2019年に『仮面ライダーゼロワン』の迅/仮面ライダー迅役で注目され、その後も21年には『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』や『ボイスII 110緊急指令室』など、ゴールデン帯のドラマを含めて、映像作品に次々と出演している俳優の中川大輔。現在は、深夜枠ながらTVerのお気に入り登録者数が30万人に迫る注目のドラマ『花嫁未満エスケープ』(テレビ東京系/毎週木曜24時30分~)に出演している。主演の岡崎紗絵が演じるゆうと7年付き合い、すっかり彼女を母親扱いするようになった「お子ちゃま彼氏」の尚紀という役どころだ。中川自身、視聴者目線では尚紀を「ひどい役」としながらも、演じるうえではかわいらしさを感じるキャラクターだったという。実年齢より4つ上の28歳役だが「年上だと思って演じていなかった」と笑った。
尚紀は、確かにひどいところはありますけど、すごく魅力的な役だなと思いました。悪い言い方をすればクズな役ですけど、かわいらしいところもある。役として強いなと思いますし、演じるうえでもいろんなアイデアが出せる、自由にできるなと。「こういう風にやりたいな」っていうイメージがどんどん湧いてきて、演じるのがすごく楽しみでしたね。どんな動きで、どんな表情をするんだろうっていうアイデアは、台本を読んで自分で考えてから現場に行くことが多いです。尚紀の柔らかい感じや、フワフワっとしたところは自分に近いので、動きも想像しやすかったですね。すごくやりやすい役でした。
尚紀は28歳なんですけど、精神年齢でいうと実際の自分よりも下なんじゃないかなって思っていて。仕事に関してだけは、できるエース的なところがあるので年齢相応なのかなとも思うんですけど、それでも28歳だとは意識してなかったですね。ゆうから見れば、7年間も付き合っていたらこんな尚紀も許せるようになるのかな? かわいく思えるものなのかな? っていうところは、探りながら演じてました。
1話、2話あたりの尚紀は、ゆうをお母さん扱いして、大事にしていないように見えましたよね。だけど、彼の中に愛情はずっとあったと思います。愛情がなく、完全にゆうを母親扱いしてしまえば、ただの嫌なやつに映ってしまう。そこは監督と最初に話しました。ゆうへの愛情は持ちつつもお母さん扱いしている関係を、どのくらい言動に表現するかの加減は難しかったですね。僕は「彼女」と「母親」のハーフ・ハーフくらいの気持ちでゆうと接するよう、演じました。
――凛々(りり)しいルックスとはギャップのあるゆったりとした口調に、中川のいう「尚紀と似ている」柔らかさを感じる。6月16日放送の11話で見せる尚紀の成長について、どこかうれしそうに、親のような目線で語る中川。最終話まで結末が読めない本作を、ぜひ見届けてほしいという。
クライマックスに向けて大逆転も?
6話でゆうと別れてから、尚紀の登場が少ないので、僕自身も時間が空いたんです。だから再度たくさん登場するときには、もう一度クランクインするような、新鮮な気持ちで現場に向かうことができました。気分転換にもなりましたし、「一度離れる」というところが尚紀にも重なって、芝居にも出ていたように感じますね。
クライマックス直前の11話では、尚紀からゆうへの優しさが見えると思います。ゆうのために何かしたくて、考えて行動するって、尚紀にとって初めてのことだったんじゃないかな。尚紀は優しいけど、人の気持ちはあんまり分からない人だったじゃないですか。だから、11話の台本を読んだとき「人の気持ちが分かるようになったんだな」とうれしかったですし、大事に演じようと思いました。
話していて気付きましたけど僕、尚紀に対して父親目線ですね(笑)。自分より至らない点がある役だと、そう思うのかもしれない。「頑張れよもっと!」って(笑)。尚紀は、これまで演じた中でも特に、成長を見守る感じがありました。新鮮だったなぁ。肩書こそ普通の会社員ですけど、サイコパスなキャラクターを演じるのと同じくらい楽しいし濃かったので、「普通の人」を演じているっていう感覚はあんまりなかったですね。
最終話まで、どうなるか本当に分からないと思います。大逆転があるかもしれないし、また別の何かがあるかもしれない。楽しみにしていてほしいです。
――公開中の映画『極主夫道 ザ・シネマ』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給)にも出演している。本作は、元最凶ヤクザである龍(玉木宏)の専業主夫っぷりを描く“ヒューマン任侠コメディ”で、20年10月クールに放送されたドラマの映画版。中川はドラマからの続投で、大城山組の組員・井田昇役を演じている。改めて、人気作に参加できたことへの実感、キャストやスタッフとの再会、楽しかった撮影の振り返りなど「うれしかった」という言葉を繰り返した。
