EV時代の新しいクルマの売り方 第8回

2022年、約7年ぶりに日本で17社目の自動車メーカーが誕生する見込みだ。その名も、出光タジマEV(東京・千代田)。軽自動車よりも一回り小さい超小型EV(電気自動車)の型式認定を国土交通省に申請中。取得できれば、22年夏ごろをめどにサブスプリクション(定額課金)プランの提供を始める。出光興産が有するサービスステーション(SS、給油所)のネットワークを活用し、超小型EVで「ちょい乗り」需要をつかむ。

出光タジマEVが開発した超小型EVのデザインコンセプト
出光タジマEVが開発した超小型EVのデザインコンセプト

 出光タジマEV(東京・千代田)は、石油大手の出光興産と、レース車両の開発などを手がけるタジマモーターコーポレーション(東京・中野)が2021年4月に設立した。すでに、開発した超小型EVの量産を行うための型式認定を国土交通省に申請中。取得できれば、15年6月に電動3輪車の型式認定を受けた日本エレクトライク(川崎市)以来約7年ぶり、日本では実に17社目の自動車メーカー誕生となる。

 同社が発売する予定の超小型EVのブランド名は「ideta(イデタ)」。20年9月に国交省が発表した超小型モビリティの新規格(型式指定車)に準拠しており、軽自動車よりも一回り小さい車体サイズのEVで、最高時速は60キロメートル以下、高速道路は利用不可となる。街中を低速走行するための必要最小限のスペックで、「ちょい乗り」ニーズに焦点を当てている。

idetaの超小型EVは、全長2500×全幅1300×全高1700ミリメートルの予定。普通駐車場に2台止められるサイズ感ながら、4人乗車が可能。バッテリー容量は10キロワットアワー、最大航続距離は100キロメートル程度
idetaの超小型EVは、全長2500×全幅1300×全高1700ミリメートルの予定。普通駐車場に2台止められるサイズ感ながら、4人乗車が可能。バッテリー容量は10キロワットアワー、最大航続距離は100キロメートル程度

 超小型モビリティの市場には、トヨタ自動車も参戦。2人乗りの超小型EV「C+pod(シーポッド)」をリース専用車両として21年12月から一般向けに販売している。

 idetaの超小型EVも、「売り切り」モデルではない。最短1カ月から利用でき、いつでも解約可能な月数万円のサブスクリプション(定額課金)プランを用意し、カーシェアリングなどの周辺サービスも提供していく。サブスクは当初、企業や自治体向けが中心になる見込みだ。

出光のサービスステーション(SS、給油所)は、旧昭和シェル系も含めて全国に6300カ所展開
出光のサービスステーション(SS、給油所)は、旧昭和シェル系も含めて全国に6300カ所展開

 超小型EVの販売は、オンラインサイトのほか、出光のサービスステーション(SS、給油所)で行う。同社はSSを全国で6300カ所展開しており、一部をEV販売拠点を兼ねる特約店とする。狙いは、脱炭素の潮流が直撃することになるSSの収益多角化だ。

 というのも、新車販売数の落ち込みやエコカーの浸透などを背景に、ピーク時に全国で6万カ所以上あったSSは19年度末に2万9000カ所と半減。出光系列のSSも、かなりの数が閉鎖されてきた。「脱炭素の流れは、今後間違いなく大きくなる。社会インフラとしてのサービスステーションをこれ以上減らさないよう、先行してEVの展開と周辺サービスの提供に取り組んでいく」(出光興産モビリティ戦略室の朝日洋充氏)という。

 もともと車検やメンテナンス機能を持つSSも多くあり、出光のカーリース「オートフラット」も扱う。自動車メーカー・出光タジマEVのディーラーとして機能する潜在能力は十分というわけだ。

 とはいえ、超小型EVは、まだ市場が確立されていない“新ジャンル”のモビリティだ。どのように普及を図るのか。

潜在市場は年間100万台、狙うは「すき間市場」

 「超小型EVの潜在需要は、年間100万台規模と想定している」と朝日氏は言う。軽自動車の国内新車市場は21年で165万台程度だから、かなり強気な見通しだ。

 これまで出光とタジマモーターは、岐阜県飛騨市や高山市、千葉県館山市、南房総市といった地方都市で、超小型EVの実証実験を繰り返し行ってきた。そこで確認された3つのニーズが、年間100万台市場の根拠となっている。

 1つ目は、運転免許証の返納に直面し、運転に不安を覚えながらもクルマに頼らざるを得ない高齢者の移動ニーズが多くあること。2つ目は、運転経験が浅い主婦などが日々の買い物や子供の送迎でクルマを運転することにストレスを抱えていること。そして3つ目が、営業車の1日の移動距離が15キロメートル未満、車両稼働率も20%以下と低いため、営業車の保有コストに不満を持つ企業が多いことだ。これら、既存の移動手段で満たされていない「すき間市場」を出光タジマEVは狙う。

 まず、運転に自信のない高齢者や運転経験が浅い層にとっては、現状の軽自動車すらオーバースペックといえる。その点、必要最低限のスペックに絞ったidetaの超小型EVはうってつけだ。

 一般の駐車場1台分のスペースに2台置けるサイズ感で取り回しがよく、狭い道で対向車とすれ違う際も接触事故の危険を感じることは少ない。100V充電の仕様なので特別な充電設備はいらず、満充電で100キロメートル程度走行できるから、街中をちょい乗りするぶんには問題なく使える。

 また、軽自動車の廉価グレードより装備は充実している。超小型EVはABS(アンチロック・ブレーキ・システム)や衝突被害軽減ブレーキ、横滑り防止装置といった安全機能も標準装備しており、安心して乗ることが可能だ。

