2021年後半はテレ朝系の連続ドラマ『消えた初恋』にヒロイン役で出演。22年に入り映画でも、主演作『君が落とした青空』(ハピネットファントム・スタジオ配給)でのみずみずしい芝居が記憶に新しく、透明感のなかに凛(りん)とした強さを感じさせる福本莉子。今後も5月27日公開の『20歳のソウル』(日活配給)、7月29日公開の『今夜、世界からこの恋が消えても』(東宝配給)と話題作が控えており、まさに飛躍の時を迎えている。

その彼女が現在、挑戦しているのが舞台『お勢、断行』(5月11日~24日、世田谷パブリックシアター。以降全国5カ所でツアー公演あり)。江戸川乱歩『お勢登場』で描かれる希代の悪女・お勢(倉科カナ)をモチーフとし、大正末期から昭和初期の時代背景はそのままに、気鋭の劇作家の倉持裕がユーモアと恐ろしさを交えて「善悪」を描く。本作は2年前、新型コロナウイルス感染拡大防止のためやむなく全公演を中止。待望の上演に当たり、新たに福本の参加が決定した。「念願だった」という倉持作品への出演、経験したことがあるミュージカルとは異なるストレートプレイの演劇、資産家令嬢役ならではのセリフまわしに緊張しながらも、本作について語る福本は、自身の原点である「舞台」に立てる喜びと期待にあふれているという。

福本莉子(ふくもと・りこ)
2000年11月25日生まれ。大阪府出身。2016年、第8回『東宝シンデレラ』オーディションにてグランプリと集英社(Seventeen)賞をW受賞し、映画『のみとり侍』にて女優デビュー。以降、数々の作品に出演し、近作ではドラマ『夢中さ、きみに。』『消えた初恋』(ともに21年)のヒロインを好演、『しあわせのマスカット』(21年)にて映画単独初主演を果たした。22年5月11日~24日、世田谷パブリックシアターで上演の舞台『お勢、断行』に出演(兵庫・愛知・長野・福岡・島根でも上演予定)。5月27日、映画『20歳のソウル』公開予定

 お稽古初日の読み合わせでは、みなさんのお芝居を目の当たりにして圧倒されました。あまりのテンポの良さに、セリフを言い逃してしまいそうになることも。でも、みなさんが実際にセリフを読むことで、活字では分からなかった部分がつながっていくような感覚があって「すごいな、面白いな」って感じたんです。新しく参加させていただくことに緊張感はありましたが、それよりも、ますます楽しみになりました。前回よりさらに良いものを作ろうと、倉持さんはじめみなさんが探求してらっしゃる姿を見て、日々勉強しています。

 私が演じる晶は、思いと言葉に相反するところがあるんです。心では嫌っている人をかばったり、とか。ただ、倉持さんから「そこを考え始めちゃうと、すごく難しい役だから」って言われたんです。セリフと、その裏にある真意を考えすぎるとごちゃごちゃになっちゃう。だから「まずは台本通り、素直に演じてみたら」と助言をいただきました。

 江戸川乱歩原案と聞くと、難しそうだと感じる方もいますよね。お芝居も、現実と回想を行ったり来たりするので、回収しきれないところがあるかもしれません。本作には、人間の悪さやずるさが描かれていますが、私自身、台本を解釈する上で分からないところがありました。でも、倉持さんに尋ねたら「ここはきっと晶も分かっていないから、全部を分かろうとしなくていいんじゃない」と。だから、様々なことを分かっていないままそこにいる晶が、観客のみなさんの視点に一番近いんじゃないかと思います。深く考えすぎずに、そのままを見ていただきたいですね。

 私はこのお仕事を始めるまで、ほとんど舞台を見たことがなかったですし、同世代の友達も、観劇になじみのない人が多いんですよね。でもそれって、すごくもったいないなって思うんです。劇場には、ドラマや映画では感じられない、生の舞台ならではの体験が待っているので、若い子たちにもぜひ見に来ていただきたいですね。難しく考えずに「面白そうだな」くらいの気持ちで、ふらっと見に来ていただけたらうれしいです。

役作りにキャラクターの“履歴書”を作る

――5月公開の映画『20歳のソウル』では、病に侵されながらも音楽に情熱を注ぐ主人公・大義(神尾楓珠)の恋人・夏月を演じる。同作は、船橋市立船橋高校のオリジナル応援曲である「市船soul」の作曲者の実話に基づくフィクションだ。7月公開の『今夜、世界からこの恋が消えても』でも主演(なにわ男子の道枝駿佑とのW主演)。眠ると記憶がリセットされてしまう「前向性健忘」を患う女子高生・真織を理解するため、病に関する参考資料にも目を通し、役作りに臨んだ。「最近、つらい恋をする役が多いんです」と苦笑いしながらも、夏月と真織に共通する「芯の強さ」を大切に演じている。

 『20歳のソウル』の夏月は辛くても悲しくても、大義の前では笑顔で、気丈に振る舞うんです。でも心のどこかでは、大義がこの先、長くないことを覚悟している。そこは、演じる上ですごく意識しました。実際の夏月さんにもお会いしたんですけど、すごく柔らかい印象で、優しそうなかわいらしい女性でした。実在する方を演じることは、難しいところではあるんですけど、監督から「再現ドラマにはしなくていい」って言われたんです。だから、夏月さんを忠実に再現するのではなく、どこかにイメージしながらも、現場で感じたことを大事にして演じました。

