
「SD2.0」の一大プロジェクトを率いるのが、アサヒビール専務兼マーケティング本部長の松山一雄氏。松山氏の手元には、2020年の夏に書かれたメモがあった。「スーパードライ リバイタリゼーション」とはどのようなものだったのか。P&G時代の大失敗などを基に、フルリニューアルの要諦を語ってもらった(第5回が前編、第6回が後編)。
P&Gなどでマーケティング畑を渡り歩き、2018年、アサヒビールで32年ぶりの外部から起用された取締役として着任。そしていきなり、メガブランド「スーパードライ」をフルリニューアルするという重責を担ったのが、アサヒビール 専務取締役 兼 専務執行役員 マーケティング本部長の松山一雄氏だ。巨大ブランドとどう向き合い、どう変えていくのか。まずは松山氏とスーパードライの出合いからひもといていこう。
スーパードライが産声を上げた1987年。松山氏は最初の会社、鹿島建設でマレーシアに赴任していた。当時はマーケティング部門ではなく経理や財務を担当、決算があるたびに日本に出張していたという。
一時帰国時に初めて飲んだスーパードライに、とにかく驚いた。「ものすごいイノベーティブな商品だったし、ビールの固定概念を覆したという意味ではものすごいインパクトがあった。当時はバブルでもあり、他社も追随したドライブームの熱狂は今でも忘れられない」(松山氏)。
アサヒビール 専務取締役 兼 専務執行役員 マーケティング本部長
そこから30年以上たち、P&Gなどでマーケティングの研鑽(けんさん)を積み、松山氏はアサヒビールに入社を決めた。しかし、もう当時のスーパードライの輝きは失われていた。「あれほどワクワクしてすごく心揺さぶられたビールだったのに、今やド定番中のド定番。老朽化して、悪く言うと、日本で一番ありふれたビールに見えていた」と、赤裸々に語る。
一方で明確な強みも見えていた。一消費者として、アサヒ入社前の松山氏が一番飲んでいたのもスーパードライ。銘柄やメーカーにこだわりはなかったものの、それでも10本中3~4本は飲んでいたという。食中酒として食事を引き立て、脂っこいものだけでなく白身魚の刺し身のような繊細な料理にも合う。そして何より、仕事を何か成し遂げてみんなでガーッと飲むぞと言うとき、松山氏が選んでいたビールは常にスーパードライだった。「ネガティブなポイントとストロングポイントを併せ持っている」(松山氏)。長所はそのままに、弱点を補えば光明はまだある。そんな期待はあった。
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