2022年4月25日に初回放送を迎えた、神宮寺勇太(King & Prince)の初主演ドラマ『受付のジョー』。自身のプレゼンが採用されてしまい、3カ月以内に受付嬢たちをリストラに追い込まなければならなくなった営業マン・城拓海(ジョー)が、彼女らの仕事を理解すべく「受付のジョー」として受付の仕事に飛び込むが、一筋縄ではいかず……という、コメディータッチのお仕事ドラマだ。ジョーと対立する最年少の受付嬢である家田仁子を演じるのが、注目の若手俳優の田辺桃子。着実に経験を積み上げ、21年4月期には『リコカツ』をはじめ同一クールに3作のドラマに出演。以降も22年4月に公開された映画『とんび』など話題作への出演が続き、作品ごとにまるで異なる表情を見せている。今まさに引っ張りだこの彼女に、役への向き合い方や独自の役作り法、転機となった作品などについて聞いた。

田辺桃子(たなべ・ももこ)
1999年8月21日生まれ。神奈川県出身。2009年から芸能活動を開始、18年『こんな未来は聞いてない!!』にて連続ドラマ初主演。21年にはドラマ8本、映画1本に出演、22年は映画『異物 ー完全版ー「消滅 ーDisappearanceー」』、ドラマ『就活タイムカプセル』にていずれもヒロインを演じている

 『受付のジョー』では老舗広告代理店の受付嬢役なので、正しい姿勢やお辞儀の仕方などには日ごろから気を付けて、体を慣れさせていきました。私が演じる仁子は、明るい性格で少し勝ち気な性格。ジョーくん(神宮寺勇太)とは対立することが多いんですけど、やると決めたことはやり通します。筋が通っていて、責任感の強い女性ですね。私自身も負けず嫌いだし、一度「やってみよう」って決めたことは自分が納得するまでやりたいほうなので、共感できる部分が多かったです。

 セットや衣装もポップですし、コメディーではあるんですけど、「仕事が突然なくなる」という現代にも通ずる悩みや生じる壁を、大事に扱った作品です。受付嬢のみんなが違った悩みを抱えていて、それぞれにフォーカスが当たる回もあります。演じながら、「きっと、このドラマは見ていて元気が出る作品になっていくんだろうな」っていう予感がしました。

 神宮寺さんとは、対立するシーンやお互いの気持ちをぶつけるシーンが多かったので、「こうしたいですけど、どうですかね?」って、お芝居について相談させていただくこともありました。だけどコメディーの要素も大事にしたかったので、お芝居のなかで遊んでみたり、「こうやったら見る方が笑ってくれるんじゃないか」といったことも話たりしましたね。神宮寺さんは、どんなリクエストにもどっしりとかまえて「なんでも来い」っていう感じで受け止めてくださる方で、それでいて、いい意味で適度に力が抜けてらっしゃるんですね。だからこそ私たちキャストは伸び伸びお芝居ができましたし、すごくありがたかったです。現場の雰囲気もすごく良くて、監督はじめスタッフチームからの愛をすごく感じる作品でした。短い撮影期間ながらみんな仲が良かったので、そうした関係性がちょっとした隙間に見えたら面白いんじゃないかなって思います。

 4月に公開された『とんび』では、アキラ(北村匠海)と由美(杏)の娘の美月として、参加させていただきました。美月は、仁子とはまるで違う性格ですよね。天真爛漫(らんまん)で、底抜けにまぶしくて、子どもらしさも残るかわいらしい役でした。大先輩の方が多い現場でも、縮こまるよりは、その場にいられることへの感謝の気持ちが強いです。参加させていただいたのだから、美月をよいキャラクターにできたらいいなっていう思いが大きかったです。

自分の世界が広がった『ゆるキャン△』

――特に2021年以降、注目作への出演が相次ぐ田辺。いずれの作品でも印象を残したが、本人はいまひとつぴんと来ていない様子。キャンプなどのアウトドアの魅力と女子高生の緩やかな日常を絡めて描いた『ゆるキャン△』(20年、21年)での好演やその反響についても「そうみたいですね」と、おっとり笑った。『ゆるキャン△』は転機になった作品の1つと話すが、反響に一喜一憂せず、俳優という仕事と役に、誠実に向き合う姿勢を感じさせる。

 「見たよ」って言っていただくこともありますし、「この作品楽しかったな」とか「これは役作りが難しかったな」っていう思い出ももちろんあるんですけど、どれも「自分が携わった作品の1つ」っていう感覚なんです。少し、鈍感なのかもしれません(笑)。でも放送中は時々、役の名前で反応を調べたりもします。自分が意図していないふうに捉えられていたら、それは修正しないといけないポイントですし、逆に「ここは伝わっているんだ」っていうことも確認できるので、見ると元気をもらえますね。

