続・メタバースで変わるビジネス 第3回

メタバース空間で商品を販売する「メタバースコマース(以下、メタコマース)」が、リアル店舗、EC(電子商取引)に次ぐ第3の“売り方”として浸透し始めている。メタコマースには、アバター向けデジタル商品とリアル商品のセット販売と、リアル店舗との連係も視野に入れたバーチャル店舗の2つの潮流が見えてきた。

2021年12月4日~19日、世界最大級のVR(仮想現実)イベント「バーチャルマーケット2021」が開催され、小売企業ではローソン、ビームス(東京・渋谷)、大丸松坂屋百貨店などが参加した。画像は、パラリアル秋葉原(「パラレルワールド<並行世界>」と「リアル<現実世界>」を合わせた造語。現実世界の秋葉原の街並みを、メタバース空間内に精巧に再現)の様子
2021年12月4日~19日、世界最大級のVR(仮想現実)イベント「バーチャルマーケット2021」が開催され、小売企業ではローソン、ビームス(東京・渋谷)、大丸松坂屋百貨店などが参加した。画像は、パラリアル秋葉原(「パラレルワールド<並行世界>」と「リアル<現実世界>」を合わせた造語。現実世界の秋葉原の街並みを、メタバース空間内に精巧に再現)の様子

メタバースコマース、2つの新潮流

 国内の小売企業が、続々とメタバースコマース(以下、メタコマース)参入を始めている。先行する海外では、リアルの販売実績を超える動きも出始めている。

 2021年5月、デイリーアクティブユーザー数(DAU)4950万人(21年12月末時点)を抱えるオンラインゲーミング・プラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」内で、Gucciの「ディオニュソス」シリーズのバーチャルバッグが、4115ドル(約45万3400円)で購入された。

 バーチャルバッグは、昨今話題になっているNFT(非代替性トークン)アイテムでも、実際のバッグと交換できるオプションを付与されていたわけでもない。ただアバターがわずかな時間身に着けられるバーチャルアイテムだったのにもかかわらず、同シリーズのリアルの販売価格である3400ドル(約37万4700円)を大きく上回った。

 17年に公開された米エピックゲームズのバトルロイヤルゲーム「Fortnite(フォートナイト)」では、スキン(アバターの外見を変えるアイテム)の年間販売額が日本円にして3000億~5000億円にもなるといわれており、有名高級ファッションブランドの売り上げをしのぐ規模となっている。

 こうした現象について、米国の最新テクノロジーニュースをPodcastなどで配信するOff Topicを運営し、2万5000フォロワーを超える個人のTwitterアカウントでも日々メタバース関連の話題を解説している宮武徹郎氏は、メタコマースを考える上で「すごく重要なポイント」だと指摘する。「いわゆるリアルな世界だと人は毎日着替える。同様の習慣がデジタル上でも行われ始めている」(宮武氏)からだ。

 もはやメタコマースは一過性のトレンドではなく、リアル店舗、ECに次ぐ第3の売り場として確立しつつあるのだ。

 そんな中メタコマースを取り巻く、2つの面白い潮流に注目したい。1つは、アバター用のデジタル商品とプレーヤーが実際に使うリアル商品のセット販売。もう1つが、バーチャル店舗のエンターテインメント化だ。

リアルとアバターのセット買いを促す「GET BOTH」

 まず1つ目の潮流として注目したいのは、デジタル商品とリアル商品の同時販売だ。繊維専門商社の豊島(名古屋市)は、3Dアバター制作ソリューション「AVATARIUM(アバタリウム)」の開発・提供を行うPocketRD(東京・渋谷)と協業し、「GET BOTH(ゲット・ボース)」「BOTH BUY(ボース・バイ)」(※共に商標出願中)というメタバース時代の新しい売り方を模索している。

 これらは豊島が提供する、衣料品のパターンデータを3Dモデリングする技術「VIRTUAL CLOTHING」と、自身の外見をベースにアバターを制作できるAVATARIUMを活用することで、アバターに着せる服と、実際の人間が着用できる衣服を同時制作・販売するというもの。22年5月、大手アパレル企業による第1弾の事例が公開される予定だ。具体的な商品点数は不明だが、順次数を増やしながら、相当数がアバター用のデジタル衣服としても提供される予定だという。

「GET BOTH」の仕組み。豊島の資料を基に編集部で作成
「GET BOTH」の仕組み。豊島の資料を基に編集部で作成

 GET BOTHプロジェクトを開始した背景について、PocketRDの代表である籾倉宏哉氏は、従来あった課題感を説明する。

 「メタバースでは、アバターを通じて“なりたい自分”を手に入れることが重要。それを実現するために服は主要なテーマになると考えていた。しかし3Dスキャンと服は相性が悪く、透け感や、ひらひらした素材感などの表現は難しい。従来はそれらを表現するために、商品を3Dスキャンしてから手作業で加工を施さなければいけなかった」

 服のデジタルデータさえあればアバターの特徴点と合わせることで、アバターも自由に着せ替えを楽しめるようになる。そう確信していた籾倉氏は、さまざまなアパレルメーカーと話し合う中で、21年4月、「VIRTUAL CLOTHING」の技術を持つ豊島のデザイン企画室室長 渡辺哲祥氏と出会い、意気投合。程なくGET BOTHプロジェクトが始まった。

モデルが着用したリアルな服(左)とデジタルデータ(右)。ほとんど見分けがつかないほど精巧な作りだ
モデルが着用したリアルな服(左)とデジタルデータ(右)。ほとんど見分けがつかないほど精巧な作りだ

 バーチャル空間におけるデジタル衣服の売り方は、「いろいろなパターンが考えられる」と渡辺氏は言う。ブランドごとにバーチャル店舗を用意したり、ショッピングモールのように複数ブランドがまとまったバーチャル百貨店で販売したりすることもあるだろう。もしくは、先行してアバターにデジタル衣服を販売する「D2A(ダイレクト・トゥ・アバター、アバターへの直接販売)」から、リアルの販売につなげる「メタバースファースト」な売り方に発展する可能性もある。そこはリアル同様、ブランドの世界観を尊重しながら進めていく。

 いずれにしても目指すのは、アバターとリアルの人間が同時に衣服を購入し、共に着せ替えを楽しむGET BOTHの世界観だ。

 このGET BOTHの仕組みは、企業の利用にとどまらない。リアルの衣服を作る技術はないが、デジタル衣服の制作ならできるという個人クリエイターにも間口を広げる可能性がある。他にも既存のデジタル衣服を組み合わせたバーチャルコーディネートを提案し、人気を博すインフルエンサーが誕生することもあり得そうだ。

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