※日経エンタテインメント! 2022年3月号の記事を再構成

25歳以下のZ世代は、どんなエンタテインメント作品に影響を受けたのか。この特集では活躍中の人たちに話を聞いていく。今回、話を聞いたのは『仮面ライダージオウ』や『約束のネバーランド』などで高い演技力が評価されてきた板垣李光人。20歳ながら独特の空気感を持つ彼は、これまでどんなエンタテインメントに親しんできたのか。

板垣李光人(いたがき・りひと)
2002年1月28日生まれ、山梨県出身。13年から俳優活動を開始。『仮面ライダージオウ』(18年)、映画『約束のネバーランド』(20年)など。連ドラ『カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~』(21年)で初主演を果たした

大河ドラマ『青天を衝け』では、草彅剛演じる徳川慶喜の弟にあたる高貴な徳川昭武役、『ここは今から倫理です。』では、特殊な生い立ちから人との距離感をうまくつかめない男子生徒役を演じ、ラブコメディ『カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~』で連ドラ初主演を果たすなど、21年は振り幅大きく活躍してインパクトを残した板垣李光人。『仮面ライダージオウ』(18年)のウール役や、映画『約束のネバーランド』(20年)のノーマン役などが高く評価されてきた。

 2歳からモデル活動を始め、小学5年生のときに現在の事務所に所属して俳優活動を開始した。早くから芸能の世界に身を置いていた板垣だが、どんなエンタテインメントに心を動かされてきたのか。

小5のときに引き込まれた『リーガル・ハイ』

 最初に思い浮かぶ作品は、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)です。幼稚園とか小学校1、2年生の頃から、本当に何回も見ていた映画で。ティム・バートン監督作品の入り口というか。他のディズニーの作品とは毛色が違って、主人公のジャックも全然いい人じゃない。ジャックは人間ではないですけど(笑)。でも、登場人物がみんな、個人が持つ欲望みたいなところまできちんと描かれているのがすごく好きなところです。ビジュアルとかクリエーティブの面にも心引かれますし。ホーンテッドマンションが「ナイトメア~」仕様になるハロウィンとクリスマスの時期にディズニーランドに行って、何回も乗ったりしましたね。

 ドラマをちゃんと見始めた最初の記憶は、『ROOKIES』(08年)です。小学4、5年生の頃、夕方に再放送していたんですよ。『仮面ライダー電王』(07年)で見ていた佐藤健さんが出演していて、キャストのみなさんカッコよくて。僕は子ども時代からモデルをしてきたんですが、芝居は全然経験がないなか、「こっちのジャンルもやってみたいな」と興味が湧くきっかけになった作品でもあります。

 小学5年生の頃からはいろんなドラマを見始めて、抜群に面白かったのが『リーガル・ハイ』(12年、13年)。やっぱり、主演の堺雅人さんのすごさ。圧も感じるような熱量で、気付いたらドラマの世界に一気に引き込まれる。堺さんの巧みな芝居がとても記憶に残っています。

 『リーガル・ハイ』と同じ古沢良太さん脚本の『コンフィデンスマンJP』(18年~)も大好きです。最初の連ドラが18年で、その頃は僕も俳優活動をしていて、『仮面ライダージオウ』をやっていた時期。長澤まさみさんが、あそこまでコミカルな表現をされるんだということに驚きましたし、深い芝居との振り幅に圧倒された作品です。

しゃれっ気も感じた『来る』

 同じ頃に見た、韓国ドラマの『青い海の伝説』(16年)にも衝撃を受けました。韓国ドラマって、設定からぶっ飛んでるじゃないですか。これもガチの人魚とのラブストーリーだし、クルマがガッシャーン! とか、やることも派手。そういうところがすごく面白い。世界から支持されてますし、自分が日本でエンタテインメントをやっている以上、もっと力を入れられる部分があるんじゃないかとか、勉強になる部分も多いと感じてます。

 映画では『来る』(18年)に刺激を受けました。中島哲也監督作品は、『下妻物語』(04年)を見たときに、「なんておしゃれな映画なんだろう」と思って。僕、ホラー作品は『リング』シリーズ(98年~)の貞子とか、『呪怨』(00年)みたいに実体が出てくるものは苦手なんですけど、そうでなければ割と大丈夫(笑)。『来る』は、最後のほうの祓うシーンとか、冷静に見ると「何やってるんだろう」みたいな気分になるんですけど(笑)、それも含めて、しゃれっ気と真剣さとが一体となっていて、すごくエンタテインメント。映像だけでも楽しめて、ストーリーも面白い。全部が好きな作品でした。

