2022年にさらなる飛躍が予想される、Z世代の期待の新星を取り上げるネクストブレイクファイル。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』にて、川栄李奈演じるヒロイン・ひなたの弟である桃太郎役を好演中の青木柚。思春期から20代にかけての若者のもろさや危うさの演技への評価が高く、映画やドラマへのオファーが途切れない注目株だ。

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青木柚(あおき・ゆず)
2001年2月4日生まれ、神奈川県出身。16年、『14の夜』で映画デビュー。21年の出演作はドラマ『きれいのくに』『プロミス・シンデレラ』、映画『うみべの女の子』(石川瑠華とのW主演)、『MINAMATA』など多数。「柚」という名前は本名で、ゆず風呂の作用にちなみ「周りの人を温かくするように」との願いや、爽やかなイメージや音の響きから名付けられたとのこと

――NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』にて、川栄李奈演じるヒロイン・ひなたの弟である桃太郎役を好演中の青木柚。役作りでは、幼少期役から引き継がれた桃太郎の純粋さを大切にしつつ、思春期ならではの“もろさ”も表現したという。初めて経験した朝ドラで得たもの、新鮮だったという近作の話、信念に共鳴するという同世代のアーティストについて、やわらかな言葉で語った。

 『カムカムエヴリバディ』のお話をいただいたときは、現実味がなかったです。朝ドラへの出演は、役者なら誰しも憧れることですから、「いつかは自分も」という思いはありました。それが20歳でかなって、しかもヒロインの家族の一員になれるなんて……。驚きましたが、うれしかったです。お世話になった学校の先生や友人たちからたくさん連絡をもらって、朝ドラって本当に多くの人に愛されてるんだなって実感しました。21年の夏にお話をいただいたのですが、その前に出ていたNHKのよるドラ『きれいのくに』で丸刈りの役だったんです。桃太郎も高校球児なので頭は丸刈り。なので、NHKでお仕事をさせていただくとき、僕は丸刈りにするんだなって、修行しに行ってる気持ちですね。(笑)

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 撮影は実りのある日々でした。3代にわたる物語の安子編から脈々と受け継がれてきたストーリーなので、スタッフさんの思いもすごく強いんです。そんなスタッフさんに、キャストのみなさんが敬意を持っていて、その姿勢に僕は毎日感動していました。役者として大きな場所に立ってきた方々が、ここまで近い距離で、人との関係を大事に積み重ねているからこそ『カムカム』ってこんなに温かいんだなって。安子編から絶対そうだったんだろうなっていうのは、実際に目にしていなくても分かるし、この姿勢は、自分がこれから大事にすべきものだと思いました。

 深津絵里さん、オダギリジョーさん、川栄李奈さんは、休憩時間もおのおのマイペースに過ごしていらっしゃるんです。でも、ちゃんと大月家としてつながっている感覚があって、その温度感が僕はすごく心地良かったですね。お芝居中も、小さな気持ちのキャッチボールを絶対に受け止めてくれる。何をやっても、この方々なら大丈夫だっていう安心感がありました。

『カムカム』の重要シーンの裏側とは

――『カムカム』の第19週では、幼い頃から知っていたひなたの友人の小夜子(新川優愛)への長年の片思いにやぶれ、自暴自棄となった桃太郎がある行動を起こす。桃太郎の失意をいかにして表現するかは、演出部とよく話し合ったという。「役の心の流れに最も沿った動きをしたい」と語る青木は、役について考える時間を大切にしている。

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 僕は、ひなた編の途中からの合流でした。成長した桃太郎としての登場だったので、彼が生きてきた足跡をどう表現するかは、演出部の方とたくさん話し合いました。純粋なだけじゃなく、強豪校で野球に打ち込んできた、体育会系の猛者感も必要なんじゃないか、とか。それと、思春期真っただ中なので、幼い桃太郎と小夜ちゃんの関係性のままではないだろうなってところも意識しました。桃太郎の恋心はコミカルにも描かれるけど、彼は本気で10年間、好きでいたんだっていう気持ちを大事に演じたかった。あの年齢で、10年も同じ人を思い続けることってそうないじゃないですか。そこを、どう現実感を持って表現できるかっていうことを考えましたね。

 CDプレーヤーを思わず盗んでしまうシーンには、桃太郎にとって小夜ちゃんがどれだけ大きな存在なのかが表れています。もちろん万引きはいけないことだと分かっているけど、心が未熟な桃太郎は、誰かを傷付けたり苦しめたりすることでしか、喪失感を抑えられなかったんじゃないかと思うんです。そうしないと自分がどうにかなってしまうくらいの衝動があって「盗む」っていう行動に出てしまった。だから、手に持ったCDプレーヤーを隠そうとはしない演出なんです。隠すと、万引き自体に目的が生まれてしまう。桃太郎は、CDプレーヤーが欲しかったわけじゃないですから。

 『カムカム』に限らずですけど、役のことを考える時間は大切にしています。「この役はこういう行動をしないんじゃないかな」っていう抜け落ちそうな違和感があるときには、監督や演出家の方に質問や提案をして、話し合って、役の心の流れに最も沿った動きをしたい。作品第一だと考えるからこそ、言われた通りにやるだけではなく、しっかり役と向き合って、意志を持って現場に臨むことが大事だと思っています。思春期ならではの深く悩む役をいただくことが多いので、どうしても自分の心が削れていってしまう瞬間はありますけど、役が悩んでいるんだから自分も悩むのは当然というか、そうならないと誠実じゃないとも思うんです。その役は自分しか演じることができない、そのことへの敬意を忘れちゃいけないと思っています。

