば切りがないくらいです。
――大好きなテレビゲームの話になると、もう止まらない。特に最近はプレーヤー視点のシューティングゲーム『VALORANT(ヴァロラント)』にハマっていると言い、プレーを楽しむことはもちろん、世界大会も熱く見守った。忙しい日々の息抜きになっているようだ。
子どもの頃からずっとゲームが大好きで、今は『VALORANT』にハマっています。先日、世界大会があったんですけど、下馬評では日本のチームが最下位だったんですね。それが世界3位になって、大盛り上がりをして! このすごさを語り始めると、長くなってしまうんですけど。(笑)
『VALORANT』は、どの層も受け入れやすいところが魅力だと思います。古参ゲーマーの方にとっても古き良きシステムですし、絵がポップなので若い層もハマりやすい。それでいて、戦略性をはじめ、ゲームにおける様々な要素がしっかりと詰め込まれているんです。「チーター」と呼ばれるズルをする人を排除するシステムも画期的だし、今後もプレーヤーは増えていくだろうなと思います。撮影期間中の忙しいときでも「うーん……1戦だけやろう!」って、やっちゃいます(笑)。ゲームは大切な息抜きですね。
(写真/中村嘉昭、ヘアメイク/矢澤睦美〈Sweets〉、スタイリスト/有本祐輔〈7回の裏〉)