
バーチャルスタジアムで3DCGのサッカー選手が縦横無尽に走り回り、世界中からファンがアバターとなって応援に駆け付ける――。ソニーグループがプロサッカーチームと描く、未来の姿だ。メタバースがバズワードとなる前からXR(VR、AR、MRなどの総称)領域にアプローチするソニー。なぜ今スポーツに着目したのかを探ると、メタバース普及のヒントが見えてきた。
メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、マイクロソフト、ウォルト・ディズニー、ナイキ……。名だたる海外企業がメタバース市場への本格参戦を進める中、実はメタバースというバズワードを自らは公言しないまでも、虎視眈々(たんたん)とメタバース時代の到来に向けて準備を進める企業がある。ソニーグループだ。
遡ること2016年には、傘下のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がVR(仮想現実)ヘッドセット「PlayStation VR」を発売。VR時代を切り開くべく、歩を進めた。そして現在は、次世代モデル「PlayStation VR2」の開発を進め、22年2月には最終デザインイメージを公開。それだけではなく、ソニーグループは「両目8K(片目4K)」の超高解像度VRヘッドセットも開発中であると発表するなど、ハードウエアの準備を着々と進めている。
また、100台以上のカメラで実在の人物や対象物を撮影し、3DCG化するボリュメトリックスタジオを20年に開設。ボリュメトリックキャプチャは、人間(の動き)をメタバース空間に“転写”できるものとして、メタバース時代の重要な技術としても注目を集めている。
さらに、同グループの出資先を見ても、メタバース時代を見据えていることが分かる。特集第1回でも紹介したバトルロイヤルゲーム「フォートナイト」を展開する米エピックゲームズにソニーグループとして巨額投資を実施。動画配信やオンラインゲームと同時に活用されることも多いコミュニケーションツール「ディスコード」を展開する米ディスコードにも、SIEが資金を投じている。加えて、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)であるSony Innovation Fund(SIF)を通じて、バーチャル空間プラットフォーム「XR CLOUD」を展開するmonoAI technology(神戸市)への出資を22年1月に公表するなど活発だ。
加えて同社は、ゲームや映画、音楽などのコンテンツにも強い。強力なIP作品を多数保有しており、当然、ゲームや映画製作などで培った3Dコンテンツの開発能力もある。ハードとソフトの両面で、メタバース時代に必要なアセットの構築が進んでいると考えられる。
そんな中、注目したいのが、ソニーグループが21年11月30日に発表した「マンチェスター・シティ・フットボール・クラブ(以下、マンチェスター・シティ)との『オフィシャル・バーチャル・ファンエンゲージメント・パートナーシップ契約』の締結」だ。
「本実証実験は、仮想空間上の新たなファンコミュニティの実現を目的としています。具体的には、マンチェスター・シティのホームスタジアムであるエティハド・スタジアム(英国・マンチェスター)を仮想空間上にリアルに再現します。選手やチームを身近に感じることができ、またファン同士が交流できる仮想空間ならではの体験価値を創出します。」(21年11月30日に公開したソニーのプレスリリースより抜粋)
リリースにこそ“メタバース”という言葉は使われていないが、仮想空間にスタジアムをつくり、同時に多数の人々が自由にカスタマイズ可能なアバターで集まり、交流をしていく。まさにメタバースの“拠点”として期待できるものだ。
ソニーがスポーツでメタバースに挑む2つの理由
なぜ、ソニーはスポーツに注目したのか。その背景を探ると、メタバース普及のヒントが見えてきた。ポイントは2つある。
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