EV時代の新しい「クルマの売り方」 第2回

トヨタ自動車は、2022年半ばに発売する初の量産電気自動車(EV)「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」をグループのKINTO(名古屋市)によるサブスクリプション(定額課金)プランで販売する。なぜトヨタはKINTOに白羽の矢を立てたのか。

トヨタ自動車が22年に発売する「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」
トヨタ自動車が22年に発売する「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」

 KINTOが提供する「KINTO ONE」は、車両本体価格に加え、自動車保険や自動車税、メンテナンス料など諸費用込みの月額定額料金で、トヨタ自動車の新車に乗れるサービスだ。3年、5年、7年契約で利用でき、手数料を支払えば契約満了前に別の車種に乗り換えられる「のりかえGO」というサービスも用意する。

 2019年2月に東京でトライアルを始め、7月に全国展開。当初は苦戦を強いられたが、22年1月末時点の累計申込件数は約3万2000件に達した。これは20年12月末に比べ、2.5倍以上の実績となる。申し込みの実に約7割がネット経由で、残りはトヨタ系ディーラーによる販売。自動車メーカー各社が強化しているオンライン販売の先行事例と言っていい存在だ。

KINTOのホームページ
KINTOのホームページ

 そんなKINTOに白羽の矢を立てたのが、トヨタ自動車が満を持して発売する新型電気自動車(EV)「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」の販売。早ければ、22年5~6月にもKINTOのサブスクリプションプランで売り出すもようだ。

 「KINTOはクルマの利用中も顧客と長期間つながり続け、継続的に付加価値を提供していくことを大事にしている。バッテリー劣化に対する不安などを抱えるEVユーザーと密にコミュニケーションを取り、安心してEVに乗れる環境をつくっていきたい」(KINTO総合企画部部長の布川康之氏)という。

 EVは現状、中古車市場に出回る数が少なく、バッテリーの劣化でリセールバリューも低いとされるため、あえて所有するのではなく、サブスクで利用することは顧客メリットにもつながる。現在、プランの内容を精査している段階だが、「トヨタ自動車や販売店と協力して、充電周りのケアもできるよう検討していきたい」(布川氏)という。

 実はこのほかにも、KINTOがEV販売に適している3つの要素がある。若年層、新規ユーザーを開拓する力と、EV時代と親和性の高い「わりかんKINTO」「KINTOファクトリー」という新たなサービスを始めていることだ。

仲間内でサブスク利用を割り勘、負担軽減へ

 マーケティングリサーチ会社のGfK Japan(東京・中野)が21年に公開した米国の調査によると、新車購入を考えている米国のY世代(1980年代から90年代生まれ)とZ世代(1990年代から2000年代生まれ)のうち、26%が「新車購入やリースをするならば、EVテクノロジー搭載が必須条件」と回答している。全年代では15%が必須条件としており、Y世代とZ世代がとりわけ関心の高い世代であることが分かる結果だ。今後、日本でのEV販売においても、若年層を取り込む視点が重要となるだろう。

 その点、すでにKINTOは実績を残している。約3万2000件の申込者数のうち、20代、30代が占める割合は4割超。そして、KINTO利用以前に「クルマの保有なし」と「トヨタ車以外保有」を含めて6割超に上る。日本自動車工業会の「2019年度乗用車市場調査」によれば、クルマの購入者は20代以下と30代で約2割、保有なしが約1割なので、その違いは明らかだ。

 要因として考えられるのは、デジタルネーティブの若年層にとって、諸費用込みの分かりやすい料金体系を含め、ネットでクルマを契約することは大きなストレスになっていないことが挙げられる。また、「低い保険等級から始まる若年層は任意保険料が高くなるが、KINTO ONEの場合はKINTOの団体保険を適用しており、保険料を安く抑えられる」(布川氏)ため、若い人ほどコストメリットも生まれる。先述した通り、充電周りなどEVならではの不安を和らげるプランが提案されれば、若年層にも響く可能性は高い。

「わりかんKINTO」のアプリ画面。KINTO契約者を中心にした仲間同士で、個人間カーシェアリングができる
「わりかんKINTO」のアプリ画面。KINTO契約者を中心にした仲間同士で、個人間カーシェアリングができる

 EV販売に先行して21年9月に提供を始めた「わりかんKINTO」も強力な一手となり得る。これは、KINTO契約者とその家族や仲間同士で月額利用料の割り勘をサポートするアプリ。DeNA SOMPO Mobility(東京・渋谷)が展開する「Anyca(エニカ)」のように不特定多数の会員にシェアできわけではないが、KINTO契約者が共同使用する人を10人まで招待できる。仲間内限定の個人間カーシェアだ。

 アプリでは、集まった人同士でKINTO契約者が負担している利用料を均等分割する、あるいは利用時間や走行距離に応じて負担額を配分するなどの設定が可能。クルマの予約や、走行データ、運転スコアといった利用実績の管理、チャットもアプリでできる。KINTO契約者への支払いは参加者同士で別途行う必要はあるが、自動車保険はKINTO契約料金に含まれており、個人間カーシェアの手数料もかからない。

