EV時代の新しいクルマの売り方 第4回

韓国の現代自動車が約12年ぶりに日本の乗用車市場へ再参入する。電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)をカーシェアリングサービスの「Anyca(エニカ)」で試乗体験、ネット販売で購入してもらう新たな販売モデルで日本市場の開拓を目指している。Anycaでは、クルマに実質無料で乗れる「0円マイカー」の仕組みも活用し、EV普及にひた走る。

現代自動車が日本で販売を始める電気自動車(EV)の「アイオニック5」=2月、東京・大手町
現代自動車が日本で販売を始める電気自動車(EV)の「アイオニック5」=2月、東京・大手町

 現代自動車の日本法人、ヒョンデ・モビリティ・ジャパン(横浜市)が、日本で発売するのは多目的スポーツ車(SUV)のEV「アイオニック5」とFCV「ネッソ」の2車種だ。価格はアイオニック5が479万~589万円、ネッソが776万円。5月に注文を受け付け、7月からの納車を予定している。

 新車はディーラー店を介して販売するのが一般的。現代自動車も2001年に日本進出した際には国内のディーラー店と契約を結んで販売したが、今回はディーラー網を敷かずにオンライン販売で攻勢をかける。車選びから見積もり、注文などを全てオンライン上で完結できるようにした。

 ヒョンデ・モビリティ・ジャパンで販売を担当する乗用車事業室マネージングダイレクターの加藤成昭氏は、「EVなど新しいものに興味がある層にはオンライン販売という新しい売り方が刺さるはず。オンラインであれば場所や時間を問わずに検討できるなど、ユーザーメリットも大きい」と話す。

車両のグレードやボディーカラー、内装を選択すると総額が表示される
車両のグレードやボディーカラー、内装を選択すると総額が表示される

Amazon感覚でクルマを買える

 アイオニック5、ネッソともに同社のホームページからのみ購入できる。車両のグレードやボディーカラー、内装を選択すると総額が表示される仕組みだ。ユーザーの選択したグレードやカラーに合わせて中央の車両イメージが変化する。

 ユーザーが選びやすいよう、カスタマイズできる項目はあえて減らした。「選択肢を増やしすぎてもかえってユーザーは困ってしまう。基本的な装備は標準搭載にした」(加藤氏)

 決済も同サイト内で完結できる。現在、現金もしくはカードの一括払いやローン、リース契約を用意している。希望すれば自宅まで配送してくれるため、家から一歩も出ずに納車可能だ。サイト内では契約した車の配送状況を確認が取れる。アマゾンで商品購入をしているような感覚で車を購入できる。

 12年ぶりの再参入となるため、日本でのブランド認知度向上も課題となる。2月19日から5月28日までJR原宿駅前にポップアップストア「Hyundai House Harajyuku(ヒョンデハウス原宿)」を開設した。

 アイオニック5とネッソの実車展示や先進運転支援システム(ADAS)などの搭載されている新技術を、スクリーンを使って実際に体験できるコーナーを設置している。東京都府中市から来た小野晃弘さんは「展示がおしゃれで驚いた。現代自動車に抱くイメージが非常に良くなった。車両もシンプルなデザインでかっこいい」と話す。事前予約すればアイオニック5に試乗もできる。予約は現代自動車のサイトから行える。

 22年内には常設施設を横浜市内に設置する。モデル車の展示や試乗体験を行える予定だ。加藤氏は日本におけるEV市場について「脱炭素社会への流れを受け、EVへの関心は高まっている。次の車の買い替えの際、EVが選択肢に入っている人は多いはずだ」と語る。

期間限定店舗では販売前のEV「アイオニック5」の試乗もできる(東京・原宿のヒョンデ ハウス 原宿)
期間限定店舗では販売前のEV「アイオニック5」の試乗もできる(東京・原宿のヒョンデ ハウス 原宿)

充電設備の課題解決に「0円マイカー」活用

 特集第1回で紹介したように、ヒョンデはオンライン販売に徹するにあたって、ディー・エヌ・エー(DeNA)とSOMPOホールディングスの共同出資会社、DeNA SOMPO Mobility(東京・渋谷)とタッグを組んだ。

▼関連記事(第1回) 自動車マーケ「3つの新潮流」 メルカリ慣れした若者のEV購入法は

 同社が展開するカーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」と連携し、有償での試乗サービスを展開。5月の発売に先駆けて、2月からアイオニック5とネッソをエニカで試乗できるようにしている。また、アイオニック5とネッソの日本販売が始まれば、エニカの個人間単位のカーシェアサービスも活用する。アイオニック5やネッソのオーナーがエニカで車両をシェアし、それを利用したユーザーが車両購入した場合、ヒョンデが双方にインセンティブを支払う仕組みを導入する予定だ。

 エニカ側も新車購入の後押し策を立てている。同サービスではユーザーデータから車両ごとのシェアで受け取れる収入を予測し、同社サイトで表示している。例えば、トヨタ自動車の「アルファード」は東京23区内の場合、月額で平均3万7000円の収入が予測されるという。

 データが集まれば、アイオニック5やネッソで得られるシェア収入予測を顧客の居住エリアに応じて算出可能になる。このシェア収入予測を現代自動車のオンライン販売サイトで表示することも検討しているようだ。そうなれば、高額なネット決済となるEV購入のハードルは大きく下げられるだろう。

