※日経エンタテインメント! 2022年3月号の記事を再構成

ストリーミングから人気に火がつき、「THE FIRST TAKE」や『ミュージックステーション』に出演。昨年8月5日には地元・大阪城ホールで単独ライブまで開催した3人組ユニット、変態紳士クラブ。彼らの音楽、ファッション、アイデアのルーツに迫った。

変態紳士クラブ(へんたいしんしくらぶ)
ラッパーのWILYWNKA(ウィリーウォンカ・右)とレゲエ・ディージェイのVIGORMAN(ヴィガーマン・左)、プロデューサー/トラックメイカーのGeG(ジージ・中)からなる3人組ジャンルレス・ユニット。2020年に発表した「YOKAZE」は楽曲総再生回数3億回を突破し、ロング大ヒットを記録中。4/27(水)に3rd EP『舌打』をリリース

――メロウなヒップホップチューン『YOKAZE』がストリーミング累計2億回再生の大ヒット。等身大の自分たちのスタイルを貫いてきた、3人組ジャンルレスユニットである変態紳士クラブの、ラッパーWILYWNKA(24)とレゲエ・ディージェイのVIGORMAN(24)に、自らのスタンダードを聞いた。

WILYWNKA(以下、W) 初めて洋楽のヒップホップを意識したのがGユニットで、そこでメンバーの50セントを好きになりました。①『21 Questions feat.Nate Dogg』はトラックがカッコ良すぎて今でもたまに聴く曲です。他だと、ラッパーのキャムロンがジュエルズ・サンタナをフィーチャリングした②『Hey Ma』は曲も最高なんですけど、ミュージックビデオも好きで。その影響でかわいいお姉ちゃんとみんなで騒ぐみたいなスタイルが大好きになっちゃいました(笑)。

VIGORMAN(以下、V) 俺たち出会って10年ぐらいなんですが、中学生の時にタカ(WILYWNKA)の実家に遊びに行って聴いてた曲の中で1番当時の情景が浮かぶのがミスター・カポーン・イーの③『My Homie』。小学校の時はロックバンドがすごく好きで、メタリカやスリップノットなどを聴いてて。ギターを1週間ぐらい触ってすぐ諦めて、中3からレゲエを歌い始めて今に至るんですけどね(笑)。日本のロックバンドだとマキシマム ザホルモンは今でもめっちゃ聴いてます。(ファンの総称である)腹ペコです。④『シミ』が特に好きで、日本ではライブを1番見たいアーティスト。参加条件をライブに設けたりしていて。「パンストをかぶりながら見る」だった時は、メンバーもステージ上でパンストをかぶっていたり(笑)。超真面目にふざけてるんだけど、曲がめちゃくちゃかっこいい。俺らも、変態紳士クラブなんて名前を付けちゃったので、通じるものがあると思っています。

 ソロ曲『ろくでなしの唄』のリミックスを、昨年ラッパーのBRON-KさんとNORIKIYOさんにしてもらったんですけど、原曲のサビはBRON-Kさんの⑤『ROMANTIK CITY』と、NORIKIYOさんの⑥『夜に口笛』のラインを使わせてもらってるんです。俺がレゲエを始めるくらいの時期に、めっちゃ聴いてた日本語ラップというとその2曲で。RCサクセションの➆『雨あがりの夜空に』とボブ・マーリーの⑧『No Woman, No Cry』は俺が小さい頃、寝付けない時に親父がドライブに連れてってくれて、そこでよくかかっていた曲。最近改めて聴いたら超かっこいいなと。

①『21 Questions feat.Nate Dogg』50セント(2003年)
ニューヨーク出身のラッパーの50セントが、R&Bシンガー、ネイト・ドッグをフィーチャリングした、ミニマルなギターのループが印象的なメロウナンバー。03年リリースのアルバム『Get Rich Or Die Tryin'+2』に収録する。

②『Hey ma ft. Juelz Santama』キャムロン(2009年)
ラップグループ、ディプロマッツのリーダーで、ソロでもミリオンセラーを生み出してきたキャムロンは、ニューヨークのハーレム出身のラッパー。今曲は、ジュエルズ・サンタナを客演に迎え、華やかなクラブライフをビビッドな歌詞に乗せて歌う。

③『My Homie』ミスター・カポーン・イー(2006年)
3rdアルバム『Dedicated To The Oldies』(03年)が100万枚以上のセールスとなった、人気チカーノラッパー、ミスター・カポーン・イー。今曲は、ミス・レディ・ピンクスを招いて、極上の掛け合いを見せている。

④『シミ』マキシマム ザ ホルモン(2007年)
1998年に結成した4人組ラウドロックバンドのライブの人気曲。ヘビーなアンサンブルとデスボイス、ドラムのナヲのキャッチーな歌など、多くのフックが盛り込まれている。07年リリースの6thアルバム『ぶっ生き返す』に収録。

