2022年にさらなる飛躍が予想される、Z世代の期待の新星を取り上げるネクストブレイクファイル。2月配信開始の『湯あがりスケッチ』(ひかりTV)で連続ドラマ初主演、3月には「JO1」のメンバー主演で実写化したオムニバス『ショート・プログラム』(Amazon Prime Video)に出演するなど、注目度が急上昇している小川紗良。映画監督と文筆業も加えた“三足のわらじ”を履く、才能豊かな25歳だ。
――2019年、NHK連続テレビ小説『まんぷく』でヒロイン(安藤サクラ)の娘役を演じ、20年に本広克行監督(『踊る大捜査線』シリーズ)の映画『ビューティフルドリーマー』に主演して注目を集めた小川紗良。今年は、あだち充の短編マンガ集を、グローバルボーイズグループ「JO1」のメンバー主演で実写化したオムニバス『ショート・プログラム』(Amazon Prime Video)に出演。文通を絡めたコミカルなラブストーリー『なにがなんだか』で、特殊能力を持つヒロイン・西島さとみを演じている。
私は『タッチ』が大好きで、Tシャツも3、4枚持っているくらい、あだち充先生のファンなんです。お話をいただいたときは、「『あだち充ワールド』のヒロインになれるんだ!」って、すごくうれしかったですね。
主演の木全翔也(JO1)さんは、演技は初めて。しかも他の作品より準備期間が短かったり、撮影期間も音楽番組に出られたりしていてお忙しそうでしたが、そんななかで、本当に全力で演じていて。時間がたつにつれて作品の世界観に入り込んでいく姿を見て、作品に誠実に向き合う方なんだなと感じました。
個人的には私、「ハロー!プロジェクト」が大好きで。ハロプロファンの間で有名なボーカルレッスンの菅井(秀憲)先生が、『PRODUCE 101 JAPAN』(JO1を生んだオーディション)も担当されていたんですよ。撮影の合間に、「菅井先生、どうだった?」と聞くこともできて…満足でした(笑)。
共演の方には舞台系の人が多く、益山(貴司)監督も劇団の方。みなさん動きが大胆で、かなりはじけたお芝居をされていました。私もそこになじめるよう普段より思い切って演じましたが、完成作を見ると、ちゃんと作品の世界観に収まっていて(笑)。自分が思う以上に、思い切ってやってみてもいいんだなという学びがありましたね。
『なにがなんだか』は、木全さんが演じた会社員をはじめ、私が演じた女の子のように超能力を持っている子がいたり、宇宙人を名乗る人がいたりと(笑)、いろんな人生を垣間見ることができる作品。『ショート・プログラム』の作品群で、たぶん一番にぎやかな作品だと思うので、そのわちゃわちゃ感を楽しんでいただけたらうれしいです。
最初に始めたのは文筆活動
――俳優として活躍する一方、早稲田大学で映画を学び、21年には長編初監督作が劇場公開された小川。同年、小説やエッセーも出版して文筆業でも脚光を浴びた。
「三刀流」とか時々言っていただくんですけど、自分の中では肩書やその数にこだわりはなく、すべてが一貫しているというか。目の前のやりたいことをやっていたら、いつの間にかこうなっていました。
文章を書くことは中学生くらいから好きで、高校生のときには雑誌で映画コラムを書いたりしてました。映像作りを始めたのも、高校生のとき。文化祭や体育祭の記録映像を撮るうちに面白いと思うようになって、「大学に入ったら、自分で考えた物語を撮ってみたい」と思うようになったんです。
俳優業を始めたのも高校時代です。ポカリスエットのCMなどを撮っている柳沢翔監督のミュージックビデオ(2014年のウカスカジー『春の歌』)に出演したんです。その現場にはもの作りの熱気が充満していて、作ることも演じることも面白いなと。「この世界でやっていきたい」と思った、最初の瞬間でした。
大学に入学してからは映画サークルに入って映画を作ったり、俳優業や文筆業にも少しずつ力を入れていきました。どれが先に始まったという感覚もなく、すべてが並行しながら進んでいった感じです。
――21年の長編デビュー作『海辺の金魚』は、身寄りのない少女たちの成長を描いたオリジナル脚本作。そのノベライズを自ら手掛けて小説家デビューし、さらにフォトエッセーも発売された。
