※日経エンタテインメント! 2022年3月号の記事を再構成
人気TikTokerの景井ひなを形づくったものを聞くと、お笑い、マンガ、音楽、ドラマ、ファッションなどからバラエティに富んだエンタメ作品が出てきた。
――2019年3月から本格的に投稿を続けるTikTokで、国内女性1位となる1000万人超のフォロワー数を誇る景井ひな。キュートな表情でティーンを中心に支持を獲得する彼女は、TikTokをきっかけに芸能界入りを果たした23歳だ。
20年9月からは女性ファッション誌『LARME』でレギュラーモデルを務め、現在はTikTokクリエーター、モデル、女優と多彩な肩書きで活躍する。そんな彼女はこれまでに何に影響を受けてきたのか。愛する作品などとともに振り返ってもらった。
両親が共働きだったので、幼い頃から1人で家にいる時間が多く、退屈さをまぎらわすため、お笑い番組をよく見ていたんです。熊本県で生まれ育ったんですが、特に土曜のお昼に放送していた『よしもと新喜劇』(1962年~)が好きでした。なかでも辻本茂雄さんが演じる、破天荒なおじいちゃんキャラの“しげじい”がお気に入りでした。あとケーブルテレビで、『8時だョ! 全員集合』(1969年~)の再放送もよく見ていて、早口言葉に挑戦するコントでよく笑っていました。
ファッションでは、小学校時代に読み始めた『Popteen』(1980年~)が現在につながっています。この雑誌をきっかけに「東京ガールズコレクション(TGC)」を知って。幼い頃から「ランウェイ=TGC」と思っていた憧れの場所でした。20年9月に初めて「TGC」へ出演できたのはすごくうれしかったです。同時期に『LARME』のレギュラーモデルにも選んでいただき、いつも撮影にはワクワクしながら取り組んでいます。
マンガからもたくさんの影響を受けました。実家には父親が買っていた少年マンガがたくさんあって、特に『ONE PIECE』(1997年~)が好きですね。登場人物1人ひとりの過去をはじめとした物語すべてが心に響くんです。特に好きなエピソードは、主人公・ルフィの仲間である料理人のサンジが、古巣の海上レストラン「バラティエ」を離れるシーン。お世話になったシェフに「……長い間!!!」「くそお世話になりました!!!」と感謝を伝える場面は、今読んでも胸が熱くなります。
高校卒業後、服飾系の専門学校に通ってからは『僕のヒーローアカデミア』(以下、ヒロアカ、2014年~)にもハマりました。『ヒロアカ』はアニメ化に加え、2・5次元ミュージカルにもなっていて、それも見に行くほどです。登場人物で好きなのは爆豪勝己。アニメでは、のどがつぶれるようなしゃべり方をするキャラクターで、舞台を見に行くまでは「再現をするのは難しいだろうな」と思っていたんです。でも舞台では役者さんが発声までも見事に演じられていて、感動した記憶があります。
K-POPも私の人生を変えてくれた貴重な存在です。周りのお姉ちゃんたちの影響で、保育園の頃から聴いていました。少女時代、KARAなどに触れるなかで、最初にハマったガールズグループが2NE1。かわいい洋服を着てかわいい曲を歌うK-POPアイドルのイメージを覆した存在で、今キーワードになっている「ガールズクラッシュ(女性が惚れる女性)」の走りだったと思います。
お気に入りの曲は『UGLY』(2012年)です。「ムリに明るく笑ってみても可愛くはなれないよ」という歌詞をはじめ、自分らしく生きることの大切さを教えてもらいました。当時、着ている洋服を「奇抜」とか「変だね」と言われることも多かったんですが、自分が好きならそれでもいいと思えるようになりました。
その流れで、2NE1の妹分にあたるBLACKPINKのことも好きに。実は、ファンクラブの入会もかなり早くて、会員番号も3桁台なんです(笑)。好きな曲は『AS IF IT’S YOUR LAST』(2017年)。リリース当時はミュージックビデオに憧れて、髪色をオレンジにしたり、衣装に似た洋服を探し回るほどでした。
分かりやすいオチを意識
