今回は、2023年1月(23年1月1~31日)における中国スタートアップ資金調達額トップ10の中から選出した3社と、同期間で287件に達した投資対象企業の中から選んだ、注目したい中国スタートアップ2社を紹介する。

雲南省玉渓市にある20万トンの生産能力を有するリチウムイオン電池負極材生産プロジェクトの様子(画像は坤天新能源のニュースリリースから)
雲南省玉渓市にある20万トンの生産能力を有するリチウムイオン電池負極材生産プロジェクトの様子(画像は坤天新能源のニュースリリースから)
中国スタートアップ資金調達額トップ10(2023年1月)
2023年1月(23年1月1~31日)における中国企業による資金調達件数は計287件で、推定総額約803億元(約1兆5714億円)の資金調達が行われた。資金調達額の多い順にランキングした。(出所/匠新)
2023年1月(23年1月1~31日)における中国企業による資金調達件数は計287件で、推定総額約803億元(約1兆5714億円)の資金調達が行われた。資金調達額の多い順にランキングした。(出所/匠新)

1月の資金調達額から注目すべき中国スタートアップ5社

(1)リチウムイオン電池用負極材の研究開発企業「坤天新能源(KUNTIAN New Technology)」

 坤天新能源(KUNTIAN New Technology)は2023年1月の資金調達額ランキングで第1位に立つ。18年5月設立の中国スタートアップ企業で、中国初の人造負極材黒鉛化加工企業だ。また、中国で初めてチャンバー(箱型)炉の技術を習得し、チャンバー炉を黒鉛化する際の不均質性問題を解決したメーカーでもある。同社は23年1月20日にPre IPOで20億元(約391億4000万円)の資金調達に成功した。今回の投資では、中国国有石油大手「中国石油化工(シノペック)」傘下の中国石化資本(SINOPEC CAPITAL)、韓国SKグループ傘下のSK中国と中国トップクラスの建設機械メーカーである三一集団(SANY Group)などが参加している。同社は、今回の資金調達を受けて、雲南省における20万トンのリチウム電池負極材を一体化生産する能力の拡張を進めていく方針だ。

 坤天新能源の負極材料は、リチウムイオン電池の重要な原材料の1つであり、黒鉛を含む炭素材料とシリコン系負極材料を含む非炭素材料に大別される。現在、リチウムイオン電池には、炭素材料の1つである黒鉛材が多く使われている。その黒鉛材のうち、人造黒鉛材は、エネルギー密度が高いほか、電池の充電回数毎の電池特性であるサイクル特性に優れている。同時に、膨張率が低いなどの特徴を有しており、総じて天然黒鉛よりメリットが多い。実際に、21年の中国における負極材料の出荷量においては、天然黒鉛は14%にすぎないのに対し、人造黒鉛が84%を占めている。

河北省石家荘市にある坤天新能源本社の写真(画像は坤天新能源のニュースリリースから)
河北省石家荘市にある坤天新能源本社の写真(画像は坤天新能源のニュースリリースから)

 注目したいのは、坤天新能源独自の負極材料を使ったチャンバー炉黒鉛化技術だ。チャンバー炉黒鉛化技術は、従来のルツボ炉黒鉛化技術と比較して、大幅な省エネ効果とコストメリットを有する。先進製造領域に特化した投資銀行「万創投資銀行(Inno Investment Bank)」の研究データによれば、人造黒鉛の製造コストの55%は黒鉛化となっており、同時に黒鉛化コストの60%は電力費用となっている。同社のチャンバー炉黒鉛化技術は、従来のルツボ炉黒鉛化技術より電力消費量を50%節約可能で、負極材生産1万トン当たり7500キロワットの電力消費量を節約することができる。

エネルギー貯蔵用電池黒鉛負極材料(左)、動力用電池黒鉛負極材料(中)、消費用小型電池用黒鉛負極材料(右)(画像は坤天新能源のニュースリリースから)
エネルギー貯蔵用電池黒鉛負極材料(左)、動力用電池黒鉛負極材料(中)、消費用小型電池用黒鉛負極材料(右)(画像は坤天新能源のニュースリリースから)

 坤天新能源は、19年に研究開発センターとバッテリーセルのテストラインを建設して以来、3000平方メートルの研究実験室のほか、研究設備と多数の研究員を構えるに至っている。現時点で申請済みの国家特許技術は、合計50近くにおよぶという。同社は26年までに、人造黒鉛負極材、ハードカーボン負極材、シリコンカーボン負極材などの最先端負極材開発を含む、新エネルギー負極材研究基地を設立する予定だ。

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