 一方、営業車のニーズに対しては、同じく標準装備のコネクテッド機能が重要な役割を果たす。idetaの超小型EVには、車両データ分析のスタートアップ、スマートドライブ(東京・千代田)のドライブレコーダー型車載デバイスが搭載される。この車載デバイスを通してクラウド上に走行データが蓄積され、営業車のリアルタイムの動態管理や走行実績の可視化、運転日報の自動化など、業務効率化につながる車両管理サービスが提供される予定だ。

スマートドライブによる車両管理システムの管理画面の例
スマートドライブによる車両管理システムの管理画面の例

 スマートドライブの車載デバイスは、シガーソケットに挿入するタイプもあり、既存のガソリン車でも使える。例えば、「現状、企業が運用しているガソリン車の走行データをあらかじめ集め、そのうち何台を超小型EVに置き換えられるか、さらには全体の車両台数を何台削減可能かといった提案が可能になる」(朝日氏)。

 EVを導入する企業の動機は当然、脱炭素社会への貢献だ。それには単純にガソリン車をEVへ切り替えるだけでは不十分。本当に必要な台数を見定め、それをフル活用する発想が求められる。いたずらにEVを売るのではなく、脱炭素に向けた企業ニーズをかなえながら超小型EVの普及を目指す――。出光タジマEVが目指すのは、そんなEV時代の新しい売り方だ。

車体への広告ラッピングも検討

 コネクテッド機能は個人ユーザーにとっても、新しいサービスの入り口となり得る。個々人の走行軌跡やパターン、急ハンドル・急加速を検知し、データを蓄積することで、安全運転をサポートすることが可能になる。また、走行データを離れて暮らす家族と共有すれば、高齢ユーザーの運転に不安がないかなど、見守りにも役立つ。

 さらに、走行データから運転スコアを算出できるため、例えば毎月のスコアに応じてポイントを還元するといったことも可能になる。「どういうルートでどこに立ち寄ったのかも分かるので、将来的にはスーパーや商業施設と連携してクーポンを配布し、来店を促すなど、移動を活性化して地域経済を潤すツールにしていきたい」(朝日氏)

 実は、今回サブスクプランで超小型EVを提供する背景には、こうした走行データの活用を見込んでいる事情もある。「個人所有になると、必要なデータの提供を受けられない可能性も出てくる。データはある程度の密度があって初めて役に立つので、それは避けたい」(朝日氏)。もちろん、サブスク契約時に必要な許可を得た上で、走行データを活用する構えだ。

 また、「EVはスマートフォンと同じような充電環境になると思う」と朝日氏。本来、バッテリー残量がゼロになってから充電し、満充電になったら充電をやめるのが理想的だが、多くの人はスマホを使用していない間は常に充電コードに接続している。これがバッテリー劣化を早める原因とされる。

 これが超小型EVでも同じなら、バッテリー劣化による中古車価格の低下は避けられない。それならば、所有より利用してもらったほうが顧客メリットも大きいというわけだ。「新興メーカーとして、経年によるバッテリーの状態変化を把握しておくことも重要。サブスク契約中に不具合があれば、バッテリー交換などの対応もしやすい」(朝日氏)

 そのほか、企業や自治体向けには、オプションで車体のラッピング施工も用意する予定。「環境負荷の低減に貢献していることを地域の人にPRするアイコンとして、超小型EVを活用してもらいたい」(朝日氏)からだ。また、広告として車体にラッピングを施すことも検討している。その場合、広告収入がサブスク契約者に入り、月額負担が軽減される。

企業と個人が使い分ける新型カーシェア

 出光タジマEVは、サブスクと同時にレンタカー型のカーシェアリングサービスも展開していく。企業や自治体が保有する空き駐車場に出光タジマEVが超小型EVを設置。平日は企業や自治体に営業車として貸し出し、休日は周辺住民の“足”として活用されることを目指す。

 一般的な個人向けカーシェアでは、利用ニーズが土日・祝日に集中する半面、平日はほとんど活用されていないことが多い。これでは、カーシェア事業者にとって採算が合うサービスとはなりにくく、利用者は予約できないストレスを抱える。こうした不均衡を解決し、超小型EVをフル稼働させるアイデアだ。

 また、出光が有するSSは駅から離れたロードサイドが中心で、カーシェアの拠点として最適ではないこともある。そこで、駅周辺や住宅街近くの企業や自治体施設の駐車場も開拓していこうというわけだ。サブスク契約者は1つのIDでカーシェアも使えるようにし、例えば自宅周辺は自らの超小型EVで移動し、出先ではカーシェアを利用するといったことを可能にする。

超小型EVを入り口に、SSのモビリティサービス多角化を図っていく
超小型EVを入り口に、SSのモビリティサービス多角化を図っていく

 一方、SSの収益多角化に当たっては超小型EVの販売に加え、すでにSSで扱う出光グリーンパワー(東京・千代田)による再生可能エネルギーの電気代と超小型EVのサブスク料金をセットにしたプランも検討中。個々の超小型EVを蓄電池と見立てた分散型エネルギーシステムの構築や、車両・バッテリーのリサイクルシステムなども視野に入る。

 今後は、3輪EVや2輪EV、EVドローンなど、EVのラインアップも拡大していく予定だ。「出光タジマEVが目指すのは、地域の近距離移動を支えるEVインフラをつくること」と朝日氏。EVとエネルギー産業の親和性は高く、米テスラもEVを出発点にして太陽光発電や蓄電池、電力需給調整システムなどで攻勢をかけている。石油業界という異業種からの超小型EV参入でどこまでちょい乗り需要を開拓できるか、出光タジマEVの手腕が試される。

(写真提供/出光タジマEV)

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