EV時代の新しいクルマの売り方 第9回

世界規模で進む「EVシフト」を背景に、国内の自動車メーカーも電気自動車(EV)の製造に本腰を入れ始めた。それに伴い、販売を担ってきた自動車ディーラーの役割も大きく変わることが予想される。これまで本特集で紹介してきたように、自動車各社がオンライン販売を強化したり、サブスクリプション(定額課金)やシェアリング連携を打ち出したりしているのは、その兆候と言えるだろう。変革を迫られるディーラー生き残りの鍵とは?

激動のEV時代をディーラーはどう生き残りを図るのか(写真はイメージ。写真/Shutterstock)
激動のEV時代をディーラーはどう生き残りを図るのか(写真はイメージ。写真/Shutterstock)

 2016年に開かれたパリ・モーターショーで、ドイツのダイムラーが「CASE(Connected、Autonomous、Sharing、Electricの頭文字を取った造語)戦略」を掲げてから5年以上の月日が流れた。今ではどの自動車メーカーもCASEに関連する技術やサービスの実装に注力している。

 ところが、技術の進歩を喜んでばかりもいられない。CASEのインパクトはあまりに強大で、これまで強固なバリューチェーンを形成していた自動車産業に変革をもたらすものでもあるからだ。

 CASEによる自動車業界の変化は、すでに身近なところで起こっている。例えば、トヨタ自動車の「T-Connect」のように、通信機能を活用したコネクテッドサービスが提供されるようになった。また、ホンダの新型「レジェンド」にはレベル3(※)相当の自動運転機能が実装された。さらに、カーシェアリングの拡大などクルマの利用形態は多様化している。そして、国内の自動車メーカーはここ数年の間にEVの製造へと大きくかじを切った。

※自動運転レベル3:特定の場所でシステムが全ての運転タスクを担う。システムによる運転継続が難しい場合は人間が対応する必要がある。

 そんなCASEによる影響を受けるのが、自動車ディーラーだ。とりわけCASEの「E」の部分、すなわち「電動化」がもたらすインパクトは非常に大きい。従来のガソリン車やハイブリッド車(HV)を中心に扱ってきた販売店にとってみれば、扱うクルマのラインアップが今後大幅に変わることになる。しかも、ただ販売するクルマの種類が増えるだけ、という単純な話ではない。従来のビジネスモデルを転換する必要に迫られているのだ。

EVは販売店にとって売りにくい?

 なぜビジネスモデルを転換する必要があるのか。

 まず触れておきたいのが、EVの量産化とバッテリー価格の低下による影響だ。各社が量産化を進めれば、EVの価格はどんどん下がると予想される。また、EVの価格はその約3割をバッテリーと関連部品が占めるといわれているが、そのバッテリー価格も年々低下傾向にある。三井住友銀行の試算では、2030年度には車両コストと5年間の維持費のトータルコストでEVがHVを逆転する可能性があると指摘されている(「自動車及び関連産業の将来像」、17年12月)。

 将来EVの価格が下がるとはいえ、しばらくは高価なクルマであることに変わりはない。そうなると、問題になるのが自動車ローン販売だ。残価設定ローンの場合、ローン契約が満了した時点の下取り価格を設定して月々の返済額を決める。しかし、EVの場合はバッテリー劣化の問題から下取り価格が低い傾向にあり、3年後や5年後の下取り価格を正確に予測するのは難しい。

 さらに、EVはエンジン車と比べて部品の点数が3分の1程度減少する。コネクテッドサービスやADAS(先進運転支援システム)の搭載で、精密機器の整備需要は高まるとも言えるが、そもそもADASの普及が進めば事故の件数が減り、整備する機会そのものが減る。そのため、ディーラーが主要な役割を担ってきたクルマの整備や修理、車検などの市場は今後縮小する可能性が高く、アフターマーケットで利益を得るのは困難になる。

 以上の点を踏まえると、従来の売り切り型の販売モデルでEVを取り扱うには課題が多く、カーシェアリングやサブスクリプションで提供するスタイルが増加するとみられる。トヨタ自動車が新型EV「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」を、自社グループのKINTO(名古屋市)によるサブスクリプションプランに加える動きは、その潮流に対応した施策と言えるだろう。

 そうなると困るのが、従来のビジネスモデルで営業している自動車ディーラーだ。このまま時代の流れに身を任せていると、リース契約の窓口や精密機器の整備点検という役割に絞られてしまう可能性さえある。さらにWeb上で商談を完結できるオンライン販売が主流になれば、実店舗の存続はいよいよ危うくなる。

 しかし、激変するEV時代においても、販売店が生き残るための突破口は存在する。その突破口とは、「機能の拡張」を果たして「地域社会になくてはならない存在」になることだ。

自動車ディーラー「5つの拡張機能」とは?