⑤『ROMANTIK CITY』BRON-K(2008年)
ラップグループSD JUNKSTAのメンバーである、神奈川県相模原市出身のラッパーBRON-K。今作はクラブでナンパをするのが趣味だった若い頃のことをつづった、BRON-Kのメロディアスなフロウと文学的なリリックが堪能できる代表曲。

⑥『夜に口笛feat.鋼田テフロン』NORIKIYO(2013年)
07年リリースの初のアルバム『EXIT』で高い評価を得たラッパー/トラックメイカーNORIKIYO。ラップグループSDJUNKSTAのリーダーでもある彼が、鋼田テフロンを迎えた『夜に口笛』は、軽快なビートに哀愁ある歌詞を乗せた名曲。

➆『雨あがりの夜空に』RCサクセション(1980年)
忌野清志郎が在籍していたバンド、RCサクセションの名を全国に知らしめた楽曲。女性の比喩として自動車を登場させた歌詞はセクシーさがあり、想像力をかき立てられる。多くのマンガや映画のモチーフにもなっている。

⑧『No Woman, No cry』ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ(1974年)
レゲエの先駆者の1人であるジャマイカ出身のボブ・マーリーが、スラム街での暮らしを歌った代表曲。1974年リリースのアルバム『Natty Dread』に初収録され、75年に発売されたライブバージョンが世界的ヒットとなった。

『青い春』のスタイルに憧れ

W 映画だと、⑨『チャーリーとチョコレート工場』が好きで、何回も見てます。友達ん家で見てる時に、「ジョニー・デップの役名のウィリー・ウォンカってかっこよくない?」と言ったら友達も同意してくれて。軽い気持ちで自分のアーティスト名にしました。⑩『青い春』は野球部の高校生がフェンスを乗り越えて、学ランをさっそうと脱ぐシーンがすごくかっこいい。その高校生のファッションが、襟が少し高い白いロンTをスラックスにタックインして、白い靴下にローファー。それに憧れて、速攻マネして街を歩いてました(笑)。今でもよくやるスタイルです。

 ドラマシリーズの⑪『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』はめちゃくちゃ長いんですけど、シーズン3の後半から、「早く家帰って『ザ・ソプラノズ』見る!」みたいになるくらいハマって。主人公の叔父のアンクル・ジュニアの服装がかっこよくて、その影響でバーガンディが好きになりました。

V ⑫『ナルコス』もマフィアもののドラマシリーズなんですけど、俺の場合、シリーズものって大体途中で挫折しちゃうんです。でも、『ナルコス』は珍しくパブロ・エスコバルが死ぬところまで一気に見れました。スタイリングもかっこいいし、すごくハマって一時期スペイン語のモノマネもしてました(笑)。日本映画で心を揺さぶられたのが⑬『渇き。』。主演の役所広司さんが渋すぎる。さっき話した『ろくでなしの唄』のミュージックビデオにも出演してくれた友人の清水尋也の演技にも心から圧倒されたのを覚えてます。あと、この人が出てたらその映画を見ようと思うのが山田孝之さん。⑭『闇金ウシジマくん』は原作のまんまに、さらにプラスされてる感じですごかった。あと、⑮『新宿スワン』の綾野剛さんも原作を超えてるなって。映画を見た後に原作のマンガを読んだんですけど、白鳥龍彦のセリフを読んでると綾野さんの声が聞こえてくるし、なんなら絵まで綾野さんに見えてきて。尋也も映画『東京リベンジャーズ』で半間修二役を演じてるんですが、「どこまで努力したらここまで役に似るんだろう」と思いましたね。

⑨『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)
ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』を原作に、お菓子の工場内で起きる少年たちの不思議な体験を描いた映画。監督はティム・バートン、主役のジョニー・デップは工場長・ウィリー・ウォンカを演じた。

⑩『青い春』(2002年)
マンガ家・松本大洋の短編集『青い春』を豊田利晃監督が実写化。男子校・朝日高校の不良グループが、屋上の柵の外で何回手を叩けるかを競うゲームを皮切りに、ヒリヒリとした青春を描く。松田龍平、塚本高史、永山瑛太らが出演。

⑪『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(1999~2007年)
HBO制作のアメリカのテレビドラマシリーズ。全6シリーズで完結した。ストレス社会に生きるイタリア系マフィアのボス、アンソニー・ジョン・ソプラノを中心に人間模様を描く。エミー賞に96回ノミネートされ、通算17回受賞。

⑫『ナルコス』(2015~17年)
Netflix制作のオリジナルドラマドラマシリーズ。コロムビアの麻薬王パブロ・エスコバルと麻薬取締捜査官たちの戦いを実話に基づき描く。シーズン3で『ナルコス』は終了。『ナルコス:メキシコ編』にバトンが渡された。Netflixで独占配信中。

⑬『渇き。』(2013年)
役所広司、小松菜奈らが出演する中島哲也監督の映画作品。原作は、深町秋生のミステリー小説『果てしなき渇き』。元刑事が失踪した高校生の娘の調査に乗り出すものの、娘の恐ろしい素顔を知ったことから狂気に取りつかれていく。