 役作りでは、ノートに役の名前や年齢、家族構成、趣味や好きなもの、何でも書いて、キャラクターの履歴書みたいなものを作ります。台本を読んでいて分からないところ、台本には書かれていない疑問点も書き出しますね。例えば夏月だったら、大義とどこで出会って、いつから付き合い始めたのか、とか。それを監督に質問して、役をつくっていきます。作品を重ねるごとに、役に入る前の準備期間をしっかりつくらないと気が済まなくなりました。そうしないと心配なんですよね。だから撮影前にはカフェで一人、何回も台本を読み返しています。

 参考資料を見たり読んだりすることもありますね。『今夜、世界からこの恋が消えても』の撮影前には、7秒で記憶を失ってしまう女性のドキュメンタリーを見ました。その方は話しているときも、常にメモをとるために視線を下げているんです。実際にそうした症状がある方の気持ちや生活を知って、役に取り入れることもあります。

 真織は「前向性健忘」という病気で、眠ると記憶がリセットされてしまうんです。記憶がなくなるって、自分に置き換えて考えると、とんでもなく怖いことじゃないですか。だけど真織は毎日学校に通って、ハプニング的な透(道枝駿佑)との出会いにも飛び込んでみる。チャレンジしてみようっていう気持ちを持っている、強い子だなって思いました。支えてくれる両親や友達にも、悲しい顔を見せないんです。もちろん、強がりもあるんですけどね。作品のなかでは、日々がどんどん積み重なっているように見えるんですけど、真織にとっては毎日が新しい一日。透とも毎回、初めましてなんです。だけど、演じる私の記憶はなくならないので、そこの塩梅(あんばい)は難しかったですね。

 道枝さんとは『消えた初恋』の撮影終盤くらいで「今度、またお願いします」みたいなごあいさつをしました。演じる上では、(同作で演じた)青木くん(道枝)と橋下さん(福本)の関係に引っ張られることはなかったですね。見た目も、あの2人に重ならないよう私は髪を切りましたし、道枝さんもまったく雰囲気が違ったなって印象です。

――ひょんなきっかけで飛び込んだ、第8回「東宝シンデレラ」オーディション(16年)で、グランプリと集英社(Seventeen)賞をW受賞。以降、華々しい道を歩いてきたのではと思いきや、待っていたのは地元の大阪から東京へ「オーディションへ落ちに行く」日々。しかし18年、ミュージカル『魔女の宅急便』の主人公・キキ役を射止めたことが転機となった。「人生で一番、頑張った」という初舞台、初主演の経験を糧に、自信と事実を積み重ねて今がある。

真っ暗な人生に光が差した舞台

 テレビっ子でしたけど、芸能界への憧れはなかったですね。「東宝シンデレラ」は、幼稚園と小学校が同じだった男友達に「受けてみたら?」って言われたんです。ほとんど話したことがなく、オーディションのことだけ会話をして、今は何をしているのかも知らないのですが(笑)。本当、不思議なきっかけですよね。その頃はちょうど「何かしたい」「変わりたい」って思いがあった時期で、「人生、一度きりだしな」と思って受けてみたんです。一次審査で趣味・特技を聞かれたときには何も出てこず、いきおいで「読書です」と。とてもオーディションを受けにきたとは思えない回答をしたことを覚えています。

 合格したあとは事務所のワークショップに通い始めたんですけど、どうしてもセリフが棒読みになっちゃって、うまくいかなくて。大阪の学校を早退してオーディションを受けに行って、全部落ちる、みたいな日々が続きました。だんだん「落ちに行っている」気持ちになってきて、「この先、真っ暗だな」なんて思っていた時期に、ミュージカル『魔女の宅急便』の主演という、大きなお仕事が決まったんです。初ミュージカル、初主演ということで、基礎の発声練習から始めて、本番に向けて長期間、準備しました。それまでにも、受験とかいろいろ頑張ったことはあったけど、それよりもっと、これまでの人生で一番、頑張った経験に加え、初舞台を乗り越えられたことが、自分のなかですごく自信になりました。

 最初は、何をするにも初めてだらけ。慣れないことばっかりで緊張しましたけど、1つずつ乗り越えて自分の自信にしていく、この仕事はその積み重ねだなって思います。「乗り越えた」という事実を自分でちゃんと見て、「あれもできたから、今回もできるはず」っていうふうに積み重ねていって、今につながっているような感覚ですね。

――初めての大きな仕事が舞台だったこともあり、舞台は「初心に帰ることができる場所」だという福本。コロナ禍の影響でステージから遠ざかっていたが、念願かなっての出演となった『お勢、断行』に刺激を受け、さらに舞台への思いを強くした。一方で、映像作品にも引っ張りだこの日々。今後は、清楚なイメージを一新するような役にもチャレンジしたいという。

 舞台に立つと、自分の原点に戻れる気がします。最近は映像作品に出演させていただく機会も増えましたが、年に一度は絶対、舞台に立ちたい。今回、初めてのストレートプレイを経験できて、すごく刺激になっているので、もっとやってみたいと感じています。  

 朝ドラのオーディションはずっと受け続けているので、いつか出られたらいいなって思っています。最近は、記憶を失うとか、恋人を献身的に支えるとか、少し悲しい役どころが続いたので、ぶっ飛んだ作品もやってみたいですね。『テルマ&ルイーズ』(1991年)みたいな逃避行劇や、ドタバタなロードムービーにも挑戦してみたいです。

 映画、好きなんですよ。撮影中も、早く終わった日には一人で映画館に行って、ソロ活してますね。最近、やっと『フォレスト・ガンプ』(94年)を見たんですけど、めちゃくちゃ面白かったです。

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(写真/中村嘉昭、ヘアメイク/冨永朋子(アルール)、スタイリスト/武久真理江、衣装協力/overlace、mamian、chabi jewelry)

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