『海辺の金魚』は、完全に自分発信の企画でした。主演の小川未祐さんは、学生時代に撮った短編に出ていただいた俳優さん。久しぶりに再会したときに、「もう一度映画を撮ろう」という話になりました。そこから大ベテランの山崎裕さん(是枝裕和監督『誰も知らない』、西川美和監督『永い言い訳』)にカメラマンをお願いしたり、プロデューサーをしている大学の先輩に声をかけたり、いろんな人の力を借りて作っていきました。
撮影後、出版社に声を掛けていただいて書いたのが、小説の『海辺の金魚』です。映画は時間やお金などいろんな面で制約がありますが、小説は自分1人で、ひたすらテーマを掘り下げていく。映画を撮った後だったからなおさら、その自由度の高さを感じました。
エッセーは、もともとウェブサイトの「Real Sound」さんでたまに執筆させてもらっていたんです。その編集の方から、「自分が通ってきたカルチャーをエッセーにしませんか?」とお話をいただいて。『海辺の金魚』の小説もそうですけど、コロナ禍で俳優業が停滞して先が見えない時期でしたが、執筆に没頭できたことで救われましたね。
最近はドキュメンタリーに興味も
――今年は2月から配信の『湯あがりスケッチ』(ひかりTV)で連続ドラマ初主演。気鋭の中川龍太郎監督(映画『わたしは光をにぎっている』)の下、銭湯のイラストを描きながら様々な人と交流する主人公・澤井穂波を演じている。
『湯あがりスケッチ』は、イラストレーターの塩谷歩波さんをモデルにした作品です。塩谷さんは銭湯で働きながらイラストを描いて、本を出版。今は銭湯以外のイラストも描かれて、型にとらわれずに、やりたいことをやって生きている方。私も俳優業、文筆業、映像作家といろんなことをやっているので、生き方の価値観が近く、しっくりくる役柄でドラマ初主演ができたことは、すごく幸運でした。
最近、ハマったエンタテインメントですか? 私は、映画はもちろん好きですが、ドキュメンタリーを見るのも好きで。最近は、公開中の『夢見る小学校』が興味深かったです。時間割がない、テストもないという先進的な教育をやっている学校に密着した作品なんですけど、そういう子ども関係のドキュメンタリーがあると、けっこう見に行きます。オススメは、「ポレポレ東中野」というミニシアター。そこでやっているドキュメンタリーは、だいたい好きです。あと私はNHKオンデマンドに入っているので、そこで配信されているドキュメンタリー番組もよく見ますね。
ドキュメンタリーの魅力は、遠いと感じていた人や物事が、グッと身近に感じられること。視野が広がったり、つながったり。いろんな気づきを得られるところが面白いです。
――現在、25歳。映画公開やドラマ主演を経た今、20代後半をどう歩んでいきたいのか。
自分の中では執筆の面白みが大きくなっているので、30代までの期間で、さらに書くことを深めていけたらいいなと思っています。俳優業では、『湯あがりスケッチ』や『ショート・プログラム』のように、自分の価値観や興味にハマる作品と巡り合っていけたらいいなと。そういう作品と出合って、演じられるのは、すごくぜいたくなことだと思うので。
映像制作のほうでは、初めて長編を作って、これからやっていきたいテーマが見えてきたところがあります。その1つが、「子ども」。『海辺の金魚』で子どもたちと関わるなかで、存在の尊さを感じたり、子どもたちがちゃんと守られながらのびのびできる社会であってほしいと考えたりしました。最近は、発達障害とかグレーゾーンといった言葉もよく目にしますが、それは社会がつくった型にたまたまはまらなかっただけで、問題は子どもではなく社会の側にあると思います。子どもたちが型にはめられない世の中になったらいいなと思います。そういうメッセージを、押しつけるのではなく、作品を通して自然と発することができるようになればいいなって。
あと、『海辺の金魚』を撮って、私は少女から大人の女性になる過程での葛藤や揺らぎに興味があるんだと明確になったので、そこも表現していきたいです。ただ、まだまだ至らない部分があることも痛感したので、これから5年、10年かけて、表現者としての力をさらに磨いていきたい。社会に出て年齢を重ねていくなかで、女友達との結びつきが自分を支えてくれているなって思うようになって。女性同士の連帯や絆にも、興味が向いているところです。
(写真/中川容邦、スタイリスト/武久真理江、ヘアメイク/ 矢澤睦美、衣装協力/muller of yoshiokubo)