 『ゆるキャン△』は、「大垣千明」っていうキャラクターのファンやアニメのファン、原作ファンの方が多いですから、そもそものハードルが高かったです。「皆さんが愛する千明を私がやっていいのか」っていうところを、初めて懸念した作品でした。でもドラマ版も受け入れてもらえたのは、まず監督やスタッフの皆さんが原作を愛していたからだと思うんです。30分のドラマに、あれほど丁寧に原作を反映するには根気もエネルギーも使う。そのパッションが「私も本気でやらなければ」というふうに背中を押してくれました。大垣を成立させるための舞台をつくってくださったスタッフの皆さんの存在、他のキャストの皆さんの存在がすごくありがたかったです。それに、大垣役をやって「振り切る」ということを経験したので、ある意味もう何も怖くないなって思えました。自分の可能性を知ったというか、自分ってまだまだできるんだなって、知らなかった世界を広げてもらった作品でしたね。原作を読んでいると、だんだん自分と大垣を錯覚し始めるんですよ。顔も、まねせずとも自然と似てくる。だから、自分の見ている世界を信じればいいって思えたんです。

 作品の前提として「現実世界に彼女たちがいたらどうだろう?」という提案型だったので、「私は、大垣ってこうだと思いますけど、皆さんはいかがですか?」みたいな感じで演じたので、よいコメントをいただけることがすごくうれしかったですね。

――小学校3年生だった09年、スカウトをきっかけにこの世界へ。もともとダンスを習っていたこともあり、アイドルも多く所属するスターダストプロモーション入りはそうした方面への興味もなきにしもあらずだったという。しかし中学生の頃に出合った作品で「役に憑依(ひょうい)する」経験を知って以降、その感覚が忘れられなくなったという。

 本格的にお芝居をやってみたいなって思ったのは、斎藤工さんが監督の『半分ノ世界』(14年)というショートフィルムに出演させていただいたのがきっかけです。撮影自体は短かったんですが、役に憑依するような感覚を初めて知って、忘れられなくなりました。それが、「役に入るってこういうことか」っていうのをつかみ始めた第一歩。この感覚を、偶然じゃなくもっと自分でつかんでみたいと思いましたし、いろんな役柄の様々な人生で化学反応を起こしてみたいなっていう冒険心が生まれました。あの感覚には、今も時々出合います。言葉で伝えるのは難しいんですけど、自分とはまるで違う人生を歩いてきたキャラクターを、自分の身体を通して表現しているとき、台本には書いていない感情が沸き起こったりするんです。それをもっと体験したくて、俳優を続けている気がします。

役の重さに関係なく魅力的な役柄を

――今もこれからも、立ち位置にはこだわらず「役の人生を生きたい」という彼女。「好きだと感じる世界観の作品に携われたら」という将来の夢の話から、「役を生きる」ことの奥深さに話が発展すると、興味深い役作り法について教えてくれた。

 私は、気に入った映画のフライヤーを集めて、部屋に張っているんです。なかでもヒューマンドラマや、色味や光がきれいなアーティスティックな作品が好きなので、そういった自分が好きな世界観の作品に携われたらよいなって思います。最近でいうと、『ユーフォリア/EUPHORIA』(19年~)というゼンデイヤさん主演のドラマがすてきでした。いろんなキャラクターが出てくるんですけど、全員が主役みたいな感じ。誰か1人だけの物語ではなく、いろいろな時系列でいろんなキャラクターの人生が描かれていて、それぞれにのめり込んでしまうんです。私も、主役とか脇役とか関係なく、魅力的な役柄を演じられるようになりたいなって思いました。

 今でも、台本に描かれていないところを考えるのが好きなんです。複数人いるシーンでは、セリフを言わない人や映っていない人間の表情についてト書きには書かれていないことが多いのですが、「この時、この言葉を聞いてこの子はどう思っているのだろう」ということを、演じる側が考えて、やってみることで伏線になったりもすると思うんですよね。見ている方にとって「あの子のあの時の表情って、こういう気持ちだったんだ」みたいに、新しい面白さが増えるといいなって思います。

 役作りでは、役柄によって音楽配信サービスのプレイリストを作ったりもします。「この子だったら、こんな音楽を聴くだろうなぁ」みたいな視点で作るのが好きですね。それを撮影前に聴いて、スイッチを入れます。『受付のジョー』の仁子の場合は、男性のような強気の面もあるということもあって、宮本浩次さんやエレファントカシマシさんの曲が多くなりました。でも、恋もするのでちょっと優しい曲を入れたり、会社のことで「めっちゃ嫌なことがあったけど怒るわけにもいかない」みたいなシーンの前にはバリバリのEDMを入れてみたり。(笑)

 もともと邦ロックが好きなんです。プレイリスト作りでは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONさんの楽曲にけっこう、お世話になっていますね。役の主題歌、挿入歌みたいな感じで選ぶんですが、いろんなキャラクターに合います。

――現在、ハマっているエンタメについても、主人公だけではなく登場人物それぞれにストーリーがあり、魅力があるのだと、彼女らしい視点で語る。「今の時代に元気をもらえる作品」だという。

 最近は『ワールドトリガー』のアニメにハマっていました。もともと、『攻殻機動隊』や『新世紀エヴァンゲリオン』みたいなSF作品が好きなんですけど、たまたま電車の広告で見かけて「そういえば見たことなかったなぁ」と思って、見始めたんです。以前、アニメーション映画『シンドバッド』でご一緒した村中知さんが声優をされているっていうところにも親近感が湧いて。とにかく、嫌なキャラクターがいないんです。ぶつかったりはするけど、お互いに高め合える仲間しかいない世界観が新鮮だなと思いました。主人公はいるんですけど、各隊・各キャラクターに魅力があるから、全部が好きになる。元気が欲しい今だからこそ、すてきな作品だなって感じましたね。

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(写真/中村嘉昭)

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