 これまでもディーラーは、クルマを提供する窓口として地域社会に欠かせない存在だった。しかし、前述のように従来の販売モデルではいずれ限界がやってくる。今後はこれまでの販売業から新たな業態へとシフトチェンジを行い、より広い範囲で地域社会との接点を持つ必要がある。

 新たな業態へとシフトするには、「5つの拡張機能」を兼ね備えた拠点へとアップデートすることが重要になる。その拡張機能とは何か。1つずつ詳しく解説していこう。

自動車ディーラーが持つべき5つの機能(資料:AMANE/リブ・コンサルティング)
自動車ディーラーが持つべき5つの機能(資料:AMANE/リブ・コンサルティング)

拡張機能(1):モビリティ体験の拠点

 モビリティの楽しさを発見してもらう拠点としてディーラーを活用するのが、1つ目の拡張機能だ。黎明(れいめい)期が続く今後、新型EVや自動運転車に1度は乗ってみたいと思う層は少なからずいる。それらの新型車両のデモや試乗イベントは、既存のディーラーのハードを生かして取り組むことができる。クルマ以外でも、電動キックスケーターなどの小型モビリティを体験できる場として活用することもできるだろう。これらの取り組みは、クルマに乗らない若年層との接点を持つきっかけにもなり得る。

 また、高齢化社会を視野に入れたモビリティ体験を提供することも重要だ。昨今の高齢ドライバーを対象にした事故対策の強化を受け、自動車運転免許証を返納する人は今後も増加していくと思われる。地域社会に不可欠な拠点となるためには、そんな「クルマに乗らなくなった顧客」にも移動サービスを提供する必要がある。

 すでに、近距離を移動する用途の電動車椅子「WHILL(ウィル)」の取り扱いが各自動車ディーラーで拡大しているが、これは免許返納後にも顧客との接点を維持する取り組みとして好例だと言える。

近距離モビリティ「WHILL Model C2」(写真/LIGARE.News)
近距離モビリティ「WHILL Model C2」(写真/LIGARE.News)

拡張機能(2):モビリティとエネルギーのハブ

 地域のインフラとしての役割を強化するのが、2つ目の拡張機能だ。「モビリティハブ」として多様なモビリティをシームレスにつなぎ、移動の選択肢を提供しながら新しいライフスタイルの創出を目指していく。具体的には、オンデマンドバスの乗降所や各種モビリティのシェアポート、ラストワンマイル物流の拠点といった機能が挙げられる。

 実際に、ディーラーがモビリティハブの役割を果たしている事例がある。19年からアイシン精機(現アイシン)らが愛知県豊明市で本格運行を開始し、今では各地に広がっている乗り合い送迎サービス「チョイソコ」だ。

 例えば、群馬県明和町では群馬トヨタ自動車、兵庫県猪名川町ではネッツトヨタ神戸が運営主体として参加。そのほか多くの地域でもトヨタやダイハツ系列のディーラーが「地域の足」の拠点として機能している。

愛知県豊明市で運行する「チョイソコとよあけ」(写真/LIGARE.News)
愛知県豊明市で運行する「チョイソコとよあけ」(写真/LIGARE.News)

 次に、「エネルギーハブ」としての機能については、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の給電スポットを設置することが代表的な例だろう。そのほか、平時はEVをシェアカーなどに利用し、災害時には非常用の「走る蓄電池」として活用する事例がある。さらに、リース期間の満了などにより回収したEVのバッテリーをメンテナンスし、小型モビリティのバッテリーに転用したり、定置型設備の電源に活用したりする研究が一部で始まっている。後者のリユースモデルは、市場規模の縮小が予想されるEV版のアフターマーケットの打開策としてもポテンシャルがあると考えられている。