 現状のわりかんKINTOアプリは約500ダウンロードと少数派だが、例えば趣味性の高いスポーツカーを複数の仲間で利用することや、シェアハウスの住民同士で1台のクルマを活用するといった使い方ができる。

 この仕組みがEV販売にとってプラスになるのは、仲間と共同利用することでKINTO契約者の月額負担を抑えられるからだ。ガソリン車より車両価格が高いEV購入のハードルを下げられる。また、Anycaとヒョンデ・モビリティ・ジャパン(横浜市)が狙うように、EVに関心がある人や購入をためらっている層に対しては、KINTO契約者がより濃い関係性の中でEVの良しあしを伝えるインフルエンサーにもなり得る。例えば、ディーラーが仲介する形でKINTO契約者とEVの購入検討者をつなげるといったことも可能だろう。

 「わりかんKINTOには、運転パフォーマンスで高いスコアを記録して『グッドドライバー』などのバッジを獲得すると、『わりかんアプリポイント』がもらえるゲーム機能も実装している。今後は、EVに即した環境ポイントを付与することなども考えられる」(布川氏)

ドライバーに合わせて「乗り味」をパーソナライズ

 もう一つ、注目したいのが、22年1月28日から始めた「KINTOファクトリー」だ。クルマは購入後、すぐに“陳腐化”が始まるものだが、購入後の技術革新や経年劣化に合わせてソフトウエア、ハードウエアの機能やアイテムの追加をネットで申し込みできるようにした。

 KINTO契約者を含むトヨタ・レクサスの対象の8車種を保有する人などが利用可能。現状、施工の対応は東京都内と浜松市の29店舗に限られるが、「今後需要を見ながら車種や店舗を拡大していく予定」(布川氏)だ。

 例えば、「アルファード」「ヴェルファイア」のハイブリッド車(HV)向けには、ブレーキをかける際の急激な揺れを抑えてクルマに乗る人の快適性を向上させる「なめらかブレーキ」をソフトウエアの書き換えで反映できるようにした。また、「パーキングサポートブレーキ(静止物)」といった最新の安全装備の後付けや、シート表皮、クッション部分の取り換えなどの内装リフォームができる。

「なめらかブレーキ」にアップグレードすることが可能に
「なめらかブレーキ」にアップグレードすることが可能に

 bZ4X がKINTOファクトリーの対象車となるかは未定だ。しかし、このサービスの発想がEVと相性がいいことは言うまでもない。「技術進化の日進月歩の度合いは、黎明(れいめい)期のEVのほうが大きい」(布川氏)からだ。

 bZ4Xの場合、最新の予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」とカーナビなどのマルチメディアシステムは、性能向上のためのソフトウエアアップデートがネットを介して可能という。仮に7年契約のサブスクで利用するなら、これ以外の機能も格段に進化しているかもしれない。

 実際、EV最大手の米テスラはネットを介したソフトウエアのアップデートにより、自動運転機能や、走行距離を延ばすためのバッテリー・空調制御、音声認識によるワイパー制御など、さまざまな進化を反映させてきた。「KINTOファクトリーのソフトウエアのメニューは、将来的に1回ごとの購入だけでなく、サブスク形式にする方向性も考えている」(布川氏)という。

KINTO専用車の「GRヤリス “モリゾウセレクション”」。「モリゾウ」はトヨタ自動車社長の豊田章男氏のレーシングネーム
KINTO専用車の「GRヤリス “モリゾウセレクション”」。「モリゾウ」はトヨタ自動車社長の豊田章男氏のレーシングネーム

 さらにKINTOは、顧客の運転データを基に最適な乗り味をソフトウエアで実現する「パーソナライズ」にも取り組んでいる。第1弾は、21年6月に発売されたKINTO専用車「GRヤリス “モリゾウセレクション”」の契約者が対象で、22年4月から提供を始める。

 KINTOは同車の契約者向けに全国のサーキットで数カ月に一度、有料の体験イベントを開催。参加した契約者が所定のコースを運転し、アクセルやブレーキの踏み方、ステアリングの切り方などの運転データを収集する。

 KINTOは、それをプロドライバーの運転データと比較し、顧客ごとの運転の特徴や傾向を分析。顧客が目指す運転イメージとすり合わせ、ステアリングの重さや四駆の前後配分、アクセルの応答性の変更などをソフトウエアの書き換えで最適化していく。21年11月に試験的に行った体験イベントでは、参加者から「同じクルマの挙動がここまで変わるのか」と驚きの声が上がったという。

 こうした乗り味の変化を個々人が実感できるサービスがEVにも展開されれば、差別化要因になる。ガソリン車より機構が簡素化されているEVは、ともすれば「バッテリーとモーターがあれば誰でも造れる」といった“誤解”を生み、クルマの運転性能の違いに対する意識が希薄になりがちだ。

 そうした中、EVの付加サービスとしてパーソナライズされた乗り味が手に入るとなったら、従来からのクルマ好きをもうならせられるだろう。KINTOにとっても、サブスク契約の継続率を高め、LTV(顧客生涯価値)を最大化していく有効な手段となる。トヨタとKINTOがどこまで踏み込むのか、注目していきたい。

(写真提供/トヨタ自動車、KINTO)

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