――景井がTikTokに出合ったのは専門学校時代。始めてから間もなくして上げたメーク動画が話題となりフォロワー数が急増。その4カ月後には今の事務所から声がかかり、芸能活動が始まった。
TikTokは本当に軽い気持ちで始めたんです。当時TikTok内で流行していた、すっぴんからメークによって大変身する動画を上げたら突然バズって(笑)。それからは楽しくなって毎日投稿するようになりました。それは今でも続いていて、みんなが学校や仕事終わりで見やすい午後7時に必ず投稿しています。
動画へのこだわりの1つとして、「誰が見ても分かりやすいオチをつけること」を意識しています。『よしもと新喜劇』や『8時だョ! 全員集合』の影響なのか、今でもベタでコテコテのお笑いが1番面白いと思っています(笑)。なので、動画の最後にオチとして変顔することにも全く抵抗ありません。
動画の企画に、自分のお気に入りの作品を取り入れることもありますね。好評だったのは、『ヒロアカ』ネタを入れた、「自宅にあるもので簡単コスプレ」という企画。いろんなキャラクターのコスプレをしたんですけど、『ヒロアカ』の登場人物である、麗日お茶子にも挑戦してみたんです。マンガ、アニメ、舞台、私がこれまで見てきた『ヒロアカ』の全ての記憶をたどりつつ、お茶子らしい振る舞いや表情、しぐさを作ることができました。
TikTokにも韓国ブームはすごく来ていて。動画のトレンドに大きな影響を与えています。その点、もともとK-POPが好きだったこともあり、他の人よりも早くトレンドをつかめているかなと思います。韓国コスメを使ったメーク動画もそうですし、新たにデビューしたK-POPグループの楽曲をいち早く使った動画なども意識して上げています。
あと、雑誌のモデルをさせていただくようになってから、全体の見せ方をより意識するようになりました。TikTokをはじめとしたSNSは、どちらかというと自分を見せることが中心になりがちですが、ファッション誌ではまず洋服をメーンに見せないといけない。今は、TikTokの動画やインスタグラムの写真にしても、トータルでどう見えるかを考えながら撮影するようになりました。
「泣くお芝居」を学ぶために
――21年10月期には『顔だけ先生』で民放連続ドラマに初レギュラー出演するなど、最近は女優としても活躍。ドラマや映画などを見て学ぶ機会も増えてきたという。
女優のお仕事もいただけるようになってきたので、映像作品を意識して見るようになりました。今の自分の課題は「泣くお芝居」なので、そういうシーンは食い入るように見ています。鈴木亮平さん主演の医療ドラマ『TOKYOMER~走る緊急救命室~』(2021年)では、最終話で鈴木さんが涙を流すシーンで、「どうしたらこれほどの演技ができるんだろう」と何度も見返しました。
映画『万引き家族』(2018年)の安藤サクラさんの泣きの演技にも心を打たれました。子どもを誘拐した理由を問われる場面で「何でですかね」とつぶやきながら、涙を流すんですけど、悲しさとも違う表情をされていて。「どんな感情を引き出しているんだろう」と考えさせられました。
北乃きいさん主演の連ドラ『ライフ』(2007年)も思い入れのある作品です。事務所に入ったばかりの19年秋頃に、マネジャーさんに「学園モノのドラマも見たほうがいい」と教えてもらいました。いじめがテーマになっていて、「加害者側の1軍女子の役が来たらどう演じればいいんだろう?」と考えながら見ていました。そこから2年後に『顔だけ先生』で、本当に1軍女子の役を演じることになって。学園コメディだったので、テイストは違いましたが、他の生徒をいじる場面では、『ライフ』から学んだ目線の外し方を参考にしました。
今後はもっと自分の演技を深めていきたいですし、他の分野にも挑戦したい。特に大好きなお笑いだと、『世界の果てまでイッテQ!』(日テレ系)の「温泉同好会」のような体を張った企画もやってみたいです! 最近は、小さい頃からの夢を1つひとつかなえられていて、昔からずっと持っていた「洋服を作る」という夢も、近々実現できそうなんです。今の環境が本当にありがたいですし、これから先も、TikTokを中心にいろんなことに取り組んでいきたいなと思います。
(写真/中川容邦)