EV時代の新しいクルマの売り方 第3回

日産自動車は新型電気自動車(EV)「アリア」の販売に当たってデジタル戦略を強化。主軸の会員サイトは実車に近いクオリティーで、アリアの細部まで確認できるバーチャルコンテンツが充実している。会員サイトから予約注文に至ったCVR(コンバージョン率)は、予約注文サイトへの直接訪問者に比べて約3倍になっているという。

アリアの会員サイトは、バーチャルコンテンツが充実している
アリアの会員サイトは、バーチャルコンテンツが充実している

 2021年11月、日産自動車は26年度までの5年間で電気自動車(EV)など電動車の開発に2兆円を投資すると発表した。30年度までに世界で販売する新車のうち、EVとハイブリッド車(HV)の販売比率を5割に引き上げる。

 改めて「EVシフト」を鮮明にした日産の先陣を担うのが、フラッグシップEV「アリア」だ。21年6月から予約注文限定モデルの「アリア リミテッド」の予約を受け始め、標準グレード「B6」の注文受け付けも11月から始まっている(「B6 limited」は受け付け終了)。

 アリア リミテッドの車両本体価格は660万~約790万円と、既存の日産EV「リーフ」(同約333万~約500万円)に比べて高価格帯だ。それにもかかわらず、21年11月時点で約6800台もの予約受注を獲得している。21年の日本でのEV販売数は約2万台なので、出足は好調だ。「予約注文者の年齢層は40代、50代が想定以上に多く、日産全体に比べて比較的若い層にリーチできている」(日産自動車の日本マーケティング本部チーフマーケティングマネージャー 柳信秀氏)という。

2022年3月10日からアリアの納車が始まった。写真は、第1号車のオーナーとなった、千葉県在住の中村真司氏夫妻。災害に備えて蓄電池の購入を検討していた際にアリアと出合い、ひと目ぼれしたという
2022年3月10日からアリアの納車が始まった。写真は、第1号車のオーナーとなった、千葉県在住の中村真司氏夫妻。災害に備えて蓄電池の購入を検討していた際にアリアと出合い、ひと目ぼれしたという

 アリアの好調を支えた要因の一つは、予約注文の開始と同時にスタートしたデジタル戦略にある。21年6月に中核となる会員サイトの「CLUB ARIYA(クラブアリア)」を立ち上げ、11月末からはアリアの商談や購入契約、支払いの申し込みまでオンラインで完結するサービスを開始している。

 従来、クルマを買うにはディーラーに行って試乗し、商談するというリアルなプロセスを何度も踏むことが必須だった。しかし現在は、新型コロナウイルス禍による非接触のニーズも重なり、ディーラーに行くハードルが上がっている。「ネット上でもっと気軽にクルマを理解したい、相談したいという声が出てきている。そのため、アリアの登場に合わせて手薄だったオンラインを強化した」と、日産自動車Japan-ASEANデジタルトランスフォーメーション部部長の山口稔彦氏は話す。

 デジタル活用の効果は、すでに見えてきている。例えば、クラブアリアと従来の車種紹介ページを比較すると、クラブアリア経由のほうが見積もりシミュレーターに遷移する割合が約8倍も多いという。会員サイトを訪れた見込み客の購入意欲を刺激する役割を担っているわけだ。どのような工夫があるのか。

会員サイトはリアル店舗を超える?

 現在、クラブアリアの国内会員数は2万人を超える規模になっている。会員メニューは「VIRTUAL ARIYA(バーチャルアリア)」「THE ARIYA MAGAZINE(ザ・アリア・マガジン)」「ARIYA CONCIERGE(アリアコンシェルジュ)」など、主に3つある。

クラブアリアのサイト画面。チャットでの相談も可能
クラブアリアのサイト画面。チャットでの相談も可能

 最も目を引くのが、バーチャルアリアだ。精緻な3Dモデルで再現したアリアの外観や内装を様々な角度から確認できるうえ、グレードやカラーも1クリックで切り替えられる。デジタル上でドアを開くことも、気になる部分をアップにして装備の詳細を確認することも可能だ。内装画面では、イグニッションキーをクリックして始動時の挙動が見られるほか、シートに座った際の視界もイメージできるようになっている。

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