直近1週間(今回は2022年3月21日~3月27日)の中国スタートアップ投資は、投資件数と総額はともに平均と比べて少なかった。投資件数では「企業向けサービス」「先進製造」「医療健康」の業界が全体の大部分を占め、一方で投資額では、巨額投資が実行された「自動車交通」「金融」業界がトップ2となった。特に注目に値するスタートアップは、自動運転技術開発会社の文遠知行である。
投資件数および投資金額はともに少なめに
直近1週間(2022年3月21日~3月27日)の中国企業による資金調達件数は計86件で、推定総額約105億4000万元(約2021億5720万円)の資金調達が行われた。直近1週間と週平均に換算した直近1年(21年3月28日~22年3月27日)のデータを比較すると、直近1週間の投資件数は34.5件少なく、投資金額は28.7%の減少となった。一方で投資1件当たりの投資額は6190万元(約11億8724万円)少なく、率にして33.6%も減少した。よって、直近1週間は直近1年間と比べ、先週と同様に投資件数および投資額ともに少ない結果となった。
次に、直近1週間および直近1年間における各業界の投資件数を見てみる。
「企業向けサービス」が投資件数トップに
直近1週間および直近1年間における各業界の投資件数を見ると、直近1週間で全体的に件数が多かった業界は、多い順に「企業向けサービス」「先進製造」「医療健康」で、それぞれ計19件、17件、15件となった。これら上位3位の業界の投資件数の合計は51件で、全体の59.3%を占めた。直近1年間と同様に、この3つは要注目の業界となっている。
また、直近1年間の投資と比べると、直近1週間では「企業向けサービス」が最上位になっている点に特徴がある。「企業向けサービス」は直近1年間では3位であったところ、直近1週間では1位となっている。
「企業向けサービス」の領域で資金を調達した企業をリストアップして、その中身を見てみる。
まず、投資された額が大きかった企業は3社あり、それぞれ数億元(約数十億円)となっている。その3社のうち2社は「データサービス」領域となっており、直近1週間では、特にデータサービスに投資が集中したことがうかがえる。
次にサブ業界を見てみると、最も件数が多かったのは「ITサービス」で、19件中5件となった。その次に多かったのは「データサービス」「デジタル化ソリューション」「先端技術」で、それぞれ3件ずつとなった。「ITサービス」以外では、投資対象となるサブ業界は分散した格好になった。
ステージを見てみると、上位3社は、どれもミドルステージ以降の企業が名を連ねている。全体のステージを見ると、シードステージおよびアーリーステージでの投資が19件中14件となっており、上位3社を除くと初期の成長段階にある企業に投資が集中していることが読み取れる。
では次に、投資件数ではなく、各業界への投資額を見てみる。
「自動車交通」「金融」に投資が集まった
投資額は上位5業界に集中した。額が多い順に「自動車交通」「金融」「企業向けサービス」「先進製造」「医療健康」で、それぞれ27億1000万元(約519億7780万円)、20億5000万元(約393億1900万円)、17億1000万元(約327億9780万円)、14億6000万元(約280億280万円)、13億1000万元(約251億2580万円)となった。この上位5業界への投資額は合計して約92億4000万元(約1765億3272万円)となり、全体の約88%と大きな割合を占めた。
直近1年間の週平均と比較すると、特に直近1週間で目立ったのは、「自動車交通」と「金融」だ。「自動車交通」は直近1年間の平均で3位のところ直近1週間では1位で、投資額は9000万元(約17億2620万円)少ないものの、投資額全体に占める割合では12.7%から25.7%と、13ポイントも増えた。「金融」は、直近1年間と比較して唯一投資額が大きく上回った業界だ。投資額は6億9000万元(約132億3420万円)多く、投資額全体に占める割合でも6.2%から19.4%と、13.2ポイントも増えた。自動車交通と金融という2つの業界について詳しく見ていく。
まず、「自動車交通」の領域で資金を調達した企業をリストアップし、中身を見てみる。
投資額を見てみると、「レベル4」(特定条件下での完全自動運転が可能)自動運転ソリューションを提供する「文遠知行」が4億ドル(約480億円)もの資金調達に成功しており、「自動車交通」領域全体の投資額を大きく引っ張ている。同社についての詳細は後述する。その他で投資されたサブ業界には、「交通・移動手段」「コネクテッドカー」「自動車部品」の3つがあった。
次は、「金融」の領域で資金を調達した企業をリストアップし、中身を見てみる。
金融業界においても巨額投資が見られた。生命保険を提供する「中韓人寿」が、戦略投資のステージで18億2000万元(約360億3600万円)の資金調達に成功しており、この1社が「金融」の投資額を大きく引っ張った。中韓人寿への戦略投資は、中国の政策として進められている上海市、浙江省、江蘇省など16都市を含む「長三角地区」の一体化戦略を踏まえ、その取り組みに保険の機能を提供していく点が評価されてのこと。つまり、国の後押しが巨額投資を生み出している。次にステージを見てみると、4件のうち3件が戦略投資のステージであり、金融業界は全体的に、事業提携が主な投資目的になっていることに特徴がある。
次に投資ステージの視点でも、全体を比較してみる。
直近1週間の投資では、アーリーステージ(シリーズ:Pre-A、A、A+を含む)への投資が最も多く、計34件の投資が行われた。次に多かったのはシードステージへの投資で計21件となっている。その次にミドルステージ(シリーズ:Pre-B、B、B+を含む)の13件、戦略投資の16件、最後にレイターステージ(シリーズ:C以降から上場前まで)は2件となった。
直近1週間を直近1年間と比較すると、直近1週間では、シードステージとアーリーステージが全体に占める割合が大きく、一方でミドルステージとレイターステージは小さい。従って、直近1週間では初期の成長段階にある企業に投資が集まったと見ることができる。
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