 とはいえ、役は重くても、自分の生活をおろそかにしないように心がけています。演じる僕が、どれだけ想像力に富んでいるかも重要ですから、忙しくてもたくさん作品に触れて吸収したり、ちょっと高いイチゴ大福を買ってみたり(笑)。自分を大切にすることも、人として役者として、大事なことだと思っています。

――取材日はちょうど、中村守里とのダブル主演作『まなみ100%』(23年公開予定)のクランクイン前日。3月24日から、バーティカルシアターアプリ・smash.にて『夢の雫と星の花』(YOASOBIの楽曲『あの夢をなぞって』原作小説)が配信されているほか、22年は映画『よだかの片思い』の公開も控えている。

 『よだかの片思い』は『きれいのくに』の撮影の後に撮った作品。松井玲奈さん演じる、顔にあざを持った女性の恋愛や人間関係が繊細に描かれています。あざが自分のアイデンティティーにもたらすもの、当事者にしか分からない悩みや痛みを原作から感じました。世代を問わず、いろんな方に見ていただきたい作品です。僕が演じた原田は、真っすぐだけど頼りない、でも愛らしい役。主人公に好意を寄せている学生なんですけど、人の本質的な部分を見て好きになる、純粋に人を思う気持ちに心を動かされましたし、「その人がその人である」と受け入れられる原田の人間性をすてきだと思いました。個人的に、すごく好きな役です。

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 『夢の雫と星の花』では、上白石萌歌さん演じる女の子との「予知能力を持つ者同士の恋」っていう不思議なお話を演じました。ここまで恋愛を軸にした物語を演じることってあまりなかったように感じるので、すごく新鮮でしたね。

 そして、明日から『まなみ100%』の撮影が始まります。「ボク」という役は、とにかく子どもで、自由奔放。まなみちゃん(中村守里)以外にも、たくさん好きな女の子がいるんです。いろんな女の子に言う「好き」は全部、本物なんですけど、やっぱりまなみちゃんだけは特別な存在で、他の子への「好き」とは違う。まなみちゃんだけは何を考えているか分からなくて、自分のものにならないんです。今までの作品とは全く違う役柄で、楽しくポップな感じ。ワクワクしています。

若さや青さを演じられるのは特権

――俳優としての目標には、これまで培ってきた経験が反映されている。多くの出会いを重ねてきた青木柚が語るからこそ、説得力があった。

 「変わらず変わっていく」っていうことを大事にしていきたいです。変わらず、役の心に寄り添う俳優でありたいし、僕が携わった作品が、誰かのちょっと足りない部分や寂しい部分を埋められる、そういう役者になりたい。そして僕は、もろさや危うさを抱えた役を多く演じてきた分、支えてくださる大人の役者さんに人一倍、出会えている自負があるんです。『カムカム』で出会った深津さん、オダギリさん、川栄さん、『MINAMATA-ミナマタ-』の真田広之さんや加瀬亮さん……本当に、僕はなんでこんなにかっこいい方たち、こんなに尊敬できる大人とご一緒できる機会が多いんだろうって、めちゃめちゃ恵まれてるなって思っています。出会ってきた方にいろんなことを教えていただいた分、僕も、自分だけが何かを成し遂げるのではなく、年下の子たちにもしっかり敬意を持ってコミュニケーションをとって、一緒に良い作品を作っていきたいですね。

 僕は今、若さや青さを演じることが多いんですけど、それはこの年齢だからこその特権だと思っているんです。演じた経験は手放さず、心に大事に抱えながら、大人になる過程に見合った年齢の役にも今後、挑戦できたらいいなって思います。作品の大小ではなく、自分が心動かされるもの、自分が観客として見たときに心満たされるような作品に、1つひとつ真摯に向き合っていきたいですね。

――役の心、見る人の心に寄り添い続けたいと語る青木。最近は、昨年デビューしたダンスボーカルグループの表現に共鳴し、存在に刺激を受けているという。

 最近ハマっているエンタメは「BE:FIRST」さん。思いを話すとめちゃめちゃ長くなっちゃうんですけど(笑)、僕が役者として大事にしてきているものを、音楽で表現しようとしているダンスボーカルグループだなって感じるんです。BE:FIRSTさんだけじゃなく「BMSG」っていうレーベルもそうなんですけど、人の心に寄り添う、人の心を豊かにするエンタメを発信している。同世代で、別の職業でそれを表現するBE:FIRSTさんの存在にすごく刺激を受けてるし、日々助けられています。メンバーもただ楽曲を表現するんじゃなく、おのおのが意志を持って取り組んでいるのを感じるんです。

 もともとSKY-HIさんのライブにも行っていて、SKY-HIさんの言葉にも救われてきたので、オーディションからずっと見てました。勝手にこちらが共鳴してしまっている部分が多いんですけど、この先をもっと見たいって思う、魅力的なグループです。

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(写真/中村嘉昭 ヘアメイク/SUGA NAKATA)