 DeNA SOMPO Mobility社長の馬場光氏は、「シェア収入を車両維持費の一部に充てるユーザーは多い。あらかじめシェア収入が予測できれば、車両価格の高いEV購入の後押しになり得る」と話す。

 また、エニカでは乗車後、利用者に対して車両自体の感想についてアンケートを取っている。実際に乗ってみたユーザーの生の声を同社は数十万件蓄積している。こうしたリアルな口コミもオンライン販売では武器となり得る。アマゾンや楽天市場などでレビューを商品購入の参考にする人は少なくない。エニカのレビューを参考にしながらオンラインで車を買うといった新たな買い方も広がるかもしれない。

 ガソリン車と比べてEVを運転した経験のある人は少ない。そのため、EVの購入を検討する際、ユーザーは車両で試してみたいことが多く、試乗も長くなる傾向があるようだ。例えば、エニカで貸し出しが始まったアイオニック5を利用したユーザーの多くが、充電スタンドを試しに使っているといったデータも出ている。

 DeNA SOMPO Mobilityは新車購入にエニカを活用するサービスを現代自動車以外にも広げていく。馬場氏は「エニカを使えばいろいろな車種の試乗ができる環境にしたいと考えている。エニカ1つで様々な車を試乗できれば、メーカー単体ではできない独自の取り組みになる」と話す。

 また、EVをシェアカーとして管理する際、ネックとなるのが充電設備だ。充電設備付きの駐車場であればシェア時間外に車を充電でき、よりスムーズに貸し借りができる。しかし、日本にはまだ充電設備が整った駐車場が少ない。

 そこで実は、DeNA SOMPO Mobilityは空き駐車場を提供してくれるユーザーに対して、充電設備の無料設置やアイオニック5の条件付き貸し出しを行っている。駐車場を提供してくれたユーザーに対して、エニカで使えるポイントを月額の賃料と前月のエニカでの売り上げに応じて還元する。

「0円マイカー」のオーナーは駐車場代と前月の実績に応じてポイントを付与され、その範囲内なら実質無料でクルマを使える
「0円マイカー」のオーナーは駐車場代と前月の実績に応じてポイントを付与され、その範囲内なら実質無料でクルマを使える

 DeNA SOMPO Mobilityは、駐車場を提供してもらう代わりにカーシェア用車両を貸し出すサービス「0円マイカー」を19年から導入している。駐車場を提供してくれたユーザーに対して駐車場の料金分と前月のエニカでのシェア収入に応じてポイントを付与。オーナーはポイント分だけ実質無料で車を使える仕組みだ。充電器付きの駐車場の確保のため、0円マイカーの仕組みを活用した形だ。

 そのほか、DeNA SOMPO Mobilityはディーラー店の試乗車をエニカ内で貸し出すサービスも提供している。すでにアウディやトヨタなどのディーラー約100店舗の試乗車を200台ほど展開。ユーザーはエニカで予約した後、ディーラー店で車を受け取れる。例えば、アウディ豊洲では「AUDI TTクーペ」を1日1万5000円(保険料別)で借りられる。

 ディーラー店にとっては購入可能性が高いユーザーを呼び込めるほか、有償で貸し出すため、試乗車のコストを削減できるなどのメリットもあるようだ。同社は今後こうした取り組みを他のディーラー店でも広げていきたいとしている。

 EVをめぐっては、米テスラが2月にEV「モデル3」の価格を400万円台まで大幅値下げし、日産自動車は3月から500万円台のEV「アリア」を発売するなど、日本でもEVを巡る競争は激しさを増そうとしている。オンライン販売に絞ったヒョンデ・モビリティ・ジャパンの戦略が日本の消費者に受け入れられるか。また、タッグを組むエニカとの取り組みが強力な後押しとなるか、EVの新しい売り方の試金石ともなる。

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 ヒョンデ・モビリティ・ジャパンで販売の陣頭指揮を執る加藤成昭氏に、日本市場での戦略を聞いた。

ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの加藤成昭氏
ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの加藤成昭氏

――約12年ぶりに日本市場に参入します。

 09年に日本から撤退して以来、米国や中国、欧州を中心に展開してきた。グローバル化を重視する上で、世界第3位の市場規模を持つ日本への再参入は必要だと考え、3年前から日本での市場調査を行ってきた。

――オンラインのみの販売を採用した理由は。

 前回の失敗の原因の1つがユーザーとのコミュニケーション不足だということが市場調査でわかった。ユーザーとコミュニケーションを密に取るため、オンラインでの直販という形を選んだ。ディーラー店の場合、直接説明を受けられるなどのメリットがある半面、時間や場所を制約されるといったデメリットもあると見ている。IDを作れば好きなタイミングで、試乗や納車ができてアフターサービスまで受けられるというオンラインのシステムは便利だ。システム開発にかなりの費用を投じたが、必要な機能になってくる。

――エニカで試乗体験できるようにしました。

 エニカは豊富なユーザーを抱えているため、我々が営業してもリーチでできない層に乗ってもらえる。EVやFCVを知らない人と接点を持てる。カーシェアというサービスは、ユーザーに対して自由な車の利用機会を持って欲しいという当社の考えとも合致する。

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