
マーケティング本部長の松山一雄氏が語る「SD2.0」の後編(前編は第5回)。アサヒビールがスーパードライなどに駆使する「ブランドの基本設計図」を公開する。加えて、消費者の情緒ニーズを明らかにするための調査ソリューション「NeedScope」も紹介。新スーパードライの進むべき道から、アサヒビールのマーケティングの全貌まで明らかにしていく。
▼前編(第5回)はこちら アサヒビールCMOが2年前に書いたメモ P&G時代の大失敗を糧にアサヒビールは今、ブランディングに際して「ブランドパーパス」「コンシューマーインサイト」「機能価値」「情緒価値」を明確に定めている(それぞれの説明は第1回の記事で紹介)。この方針は、松山氏がアサヒビールに入社してから一貫して行われるようになったものだ。
新スーパードライの「ブランドラダー」づくりには約半年を要した。なぜ、ここまで時間と労力をかけて行うのか。松山氏に問うと、「ラダーはブランドにおける“憲法”」だからだという。ブランドで憲法を定めることはすなわち、「このブランドで何をしていいのか」「どこまでなら変えていいのか」を線引きし、ジャッジするための礎をつくるということ。逆に言うと、憲法がなければリニューアルもままならないということになる。
▼関連記事 「SD2.0計画」の全貌 老朽化した“日本最強ブランド”を立て直せ松山氏が持つ、ブランドの基本設計図がある。まずは誰に、何を、どのように、という「Who/What/How」。マーケティングの基本の部分であり、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、4P(Product、Price、Place、Promotion)などはここに含まれる。ただ、これらはあくまでもブランドの必要条件であり、これだけで十分にブランドの意義性や差別性を確立できる時代ではなくなってきている、と松山氏は言う。
そこで重要なのが、ブランドの存在意義=パーパスを示す「Why」だ。なぜこのブランドは世の中に存在するのか、していいのか。「強いブランドは、この存在意義を明確に定義している」(松山氏)。ここに、ブランドに対する気持ちが変わるきっかけ、消費者がブランドを好きになってくれるきっかけである「インサイト」が加わる。松山氏は、「インサイトは態度変容の鍵」と位置付ける。「入社してからマーケティング本部で、消費者インサイトを深掘りして見つけることがマーケターにとってのミッションだ、と徹底的に伝えてきた」(松山氏)。ここまでがブランドラダーに入れる部分だ。
そしてもう一つ、ラダーには入れていないが重要だと話すのが「モーメント」。言い換えると「ブランド体験」で、この理想の瞬間が重なるとその体験が素晴らしいものになる、というもの。第5回記事の冒頭で松山氏が語った、「難しい仕事が終わった後に仲間と飲むスーパードライ」、これもモーメントだ。このフレームワークに沿って、ブランドの管理を行っている。
人の頭の中を6色に分割
インサイトから決めるのか、パーパスから決めるのか。これは商品の特性によってさまざまだという。ただいずれにせよ、その前の作業としてあるのが「ポジショニング」の決定だ。アサヒはこれまで「機能価値」寄りだったが、ここ最近は「情緒価値」を重視したポジショニングに軸足を置いている。スーパードライでいえば、機能価値は「辛口」「飲みごたえ」「キレ」といったスペック的な部分、対して情緒価値は「自分らしく生きている実感」「気持ち高まる瞬間」というものだ。
なぜ情緒価値が大事なのか。消費者は「辛口だから飲みたい」「キレがあるから飲みたい」などと論理的な思考だけでスーパードライを選んでいるわけではない。喜びや悲しみなどの喜怒哀楽に加え、「あの楽しかった瞬間にこれを飲んでいた」「飲むことで自分をクールに見せたい」といったさまざまな感情で商品を選んでいる。クルマや時計などの高級ブランドを考えると、イメージしやすいかもしれない。
この情緒価値を重視するうえで、松山氏が頼りにしているツールがある。英調査会社カンターの調査ソリューション「NeedScope(ニードスコープ)」だ。ブランドがどのポジショニングを取ればいいのか、消費者の情緒的側面を明らかにしていくツールで、特徴は人の情緒を6つに色分けしている点だ。
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