 最近の作品では、ついこの間見た映画『彼女が好きなものは』(21年)が良かったです。山田杏奈さんって、映画『ひらいて』(21年)でもそうでしたけど、特殊な恋愛感情を持つ役をよくやられているんですよね。ちょっと狂気をはらんでいたり、いろんな女の子を演じていて、行動の1つひとつや表情の使い方が素晴らしい。あと、神尾楓珠さんが演じている主人公の安藤君が「たたた」って歩いていって、窓から飛び降りるシーンがあるんですけど、1カットで撮っていて、ゾゾッとしました。劇中で出てくる「摩擦をゼロにして、世界を簡単にしたくない」というテーマも心に響きましたね。

 音楽では、椎名林檎さんのアルバム『日出処(ひいづるところ)』(14年)に収録されている『今』を挙げたいです。両親はカーステレオでかける曲も洋楽で、小学生のときは僕もレディー・ガガが好きだったりして、邦楽には親しんでこなかったんですけど。『日出処』はジャンルの幅が広くて、まず「これを1人で作詞作曲しているんだ」という驚きがありました。なかでも『今』は、クラシック、ロック、ジャズみたいなジャンルのどれにも当てはまらず、日本語がとにかくきれい。歌詞が音と乖離していないというか、言葉が楽器の1つとして曲の中に存在している感じ。椎名さんからは、ファッションも影響を受けました。トータス松本さんとのコラボ曲『目抜き通り』(17年)を出したときに、NHKの音楽番組で歌っていたときの衣装がかわいかったので調べたり。ファッション面での自分のスタイルを確立する入口になったなと思っています。

 本は、昔のいわゆる文豪と呼ばれる人たちの作品をよく読んでいて。その時代特有の情景だったり、世の中の在り方だったりが興味深いし、言葉の並べ方からして面白い。繰り返し読んでいるのは、『江戸川乱歩短篇集』(岩波文庫/08年)です。なかでも『白昼夢』が好き。ある種ファンタジーだけど、リアリティーがあるところに引かれます。僕はイラストを描くのが趣味なんですが、インスピレーションをもらったりしています。[※『白昼夢』は1925年発表の短編]

文化的なものや、芸術性の高いものに対して感度が鋭い印象を受ける。現在は連ドラ『シジュウカラ』(テレ東系)が放送中。40歳の主人公(山口紗弥加)と恋をする、18歳年下の相手役が「色気がある」と評判で、また新たな魅力を発揮している。演技や俳優としての目覚めはいつだったのだろうか。

 芝居って、簡単に言えばフィクションで、嘘なわけじゃないですか。ドラマとかを見始めて、そこからいろんな感動が生まれるのが面白いなと思って、今の事務所に入ったんですけど。割とぬるっと入ったんですよね(笑)。

 だからターニングポイントは昨年で、本当に最近なんです。『ここは今から倫理です。』というドラマで、愛着障害だったり、いろんなものを抱えている役で。作品はフィクションだけど、実際に同じ境遇の方がいらっしゃって、「元気をもらった」とか、「明日からも生きようと思えた」とかの言葉をいただいたときに、自分がもしこの役をやっていなかったら、彼らとこの作品をつなげることはできなかったかもしれないと思ったんです。役者って、人と作品を仲介できる立場にあるじゃないですか。それってすごくうれしいし、特別なこと。自分はそういうことをずっとやっていくんだろうなって、漠然とだけど思ったのが『ここは今から倫理です。』でした。

 『シジュウカラ』は、前半は僕が演じる千秋が、主人公の忍に近づくのに“復讐”が絡んでいるんです。大九明子監督の演出で、思った以上にサイコパスな感じになって、監督から「コワッ」って言われたりして(笑)。子ども時代の過去から、正しい母親の愛をずっと探していて、千秋は22歳ですが、大人になりきれていない。だから今回は普通の恋愛じゃないんですよね。恋愛は5、6割、後は過去ゆえの何か、みたいなところがテーマになってきそうです。

 昨年は大河ドラマ、連ドラでの主演、『ZIP!』(日テレ系)でのパーソナリティーなど、いろいろなことをやらせていただけました。僕はいろんな手段でアウトプットするのが好きなので、今年も挑戦し続けたいです。あとは1月でお酒が飲めるようになったので(笑)、今後、人間関係も充実させられたらいいなと思っています。

(写真/橋本勝美、スタイリスト/稲垣友斗、ヘアメイク/KATO

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