映画になるほど人気のあるドラマに出演させていただいたんだと思うと、改めてすごくうれしかったですね。ほぼ同じスタッフ、キャストだったので、また集まれたのもよかった。1年たっても、すぐ役に入れることに驚きました。みんな、自分の中に「役」を持っているんですよね。玉木さんもこの1年でいろんな役を演じてこられただろうに、いざ龍をやるってなったらスっと龍に戻れるんだと、びっくりしましたし、すごいなって思いました。僕も井田のスーツを着てブレスレットをすると、役に戻る感覚があって。覚えているというよりは、身体が思い出す感じでしたね。
映画は、ドラマよりもさらにパワーアップしています。あんなにも手間と情熱をかけて、本当にバカバカしいことをやっているんです。こだわりを持って、真剣にくだらないことをやっているのが、すごく面白いなって思いました。キャストもスタッフもみんな真面目に、映画ならではのスケール感でド派手にふざけたことをやっているのがいい。日常を忘れさせてくれると思います。
キャストもみんな楽しそうに演じていましたね。素で笑ってしまっているところが使われていたりします(笑)。そういうところを抜かれちゃうのも、『極主夫道』ならではだなって思いました。
――16年、大学1年生のときにMEN'S NONーNOのオーディションにてグランプリを受賞し、芸能界入りが決まった。芸能の道に興味を持ったきっかけは、大好きな映画に長らく抱いていた疑問の答えを知りたいと思ったこと。19年に出演した『仮面ライダーゼロワン』にて、ようやく謎を解く糸口を見つけたという。
映画漬けだった学生時代
映画が大好きで、小、中、高とほぼずっと、放課後はTSUTAYAで借りてきた映画を見て生活してました。邦画も洋画も、台湾映画みたいなのも見てましたね。邦画で好きだったのは『花とアリス』(04年)、洋画では、父親と一緒に見た『フォレスト・ガンプ』(1994年)が印象深いです。こんなにすてきな映画があるんだなって思いました。
たくさん映画を見て、名作や名演技と言われるものに出合う中で「これ、どうやってやるんだろうな?」みたいなところから、俳優に興味を持ったんです。別人になって泣いたり怒ったりするのって、見ている側からすると本当に魔法みたいな感じじゃないですか。「どうやってやるんだろう」と、ずっと思ってたんですよね。
そうした「別人になる」という感覚は、この世界に入ったときにはまるで分からなかったんです。だけど『仮面ライダーゼロワン』で1年くらい同じ役を演じている途中で「こういうことなのか」と思いました。例えば怒るシーンのあとに「今、本当に腹が立ってたな」と気付くんです。言葉にはしがたいんですけど、その瞬間には自意識がないというか。役として感情が動いているんですよね。そういう感覚を経験して、ずっと謎だったものの正体が全部分かったわけではないですけど、糸口は見つかりました。「こういう事だったのか」と納得しましたし、この経験を積み重ねていくと、あのころ不思議だった役者さんたちのような芝居が、できるようになっていくのかなって。
このところ、フォーカスしていただく役、メインどころの役をいただくようになって、それがすごく楽しいんです。心情の変化を演じるのが好きだし、芝居することが楽しいので、近い目標としては主演ドラマをやってみたい。それと最近は、もっと映画に取り組んでみたいなって思うんです。成田凌さんが出演されていた『愛がなんだ』(2018年)みたいなリアルな作品が好きなので、経験してみたい。あの作品をどれくらいの期間で撮ったのかは分からないですけど、グーッと長くその映画、作品だけに入るみたいな経験をしてみたいなと思っています。
――最近ハマっているものを聞いてみると、24歳の若者ならではの新鮮な発見をいきいきと語ってくれた。「ハマる」「まるで違う」という、中川が経験した感動を、追体験してみてはどうだろう。
最近はドラマにハマっています。知り合いが出ている作品を見たりもしますし、今は『鎌倉殿の13人』(NHK総合テレビ/日曜20時~ほか)にハマっています。皆さんのお芝居が面白いですし、中でも、小栗旬さん演じる北条義時の父親・時政を演じている坂東彌十郎さんのお芝居がものすごく好きです。地上波も配信も両方見ますし、ParaviのようなSVOD(定額制動画配信サービス)にも入っているので、ジャンル問わずいろんな作品を見ていますね。『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(20年)も面白かった! ハマってます。
最近、大きめのテレビを買ったので、それでずっと見ているんですよ。それまでは、引っ越ししたばかりというのもあって、テレビがなくてスマホだったんですね。で、大きい画面で見ると、迫力が全く違うということが分かりました。特にうちのテレビは有機ELなので、質感もまるで違う。「大きな有機ELディスプレーで見るドラマ」にハマっている感じですね。感動が、すごく胸にくるんです。
(写真/中村嘉昭 ヘアメイク/松田陵(Y’s C) スタイリスト/本田匠)