拡張機能(3):地域の移動や生活に関わるコンシェルジュ

 ディーラーの強みは、地域の顧客データを保有していることだ。データをより高度に利用することができればサービスの幅は広がる。これを具体化したのが、3つ目の拡張機能である「地域の移動や生活に関わるコンシェルジュ」としての役割だ。

 移動や生活に関するデータを基に、顧客とリアルな接点を持つ販売員が、その人に合った総合的なモビリティライフをオーダーメードで提案する。「モビリティ体験の拠点」や「モビリティハブ」の機能が充実しているのであれば、クルマの販売に限らず長期的な視点でサービスを提案することも可能だろう。

 さらに異業種連携を進めることで、付加価値はより高まる。住宅や医療などの専門的なサービスとも連携して、複雑化する生活サービスをまとめて最適なプランを導き出すなど、顧客の生活に深く関わる役割を担うことができれば、「地域社会になくてはならない存在」となれるだろう。

拡張機能(4):地域コミュニティーを活性化する拠点

 「地域になくてはならない存在」となるには、大勢の人が集まる工夫も必要だ。そのために4つ目の拡張機能である「地域コミュニティーの活性化」にも注力したい。コンシェルジュとしての機能と同様に、衣食住の中心に販売店が深く関わることで「地域になくてはならない存在」というポジションを確立していくことが重要だ。

 具体的には、販売店のスペースを活用したイベント開催が挙げられる。すでに地元野菜の即売などを行う地域密着型のマルシェを開催している販売店は存在する。そこにモビリティサービスを掛け合わせれば、さらに独自色の強いイベントが開催できる。

 例えば、イベントの特色にマッチするフードトラックを誘致する、といった方法がある。移動販売車のプラットフォーム「SHOP STOP」を展開するスタートアップ、Mellow(メロウ、東京・千代田)はトヨタカローラ秋田と秋田トヨペットと連携。21年10月から秋田市にある損害保険ジャパンのコールセンターのランチタイムにフードトラックの配車を行っている。今後も秋田市内を中心にさまざまな形態の移動販売車の出店を増やしていく計画だ。

 こうしたフードトラックをはじめとした移動販売車は、企画のコンセプトに応じた柔軟な展開が可能なため、イベントの彩りに一役買ってくれるはずだ。

自動車ディーラーが関わる、秋田市での移動販売車を活用した地方創生モデルのイメージ(画像/Mellow)
自動車ディーラーが関わる、秋田市での移動販売車を活用した地方創生モデルのイメージ(画像/Mellow)

拡張機能(5):データ活用で地域経済を活性化する拠点に

 こうした取り組みを重ねていくと、リアルでもデジタルでも、移動データや顧客データが蓄積してくる。それらを分析し、地域や顧客ごとにパーソナライズされたソリューションを提案できれば、よりディーラーの価値は高まるだろう。そうしたデータ活用を通じ、地域経済の活性化へとつなげていくのが5つ目の拡張機能だ。

 取得したデータを拠点内で活用することはもちろん、地域で活動する事業者の送客支援などにも活用できれば、地域内の経済活性化に寄与しつつ、ディーラーの価値を高めることができる。例えば、先ほど挙げたチョイソコでは、地域の公共施設や小売店などを停留所に設定している。データに基づいて、利用者にとって便利なルート設定ができれば、「地域の足」としての価値は揺るぎないものになるため、参考にしたい事例だ。

「人が集まり、街がつながる」拠点へ

 ここまで紹介してきたように、自動車ディーラー5つの拡張機能はすでに一部で取り組みが始まっている。付け加えておきたいのは、これらの機能は決して独立しているわけではなく、それぞれ並行してシナジーを模索するのが重要になるという点だ。

 モビリティ体験の場となることで顧客が足を運ぶようになり、モビリティを利用するハブとしての価値も高まる。地域の暮らしに寄り添うコンシェルジュがいるからこそ、住民のニーズに合うイベントを企画できるはずだ。人が集まることで、データもどんどん集まり、結果的にサービスの向上にもつながる。

 「ひと・まち・モビリティ」がつながることをテーマに据えて、移動や生活、エネルギーなどあらゆる分野と接点を持つ新たな拠点へとシフトチェンジすることが、今後ディーラーには求められるだろう。

 EVの普及でディーラーが苦境に立たされる可能性は高い。しかし、ディーラーだからこそ実現できることはいくつもある。今後の取り組みに期待したい。

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