⑭『闇金ウシジマくん』(2010年~16年)
真鍋昌平の人気マンガ『闇金ウシジマくん』を実写化。冷酷無比な闇金会社の社長、丑嶋馨を山田孝之が演じ、ドラマは全3シリーズ、映画は全4作制作。加えて、スピンオフショートドラマも制作された人気シリーズ。

⑮『新宿スワン』(2015年)
『東京リベンジャーズ』で知られる和久井健が00年代初頭の歌舞伎町を舞台に、スカウトマン白鳥龍彦の成長と裏社会を描いた同名マンガを原作にした映画。監督は園子温、出演は綾野剛、山田孝之、沢尻エリカ他。

親子で歌ったm-flo

W 僕は小4の頃から、服やスニーカーが好きになったんですけど、TERIYAKI BOYZ(R)が(ア・ベイシング・)エイプの服を着てるのを見て、ストリートファッションになっていきましたね。母親がめっちゃm-floが好きで、カラオケでm-flo loves BoAの⑯『the Love Bug』をよく歌わされてました。俺はVERBALで母ちゃんがBoAのパート(笑)。VERBALのラップは英語と日本語と韓国語が混じってて小学生には難しいんですけど、耳コピで歌ってました。

 高校生の時に、母親に「お前みたいなやつはこれを読んどけ」と言われて読んだのが⑰『夢をかなえるゾウ』。「トイレと玄関を綺麗にしとかないとやばいぞ」など、ちゃんとした人間になるために必要なことを教えてもらいました。⑱『壁を破る言葉』も高校生の時に読んだ本で、歌詞を書く人間としてめっちゃ勇気をもらいました。岡本太郎先生のパンチラインのような言葉は、僕らみたいなやつの背中も押してくれた上に自信を持たせてくれる。小学生の頃からやってるゲームでいうと、⑲『スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)』。機種もゲームキューブ、Wii、Switchと、スマブラと共に人生歩んできてます(笑)。

 マンガだと、僕、卒業式とかでも全然泣けないタイプなんですけど、高校生の頃にローソンで⑳『NARUTO‐ナルト‐』を立ち読みしたら、ぐしゃぐしゃに泣いちゃって。そこから大好きです。

V 『NARUTO‐ナルト‐』は、俺も散々泣いた作品で、どこで泣いたかも細かく覚えてるわ。

――2月20日には初の武道館公演を控える。順調にステージを上げているが、1番大事なのは「自らのスタイルを貫くこと」だという。

V もっとライブ会場を大きくするために、やりたくないことをする必要があるんなら、この規模で十分。そんな俺らについてきてくれる人がまだまだいるなら、もっとデカいところでやりたいですね。地元の大阪には、京セラドームなどもありますし。

W でも、「それ無理やろ」って思うぐらいデカいことを念頭に置いておくと、その手前までは行けるって思ってますね。その手前でもめちゃめちゃすごいところなんで。

V そうやな。全国アリーナツアーやるぞぐらいの勢いでやってたいな。あといつかは、海外でもライブをしたい。「コーチェラ」「ローリング・ラウド」などの音楽フェスにも出れたら感無量です。そのためにはまず日本を席巻できたらと思ってます。

⑯『the Love Bug』m-flo loves BoA(2004年)
☆Taku、VERBAL、LISAの3人組で1998年に結成したm-flo。02年にLISAが一時的に脱退、曲ごとに異なるボーカルを招く“lovesシリーズ”で活動していた際にリリースした16thシングル。BoAを迎えたノリノリのダンスチューンで、m-flo 完全復活を印象付けた。

⑰『夢をかなえるゾウ』水野敬也(2007年)
平凡なサラリーマンが「神様」を名乗る謎の生物・ガネーシャの指南によって自らの人生を変えていく物語。「ガネーシャが与えた課題を実践し、身につくまで継続することが大切である」と謳い、累計400万部を突破する。

⑱『壁を破る言葉』岡本太郎(2005年)
1970年の大阪万博テーマ館「太陽の塔」や「芸術は爆発だ!」などの名言で知られる前衛芸術家の岡本太郎。彼の言葉を集めたベストセラー『強く生きる言葉』に続く第2弾として発売された書籍で、イースト・プレスから刊行されている。

⑲『大乱闘スマッシュブラザーズ』(1999年~)
通称「スマブラ」と呼ばれる、対戦型アクションゲーム。NINTENDO64から始まり、最新作『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』のハードはNintendo Switch。マリオをはじめとしたの任天堂の人気ゲームのキャラクターたちが登場する。

⑳『NARUTO-ナルト-』岸本斉史(1999~2014年)
岸本斉史のマンガ作品で、『週刊少年ジャンプ』にて99年から14年まで連載。全700話で、単行本は全72巻と外伝1巻を刊行。忍同士が超常的な能力を駆使して戦いを繰り広げる。テレビアニメ化され、劇場版も複数公開。

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